ママですよ~♡

それからもあきらは目覚ましい速度で成長していった。狼の姿では既に立ち上がれていたものが人間の姿でも立ち上がれるようになり、


「まんま!」


と、明らかに意味のある言葉を口にした。


ただ、最初は、さくらを見ても、


「まんま!」


アオを見ても、


「まんま!」


ミハエルを見ても、


「まんま!」


離乳食を見ても、


「まんま!」


ミルクを見ても、


「まんま!」


と、どうやら自分が言葉を発してること自体が面白くてそれを口にしているだけらしく、何を見ても、


「まんま!」


と発声したのだった。


なので、


「ママって言ってくれた~♡」


などと喜んだのはぬか喜びになってしまったが。


それでも、


「アオ、私はアオだよ~♡ アオ~、アオ~♡」


とアオが根気強く教えると、次の日には、


「あお~!」


って感じでアオの名を呼んだのだ。母音だけの名だったので、赤ん坊にも発声しやすかったのだろう。


「うっはあぁああぁ♡」


自分の名が呼ばれたことに、アオは気が遠くなりそうなほど喜んだ。


「いいなあ~……」


それをさくらが羨ましそうに見る。さすがに<さくら>という発音はまだ難しかったらしい。


しかし、


「ママですよ~♡ マ、マ。ママ~♡」


さくらも負けじとそう教えると、


「ママ!」


指をさしながら洸が言った。


「洸ぁ~♡」


普段はあまり露骨に感情を表さないさくらも、この時ばかりは我慢ができなかったようだ。


「そうですよ~♡ ママですよ~♡」


今度はさくらがデレデレになってアオが少し悔しそうな顔になる。


「くっそ~、やっぱさくらがママか~」


そう言いながらも、本心では『良かった』と思っていた。ママはさくらでいい。


「私はママ二号だからな~♡」


と言いながら顔を近付けると、洸はまた、「む~!」と声を上げながらアオの顔を押しのけた。


どうやら、


『ママ(さくら)よりも近くに来るな』


と言いたいらしい。


ちゃんと、<ママ>と<それ以外>の区別はついているようだ。


「にゃ~! フラれた~」


アオが泣き真似をすると、洸は、


「きゃきゃきゃきゃ&♡」


声を上げて笑う。


そんな様子を、ミハエルは本当に嬉しそうに見守っていた。


ちなみに、さらに翌日にはミハエルのことを、


「みい~」


と指差して言うようにもなった。しかもミハエルが顔を近付けると、彼のプラチナブロンドの髪を掴んで引っ張ったりもした。


するとミハエルは、洸にされるがままになって微笑んだ。


「大丈夫? 痛くない?」


さくらが心配して訊くものの、ミハエルにしてみればこの程度のことはそれこそ何ともなかったのだった。


「大丈夫だよ♡」


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