初めての共同作業

言われてみれば確かにそうかもしれない。日本人は何でも真似るだけでなく、料理ならより美味しくしたり、機械ならより精密で便利にしたり、とにかくより良いものにしてしまおうという意欲が半端ないのだ。


「だから、『みんなが幸せになる』ってことをすごく考えてる国民なんじゃないかって、ママも言ってたよ」


「そっか。言われてみたらそうかもね。日本人ってとかく『お人好し過ぎる』とか『平和ボケ』とか言われるけど、『自分達だけ幸せだったらそれでいい』じゃなくて、『みんなが幸せじゃないと自分達の幸せも脅かされる』って考えちゃうのかもしれない。


ほら、幸せじゃない人って、幸せな人を妬んで嫌がらせしようとしたりするしさ」


「それは、すごく感じるね。僕達吸血鬼は長生きだからいろんなところでいろんな人間の営みを見てきたんだ。その中では、『自分達さえ幸せだったらいい』って感じで、自分達以外のところからとにかく何でもかんでも奪うばかりって人達もいた。


でもそういうのって恨みをばらまくだけで結局は憎まれてテロとかの温床になったりするんだ」


「あ~…やっぱりそうなんだね」


シリアスな話でちょっと悲しそうな表情になった霧雨に、ミハエルはやっぱり優しく微笑みかける。


「だから、美味しいものを一緒に食べて一緒に幸せになろう、アオ」


「…あ……!」


不意に『アオ』と呼ばれて、今度はハッとした表情になる。そんな彼女に、


「<アオイ・キリサメ>だからアオって呼んでみたんだけど、ダメかな……?」


どこか縋るような感じになった彼の視線に、霧雨は、


「ううん! ダメじゃない! いいよ、それでいい! ミハエル♡」


と明るく応えた。とても嬉しそうな笑顔だった。


それを満足そうに見届けて、


「じゃあ、うどん作るね。あ、でも、どうやったらいいんだろう?」


レンジで温めるだけで食べられるようになるタイプのうどんを手に、ミハエルが少し戸惑った。説明書きが読めなかったのだ。


「話すだけならできるんだけど、読み書きはまだ苦手かな…」


「あ、じゃあ私がするよ。って言うか一緒に作ろ。これはね、電子レンジで温めるだけでいいんだ。あとは丼にスープを入れておいて、そこにチンした麺と具を入れるんだよ」


「へえ」


こうして二人でキッチンに並び、霧雨、いや、<アオ>は、ミハエルとの<初めての共同作業>を楽しんだ。ただ冷凍うどんをレンジで温めるだけの、料理とも言えない作業だが、なんだかとても楽しかったのだった。


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