手回品
『あんたが拾ってくれんの? くれないの?』
そんな風に詰問されて、さくらは思わず、
「私が預かります…!」
と言ってしまった。しかし、言ってしまった後で、
『ど…どうしよう……』
とも思ってしまったが。
しかしそれも後の祭り。
子犬、もとい子ウェアウルフが入った段ボールを抱え、さくらは途方に暮れた。
フィクションではこんな形で捨てられている犬を拾ったりというのはたまにあるが、さくら自身は生まれて初めての経験だった。
『一時の同情で拾ったりなんて逆に無責任だよね……』
そう考えて『自分は、そういうのを見付けても見ない。拾わない』と考えてきたさくらだったものの、実際になってみると自分でも気が付かないうちにこうなってしまった。
そんなさくらを呆れたように見上げながら、エンディミオンが言う。
「お前、それでどうやって電車に乗るつもりだ?」
と訊かれて、
「え…と……」
応えに詰まってしまう。
だが、駅前にペットショップがあったことを思い出し、
「確か、ペット用のカゴに入れたら手荷物として持ち込めたよね」
呟きながら駅前へと向かった。
「まだ開いてるかな……」
時間は午後七時前。開いていても不思議じゃない時間だったが、確証がない。だからついつい小走りになる。
そして駅前まで来ると、ペットショップにはまだ煌々と明かりが灯っていた。しかし、店の前に出されていた商品が店内へと運び込まれているいるのも見える。どうやら閉店準備をしているようだ。
「ギリギリか…!」
思わず声に出しながら、
「すいません! まだいけますか? この子を入れるカゴが欲しいんですけど…!」
と、店員らしき若い女性に声を掛ける。
「あ、はい、七時までだから、キャリーくらいなら…って、カワイイ♡」
さくらが抱える段ボール箱を覗き込んだその女性店員が歓声を上げる。しかも、
「この子用ですね! 電車に乗るのに要るんですか? だったらこれが人気ですよ! お値段も手頃ですし!」
などと、ロクに訊かれてもいないのに店の出入り口近くに並べられていた<ペットキャリー>を手にして笑顔を向けてきた。
その勢いにやや気圧されながらも、『税別¥2999』と手書きの値札が付けられた小型犬用のそれを、さくらは即決即断で購入した。
ついでにハーネスとリードも購入する。自分で飼うと決めた訳ではないものの、取り敢えず連れて歩くのにもその程度の用意は必要だからだ。段ボール箱はペットショップが、
「うちで処分しておきますよ」
と引き取ってくれた。
で、子ウェアウルフをペットキャリーに入れ、アオのマンションへと行く為に電車に乗った。<手回品>扱いになり、その分の料金も取られたが、やむを得ない。
だけど、電車に乗り込んでも、
『どうしよう……』
と頭の中がぐるぐると回るのを感じていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます