家族や、大切な人や

さくらがそんなことを言い出したのは、エリカや秋生しゅうせいのことがあったからだった。今後二人が巻き込まれるであろう運命を彼女は知っている。


だからこそのものだった。


特に秋生は、望んで人を殺すようなタイプには見えなかった。けれど彼はあの後、徴兵されて戦地に行っただろう。きっと、エリカを守るために。そしてウェアウルフである彼なら、それこそ鬼神のような働きを見せたに違いない。


だけどそれはすべて、エリカのためだと思える。


さらには、彼とエリカの周りにいた人達の中にも、きっと家族を守るために戦地に赴いた人がいたに違いない。


病に冒されたエリカを優しく見守ることができる子供達を育むような人達だ。最初から望んで参加した人は少なかったんじゃないだろうか。


たとえ望んで行った人がいたとしても、それも結局、家族や、大切な人や、そういう人達が生きるこの国を守りたいから行ったんじゃないだろうか。


さくらはそう思ってしまったのだ。


「もちろんそれが生き残った側の理屈だというのも分かっています。殺された側、家族や大切な人を喪った側にしてみればそんなの関係ない。相手にどんな理由があっても事情があっても憎いと思うのも当然です。


戦争だからって爆弾を落とされて家族や大切な人を喪った人達はもちろん、兵隊として戦場に行って命を落とした人の遺族の方達も敵兵を憎んだ方もいらっしゃったでしょう。


だから、殺された人の遺族が、殺した側が幸せになるのは許せないと思うのは当然だと思うんです。だけど、無関係な第三者までがそれを言うのがおかしいって私は感じたんです。


ましてや、ロクに事情も知らない人がさも分かったように言うのはおかしいって……


彼に…エンディミオンに家族を殺された人が彼を憎むのは人として当然だと思います。でも、まったくの無関係な人が彼を攻撃するのは納得いきません……!」


拳を握り締め、目に涙を溜めて、さくらは自分の想いを叩きつけるようにして口にした。


無論、現状では実際にエンディミオンが誰かから責められているわけではない。しかし……


「エンディミオンと同じような過去を持つアニメや漫画のキャラクターがどんな風に言われてるかを見れば、彼が世間から何を言われるのかなんて、火を見るより明らかだからな……」


アオは腕を組んで目を瞑り、重々しくそう言った。


加えて、


「正直、戦争と犯罪とを同列に考えることはできないと思う。ただ、エンディミオンが生きてきたような、本当に誰もがちょっとしたきっかけで人を殺す側になるような環境については、平和な日本で暮らしてる人間の感覚で罪を計るのも違うと私も思うよ」


とも。


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