空間にできた染み

はっきり言って、エンディミオンの力であればコンクリートの基礎さえ破壊することはできる。


だが、今、それをして騒ぎになればさくらが悲しそうな表情をするのは分かっていた。だからそこまではやらない。


その代わり、足を叩きつけた際の振動によって、詳細に地下の様子を探る。


ミハエルは、家の床からそれをしたので、正直なところ、ただ漠然と『それなりにしっかりとした構造の空間らしきものがある』程度のことしか分からなかった。


しかしエンディミオンはこうして、直接、基礎を踏みつけて振動を与えているので、さらに詳しく探ることができた。


『一辺、二メートルほどのほぼ立方体の空間だな。明らかに自然にできたものじゃない。鉄筋までは入ってないが、コンクリートで固められた壁と床がある。その上に鉄板を乗せて土をかぶせて、さらにその上にこの家の基礎を作ったんだな。間違いない。その工事をした奴はこれのことを知ってる。知っててそのまま封印でもするかのように塞いだんだ』


エンディミオンはそう推測した。


そして今度は基礎部分に這いつくばって耳を当て、拳でコンクリートを叩いた。強めたり弱めたり、少しずつ位置をずらしたり。


すると彼の頭に、ビジョンが構成されていく。地下空間の姿だ。


『部屋の中に何かがあるな……木製の何か…と、それ以外の何かだ……椅子か何か……それと、死体かもしれん。


……ふん。死体があることを分かってて封印したか。もしくは、生きたまま……』


そこまでのビジョンが浮かんだものの、それが当たっているかどうかは実際に開けてみないと分からないだろう。


しかし、


『ただ、念が焼き付いてる気配はない。恨みを持ったまま死んだわけじゃないってことか……? もしかすると、自分で望んで残ったのか……?』


音響探知以外にも、ダンピールとしての感覚で、その場に残された<念>も探る。


人間にとってはオカルト的な<念>というものも、吸血鬼や、吸血鬼の能力を受け継いだダンピールには、まるで<臭い>のように感じ取ることができるのだ。


いや、臭いと言うよりかは、<空間にできた染み>とでも言った方がいいだろうか。


人間の強い<念>は空間に焼き付き、染みのように残るそうだ。


そしてそのほとんどが恨みや憎しみ、強い無念といったものなのだという。


だがここにはそれが感じ取れない。


念は感じ取れないが……


「……? なんだ…? 何か他にも地中にあるぞ…?」


最後にもう一度、ものはついでと地下空間の周辺を振動で探査したエンディミオンは、地下空間とは反対側、隣家との境界辺りに、また別の反応があることに気付いた。


「でかい…金属の塊……いや、違う、こいつは……!?」


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