終わらない夢

こうして秋生しゅうせいはその人生を終わらせたはずだった。後は、秋生とあの女性の子である秋良あきらがエリカと秋生の命を引き継ぎ、あきらへと繋がっていくことになるのだろう。


にも拘らず、<夢>が終わらない。


『どうして……? まだ何かあるというの……?』


秋生の遺体が安置されている小屋の脇に立ち、さくらは終わらない夢に戸惑っていた。


と、中には生きている人間は誰もいない筈の遺体安置小屋の扉が内側から開けられた。


「……え…!?」


思わず声を上げたさくらの視線の先に、もやは幽鬼のような表情をした何者かが立っていた。だが、さくらにはそれが誰か分かってしまう。


「秋生さん……!?」


そう。秋生だった。軍医によって死亡が確認されたはずの終生がそこにいたのだ。


幽霊…ではない。確かに質量を感じる足取りで、確かに足音を立てながら秋生は歩いた。夢遊病者のように明確な意思は感じられないものの、しかし何らかの執念を感じさせる力を秘めながら。


するとその秋生の前に人影が見えた。どうやら見張り交代のために簡易の宿舎から出てきた兵士のようだ。


瞬間、秋生はまさに獣のようにその兵士に襲い掛かり、その首をへし折って殺害。携帯していた銃を奪ってそれを構えた。


そこに、物音に気付いた別の兵士が、


「どうした、ジョン? 寝惚けて石にでも躓いたか?」


軽口を言いながらドアを開けて出てきた。


「!!」


秋生は反射的にその兵士にも銃を向けて、発砲。


放たれた弾丸は確実に心臓を捉えて死をもたらした。


しかし当然ながら銃声が響いたことで、簡易のとはいえ<基地>として機能していたそこに緊張が奔る。


すぐさま武装した兵士達が現れ、死亡した二人を見付けると、


「敵襲ーっっ!!」


と声を上げた。


秋生はそのままジャングルへと駆け込む。


その気配を察したアメリカ軍兵士達は、ジャングルに向けて一斉に銃を放った。


そんな中、一部の兵士が遺体が収容されていた小屋のドアが開いていることに気付き、まさかと思って中を覗くと、そこに寝かされていたはずの日本軍兵士の遺体が一つ無くなっていることに気付いた。


瞬間、その兵士達の背に、ぞわりと悪寒が奔り抜ける。


「ジャップだ! ジャップがゾンビになって復讐しにきたんだ!!」


半ばパニックになって叫び、ジャングルに向けて滅茶苦茶に銃を放ち出した。


その恐慌が周囲の兵士にも伝染し、恐怖に駆られた彼らはひたすら銃を撃ちまくる。


そこに、司令官を思しき恰幅の好い人物が現れ、


「やめろ! やめんか! この馬鹿者が!!」


と叱責し、近くにいた兵士の頭を殴りつけたのだった。


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