最後まで
「トマレ!!」
そう叫んだのは、アメリカ軍の兵士だった。数人で銃を構え、
「オマエタチノマケダ! コウフクシロ!!」
片言の日本語で降伏を呼び掛けてくる。
だが、秋生はこう命じられていた。
『降伏はするな。降伏は祖国への裏切りだ。降伏するくらいなら最後まで戦って死ね!』
当時、すべての上官が部下に向かってこう命じた訳ではないものの、少なくとも秋生が属していた部隊の大隊長はそう命令した。
だから秋生は従った。
それに、今は味方は誰もいない。自分の本当の力を使っても誰にも見咎められることはない。
「があっっ!!」
およそ人間のものとは思えない咆哮を上げ、秋生の体が弾かれるように奔る。
「!?」
自分達が銃を構えて狙いを付けていた兵士の姿が突然消えたことに、アメリカ軍兵士達は度肝を抜かれた。
そして次の瞬間には、二人の兵士が悲鳴を上げる暇すらなく首を折られ、またはヘルメットごと頭蓋を砕かれ絶命した。ウェアウルフとしての能力を最大限発揮した秋生の攻撃を受けたのだ。
「Shiiiit!!」
だがさすがに、相手も死線をくぐってきた歴戦の兵士だった。頭で考えるよりも先に体が反応し、直感が示した方へと反射的に銃を向け、引き金を引く。
「がっっ!?」
体に無数の銃弾を浴び、秋生は地面へと落ちた。
「Fuck!!」
仲間を殺され逆上した兵士が、倒れ伏した秋生目掛けてさらに銃を放つ。
「Stop!! Stooop!!」
隊長らしき兵士が銃を押さえ、
「もういいやめろ! 無駄弾は使うな!!」
と怒鳴った。
叱責された兵士は、
「ですが!!」
と食って掛かろうとしたが、他の兵士に、
「落ち着け、ベン!」
「曹長の命令だ! 従え!」
体を押さえ付けられて言われ、
「Goddamn!!」
と吠えつつも、銃を下ろしその場に膝をついた。
するとまた他の兵士が、
「おい、こいつまだ息があるぞ!?」
と叫ぶ。反射的にその場にいた全員が銃を構えたものの、
「待て!!」
曹長と呼ばれた隊長らしき兵士が命じた。その上で、
「助かるかどうかは分からないが、こいつは連れ帰って手当てを受けさせる。生き延びれは捕虜にするし、ダメならこいつに運がなかったということだ。
衛生兵!」
こうして秋生は、アメリカ軍兵士により野戦病院へと収容された。
だが、その一時間後、治療の甲斐なく、軍医によって死亡が確認される。
「そうか…運がなかったな……」
秋生を収容することを命じた隊長らしき兵士がそれを聞かされ、残念そうに俯いた。
その一部始終を見ていたさくらも、
「秋生さん……」
唇を噛みしめるしかできなかったのだった。
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