ただの普通の家
『さすがにこの程度のカマには引っかからないか。向こうも商売だしな』
どうやら不動産会社の担当者からは有用な情報が引き出せそうにもないと考えたアオは、ミハエルに目配せした。彼の吸血鬼としての超感覚で家の中を詳細に調べてもらおうと、あらかじめ決めておいた合図だった。
もっとも、そんなことをするまでもなく、ミハエルはずっと探っているのだが。
そちらはミハエルに任せるとして、アオはとさくらは、担当者の説明を聞きながら家の中を見て回った。
「築年数そのものは六十年ですが、その間に二度、リフォームされています。二度目のリフォームからも既に十年以上経ってますので状態はそれなりですが、そのまま使おうと思えば使えなくもないでしょうね。
ただ、さすがに耐震基準については現在のものと適合しませんので、このまま済むとなれば、耐震工事を含めた大規模な改修が必要になってきます。
でもそれであれば、今の大きさのままで使えますね」
との説明を受けたものの、正直、上の空だっただろう。二人はとにかく、どこか不審なところはないか、怪しいところはないかという形で探っている状態だった。
にも拘らず、アオとさくらには、本当にただ古いだけの普通の家にしか思えなかった。
しかしその中で、ミハエルだけは何かに気付いたのか、一階のキッチンに来た時、床をトントンと軽く踏み鳴らすような仕草をした。
その上で、聞き耳を立てるような仕草もする。
「床が気になりますか?」
担当者がミハエルの様子に気付き、尋ねてくる。
「いえ、音とか響いたら近所に迷惑かなと思って」
ミハエルはそう返した。
「利口なお坊ちゃんですね」
担当者には、仕事で海外を飛び回っている両親から預かっているアオの甥っ子ということで伝えてあったので、十歳くらいの子供が騒音を気にするということで感心されただけだった。
他にも、浴室は十年前には最新だったものにリフォームされていたので割と綺麗だったし、トイレも同じだった。なるほど、内装の雰囲気は今のセンスで見ると古臭くも見えるものの、耐震基準を別にすれば十分にそのまま使えそうでもあった。
後は、現在の自治体の条例で定められている火災報知器がついていないのが不具合と言えば不具合だろうが、それもリフォームが行われた後に条例で決まったことなので、瑕疵というようなものでもない。
二階には二部屋あったが、どちらも土壁だったものを今風のそれに変えただけで、畳敷きの和室だった。こちらも畳表の交換くらいで十分に使えそうだ。
つまるところ、アオとさくらには本当に<ただの普通の家>にしか見えなかったのである。
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