それが戦争
「ゾンビだと!? 今はもう二十世紀だぞ、馬鹿馬鹿しい!」
「しかし司令、ヤツは確かに死んでたんです…!」
「軍医の誤診だろう。戦場で十分な余裕もない状態での診断だ。よくあることだ!
とにかく、よしんば本当にあのジャップが死の淵から蘇ってきたのだとしても、我々は誇り高き合衆国の軍人だ! 死にぞこないの黄色いサル一匹に何を恐れることがある! 冷静になれ!」
司令官の喝で、その場を包んでいた恐慌は見る間に収まっていった。それを確かめ、司令官は兵士達を見まわし命令する。
「今すぐ部隊を編成し、捜索に当たらせろ! 降伏しないのであれば殺して構わん! 我々に牙を剥いた報いを受けさせてやれ!!」
「はっ!!」
兵士達は敬礼し、それぞれの持ち場へと戻っていった。命令通りに部隊を編成し、脱走者を捕えるためだ。
その様子を見届けて「ふんっ!」と鼻を鳴らす司令官に、秋生と最初に邂逅した小隊を指揮していた<曹長>が話しかける。
「伯父さ…いえ、司令。お言葉ですが、彼は勇猛な兵士です。決して単なる黄色いサルではない…」
『伯父さん』と言いかけたところを見ると、どうやらこの二人は親族関係にあるらしい。その気軽さもあり、はるか上の上官である司令官に対しても意見を述べることができたようだ。
そんな曹長に、司令官は言う。
「言われんでもそんなことは分かっておる。日本兵の多くは決して狂信的な破滅主義者ではない。だがここは戦場だ。そして我々は決闘に臨むガンマンではなく軍人であり、敵は容赦なく討たねばならぬ。
相手が人間と思えばつい狙いが甘くなることもある。その迷いを断つためには、相手をただのサルだと思う必要も出てくるのだ。
ジョン。お前は清廉で高潔なガンマンだった曾祖父によく似ている。しかし決闘と戦争の違いは理解せねばならん。安っぽいヒューマニズムはお前を殺すぞ。非情になれ」
司令官は<ジョン>の方をガシッと掴み、そう諭した。
呆然とその場に立っていたさくらにも、英語で話しているはずの二人の会話の意味が聞き取れた。さくらは元々、それなりに英語のヒアリングもできる方ではあったが、今回のそれは明らかに違っているように感じた。しゃべっている意味そのものが直接頭に入ってくるとでも言えばいいのだろうか。
だがそれだけに、この、秋生を殺そうとしているアメリカ軍人達もやはり<人間>なのだというのが伝わってきた。
『相手をただのサルだと思う必要も出てくるのだ』
とは言っているものの、それは自分を誤魔化すための方便と分かっていて言っているのも伝わってくる。
『人間同士が殺し合う……それが戦争……』
言わなくても分かっていることながら、その事実が改めてさくらの心に刺さったのだった。
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