戦って、戦って、戦い抜いて

ジャングルへと逃げ込んだ秋生しゅうせいを、アメリカ軍は執拗に狙った。ジャングルに隠れた日本兵の恐ろしさについては、すでに周知の事実だったからだ。


そしてそれを知らしめるように、ジャングルに潜んだ秋生は、一人、また一人とアメリカ軍兵士を屠っていった。


もっとも、この場合は、日本軍兵士が恐ろしいというよりは、相手がウェアウルフだったからなのだろうが。


アメリカ軍による捜索は二週間に及んだそうだ。


さくらはその間ずっとそれを見ていたわけではない。何度かに分けて夢を見たのだが、捜索に当たっていたアメリカ軍兵士達の<愚痴>から、過ぎた日数が推測されただけである。


「もう二週間だぜ…俺達みんな、ジャップのゾンビに殺されちまうんじゃねえのか……?」


そう泣き言を漏らした兵士に、あのジョンという曹長が、


「泣き言を口にしてる暇があったら奴を探せ! 奴がいくらしぶとくても、我らアメリカ軍すべてを相手にできるわけがない! 物理的な勝敗の前にハートで負けるな!」


そう言って叱責した直後に、彼の直感が働いたらしい。反射的に振り向いて銃を放った先に、彼に向かって飛び掛かろうとした秋生の体があった。


「撃て! 撃て! 撃てぇっっ!!」


無数の銃弾を受けても立ち上がり、秋生はジョンの銃を奪った。するとジョンは無理に銃を取り返そうとするのではなくすぐさまナイフに持ち替え、それを秋生の体に突き立てる。


「死なん! 俺は死なんぞ!! 死んでたまるかあっっ!!」


何度もナイフを突き立て、ジョンは叫んだ。その間にも、他の兵士達が秋生に向かって銃を放つ。そのうちの数発がジョンにも命中するが、ジョンと秋生、二人の男は、共にすさまじい執念を見せて戦った。


どちらも、生きる為に。生きて愛する人の下に帰るために。


さくらは、それを最後まで見届けた。見届けなければいけないと思った。


そして―――――


やがて、秋生の目から光が失われていくのが分かった。彼は恐ろしいほどの銃弾を浴び、体重が十キロ以上増えていたという。


最後の最後の瞬間まで生きることをあきらめずに戦い抜いた秋生の命が、ついにそこで終えたのである。




「秋生さん……」


朝、目を覚ましたさくらは、ようやく夢が終わったのだと悟ると同時に、秋生が安らかに眠れるよう、祈るしかできなかったのだった。




「そうか…それはすさまじいな……」


あきらをつれて訪れたさくらから夢で見たことの一部始終を聞き、アオはそう呟くしかできなかった。


「戦って、戦って、戦い抜いて命を終えたんだ。彼の生涯については、平和な時代に生まれて生きている私達がとやかく言っていいことじゃないと思う……」


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