ボツですね
『アオの家で焼き肉パーティー』
エンディミオンさえ承諾してくれればその言葉に甘えたいと思った。
だけど、今はまだ無理だろう。
だから我慢する。いつかエンディミオンも分かってくれるまで。
もしかするとその時は永久に来ないかもしれないが、しかしそれも覚悟の上で待つ。今のさくらにはそれだけの器があった。
だが、
「ボツですね」
アオがノリにノッて書いていた新作の候補の原稿を見て、さくらはきっぱりと言い放った。
「はっはっは~! やっぱりか~」
まだ必要な分量の半分も書いていなかったが、予想通りの判断に、アオは高笑いしてみせた。
そんな様子を見ながら、さくらは告げる。
「このパターンはさすがに使い過ぎです。導入部分だけならまだしも半分近くまで行ってもこれということは、ラストも完全に読めてしまいますよね」
彼女の指摘に、アオも、がっくりと肩を落としながら、
「まあ、そう言われるのは分かっていたのだ。しかし楽しくてなあ……」
残念そうにこぼす。
するとさくらも、
「本音を言えば私は好きです。続きを読みたいと思います。結末が分かってても、だからこそ安心感もある。先生のコアなファンの方ならこれでもきっと受け入れてくださると思います」
まるで母親が幼い子供に語り掛けるように言った。それにアオも顔を上げる。
けれど、その上で、
「でも、だからといってそこに胡坐をかいていてはダメだと思うんです。先生はプロの作家です。お金を出してくれる新規の読者の開拓は必要な筈なんです」
言い含めるようにさくらは諭した。
「ああ…分かってる。お前の言いたいことは分かる。だからどんどん書こうと思う。私には、何が読者にウケるのか分からない。故に思い付くままにいくつも書いて、その中から使えそうなものをお前が選んでくれ」
そう言って自分を見るアオに、さくらは微笑み返す。
「そうですね。先生はそれしかできないですもんね」
お互いに相手のことをよく分かっているからこそのやり取りだった。
それから、
「じゃあまあ、これもWebで公開ということにしようか。書き上げたらまた次のにとりかかる」
原稿を受け取りながらアオが言うと、さくらも改めて、
「よろしくお願いします」
と笑顔を向けた。
こうして打ち合わせを終えた後、マンションを出る。
そこに当然のようにエンディミオンが現れ、さくらの横に立った。
「じゃ、一旦編集部に帰って残りの仕事を済ませて、今日は終わりだよ。もう少し付き合ってね」
「おう。承知した」
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