古民家付き土地

そしてさくらの休みの日、四人は件の<家>へと足を運んだ。


四人というのは、さくら、あきら、アオ、ミハエルの四人のことである。エンディミオンは、当然のように距離を置いてついてきていた。


しかも今日は、今にも雨が降り出しそうなくらいに暗い曇天で、念の為にフード付で紫外線をシャットアウトするブルゾンを羽織りながらも、ミハエルもエンディミオンも楽に外出できた。


洸はさくらが抱っこ紐を使って抱いている。その姿は完全に<お母さん>だった。洸自身も、さくらに抱かれているからか人間の姿を保っていたし。


そして、件の家に着くと、それは何の変哲もない、古い民家だった。これといって怪しい気配もしない。


「なんか、すごく普通ですね」


<いわくつき物件>と聞いて少し身構えていたさくらは、あまりの普通ぶりに拍子抜けさえしていた。


「だろ? これで何の怪奇現象が起こるのかって感じだよな」


などというやり取りの後で、そこで待っていた不動産業者の担当者と合流、鍵を開けてもらって中へと入った。


「こちらは、いわゆる<古民家付き土地>という形での販売となります。基本的には現在の建物を取り壊していただいて改めて改築していただく前提です。


ただ、現在の建物が建設された当時と現在とでは建築基準法が大きく変わっており、新しく建てる場合には現在のものよりかなり小さな家になってしまい、元々あまり大きなものではありませんが、それこそ<狭小住宅>と呼ばれる規模の建物になってしまうということで、お安くなっております」


と、担当者は、いかにもあらかじめ作られた説明文を暗記したかのような通り一辺倒な説明を行った。


そこでは、


『現在の建物を解体して新しい家を建てる前提で、かつ新しいそれは狭小住宅になってしまうから』


という理由で相場より安価に設定されているということだったが、それにしても相場の半額以下というのは安すぎるというのが印象だった。


しかし担当者は、『怪奇現象が起こる』というようなことは一切口にせず、


「駅から近いです」


「スーパーも徒歩圏内です」


「保育園にも近いですし、小学校までも歩いて十分かかりません」


と、良い点ばかりを羅列してくる。


そこで、アオはカマをかけてみた。


「それにしては、かなりお安いですよね?」


と。


すると担当者は表情も変えず、


「それは、現在の所有者様がなるべく早く売りたいということで、思い切った価格設定にされているからです。もし、お客様が今の時点で決めてくださるのであれば、さらに手数料について全額所有者様が負担してくださるとのことです」


などと返してきたのだった。


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