抗議の声

『日本じゃもう、吸血鬼は必ずしも人間の敵ってわけじゃないってことになってるみたいだもんね』


ミハエルのその言葉に、霧雨は、


「あはは、そうかもね♡」


と笑顔になっていた。


「確かに日本のアニメとかマンガとかでは、もちろん敵役の場合も多いんだけど、すごく仲良くなってるって場合も多いよね」


「うん。だから僕の日本に来たっていうのもあるんだ。日本なら平和に暮らせるかなって」


「そこで日本を選んでもらえたっていうのは光栄だな」


そんな感じで話が弾んでしまって、気付けば夕食の時間になっていた。


霧雨のお腹が、


「ぐーっっ!」


と抗議の声を上げる。


「あひゃぁっ!」


自分でも聞いたことがないくらいの大きなその音に、霧雨は、かーっと顔が熱くなるのを感じ、どこから出てるのか分からない声が出た。


「あははははははははは…!」


腹の虫の爆音に加えそのザマに、乾いた笑いしか出てこない。


でもそんな彼女にもミハエルは優しかった。


「晩ごはん用意しなくちゃね」


柔らかい笑顔でそう告げながら立ち上がり、キッチンへと向かう。だがその時、霧雨はハッとなった。


「あ…! そう言えば買い物してなかった…! ごめん、買い置きの冷凍食品くらいしかない…!」


焦った彼女の声に振り向いたミハエルは、それでも落ち着いていた。


「日本って冷凍食品やインスタントも美味しいんでしょ? 僕も食べてみたかったんだ」


そう言いながら冷蔵庫に向き直り、冷凍庫の扉を開ける。


「ごめんね~、冷凍食品もたしか冷凍のうどんくらいしかないんだ」


「うどん…? いいね。僕も食べたい」


「うどん、知ってるの?」


「知ってるよ。モスクワの日本料理店でも出てた。だけどそこのは、ホントのうどんじゃなくて、そこの店主が日本に行った時に食べたうどんを真似て作っただけの<うどんみたいなもの>だったんだって。


たまたまお客として来てた日本の観光客が文句言ってたよ。『こんなのうどんじゃない…!』ってさ。


僕も正直言って美味しいって思えなかったから、いつか機会があれば本物のうどんを食べてみたいなって思ったんだ」


「あ、なんかそういうの聞いたことある! 日本食もどきのインチキなやつ!」


「あはは。外国に行くとよくあるって聞くね。ロシア料理とかでも外国で出てくるのはたいてい<ロシア料理みたいな何か>だったりするもんね」


「へ~、ロシア料理でもそういうことあるんだね。


言われてみたらそっか。日本ででも、中華料理とかイタリア料理とか、日本人好みにアレンジされちゃってて、もはや別物っていうこともあるらしいし。


スパゲティナポリタンなんて、完全に日本生まれだって聞いたことある。あと、日本じゃ餃子は焼くことが多いけど、中国では水餃子が一般的だとも聞いたことあるかな」


「だけど日本の場合はそれで美味しくしちゃうんだから、日本人ってすごいよね」


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