いわくつき物件

「<いわくつき物件>って、どういうのですか?」


「お? 興味ある?」


「興味って言うか、先生がどういう物件に関心を持ってるかというのは興味があります。


まさか、殺人事件があったとかじゃないですよね? そういうのなら、どんなに安くても遠慮しておきますよ」


「ああ、そういう意味のじゃない。要するに、<お化け屋敷>と噂の立つやつだ」


「お化け屋敷? 怪奇現象が起こるって感じですか?」


「要するにそういうことだな」


「そういうところに私達を住まわせようとしたんですか?」


「だってなあ。怪奇現象ったって、私達は吸血鬼とかダンピールとかウェアウルフとかと暮らしてるんだぞ? 何を今さらって感じじゃないか」


「それはそうですけど……」


「しかもお前、オカルトの類はまったく平気な奴じゃないか」


「ええ、まあ。霊感の類はまったくないって自負してます。


何しろ、高校の時の修学旅行で、同じ部屋の子達が全員、幽霊を見たって言ってて、中にはホントに気分が悪くなって病院に行った子もいたのに、私はまったく気付かなかったくらいですから」


「だろ? それに加えてダンピールと一緒に暮らしてるんなら、怪奇現象とかそれこそなにするものぞ」


「まあ…確かに……」


「そこでな、今度、お前の仕事が休みの時に内覧に行かないか? とにかく近所も近所、歩いても五分かからないところなんだ」


「内覧、ですか?」


「ああ。実は先に、あきらが寝てる間にミハエルと一緒に見に行ってきたんだ。その時は外からだけだったが、ミハエルが言うには、『何も感じないよ』ってことだったよ。


なあ、ミハエル?」


話を振られて、ミハエルは隣の部屋から出てきた。


それで少し困ったような表情をしながら、


「うん。確かに僕には何も感じ取れなかったな。少なくともアオと一緒に見に行った時には」


と微笑んだ。


「日本的な<お化け>の類にはあまり詳しくないけど、霊的な気配はなかったよ。


ロシアでもその種の<幽霊屋敷>の類はよくあるんだけど、大抵が、何らかの低周波の発生源が近くにあったり、強い電磁波を出すものが近くにあって、それらに対して強い感受性を持つ人が<何か>を聞いたり見たりっていうのがそれらしいね」


「へえ、そんな風に言われたら、私も少し興味が出てきました。怪奇現象の正体とかもつかめますかね?」


「ふっふっふ。まんまと乗せられてくれたな?」


アオが悪戯っぽく笑う。そして、


「まあ、実際にその家を買うかどうかはともかく、ちょっと面白いじゃないか。それでもし何か分かったら、小説のネタにもなるかもしれないし」


と言われて、さくらも、


「<取材>ってことですね。なら、行ってみましょうか」


と微笑んだのだった。


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