形質

『吸血鬼やダンピールがいるのに狼人間がいるはずないというのはおかしいだろう』


エンディミオンはそう言ったが、さくらが実際に気にしていたのはそこではなかった。ついそう思ってしまってたのも事実にしても、一番に気になったのは、


『その<狼人間>がどうして段ボール箱の中に入れられてこんなところに置かれているのか?』


ということだった。


しかしそれも気になるが、今はとにかく確認を……!


と思い、さくらは近付いて段ボール箱を覗いてみた。


するとそこにいたのは、まだ生後数週間といったところの<子犬>にしか見えない小さな動物だった。


『か…カワイイ~っっ♡』


頭が大きくてふわふわとした毛に覆われ、まるまるとしたその小さな動物の姿を見た瞬間、さくらは思わず声を上げそうになったものの、それは何とか飲み込んで、


「す…捨てられたの…かな?」


と呟きながら、段ボール箱の反対側に回ると、『拾ってください』とかかれているのが見えた。


するとエンディミオンが、


「そいつ、純血のウェアウルフじゃないな。たぶん、犬の血が混じってる。しかも、狼の形質が強くて、滅多に人間の姿になれないタイプのようだ」


と付け加える。


「え? そういうのもあるの?」


さくらが訊き返すと、


「ある。人間でも体質の違いとかあるだろうが。そういう奴の中には、死ぬまで自分がウェアウルフであることに気付かないのもいるそうだ。気付かずに人間として生きる奴、逆に、狼として、いや、自分が狼であることにさえ気付かずに犬のように生きるのもいるという話だな」


とも。


「な…なるほど……」


納得できたようなできないような微妙な感じでさくらが応えた時、段ボール箱のすぐ脇のドアが不意に開いて、


「…なにあんた? そいつ拾ってくれんの?」


などと声を掛けられた。瞬間、ツンと鼻に刺さるような香水の匂いが辺りに立ち込める。


それは、派手な厚化粧をして、若いのか年齢がいってるのか、一見しただけでは分からない、しかし明らかに水商売の空気感をまとっている女性だった。


「あの……この子はあなたが……?」


問い掛けるさくらに、女性は、


「あたしが飼ってたわけじゃないよ。店の子がどっかから拾ってきたんだけど、誰も引き取り手がいなくて困ってたんだ。こうしときゃ誰かが拾ってくれるかもと思っただけだよ。


それでもダメなら保健所に引き取ってもらうしかないね」


面倒臭そうに頭を掻きながら応える。


「保健所……!」


女性の言葉にさくらはギョッとした表情になった。


そんなさくらに女性はさらに吐き捨てるように問う。


「で? あんたが拾ってくれんの? くれないの? どっちにしてもいつまでもこんなところにいられたら邪魔なんですけど?」


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