人間の敵

「昔の吸血鬼達は、自分達の力が人間を圧倒してることに慢心して、恐怖で支配しようとしたんだ。


でも、人間は吸血鬼よりも圧倒的に数が多い。


それはどうしてだと思う? お姉さん」


「え…? あ、そっか。どんどん眷属にしてしまえばいいのに、そうしないから?」


この時、ミハエルが霧雨に対してした質問は、霧雨自身が常々疑問に思っていたことだった。


人間は吸血鬼を恐れ見つけ次第、退治しようとする。吸血鬼はその超常の力でもって人間を薙ぎ払うものの、結局は退治されてしまうというのが定番だった。


それが納得いかないのだ。


『吸血することで人間を眷属にしてしまえるのなら、しかもその眷属がまた吸血することで眷属にしてしまえるのなら、パンデミックよろしくあっという間に世界中に吸血鬼が溢れてもおかしくないよね? なのにそうならない。それは何故?』


と、彼女は考えてしまう。その疑問に、ミハエルが答えてくれた。


「吸血鬼が眷属を作るのは、実はそんなに簡単なことじゃないからだよ。


ううん。眷属にするだけなら難しくないんだけど、その眷属を従えるのが、簡単じゃないんだ。直接の眷属は確実に支配できても、その眷属が生み出した眷属にまでそれが及ばないことがある。


眷属の眷属の眷属という形で増えれば増えるほど、それは顕著になっていく。能力も下がってはいくんだけど、下がった能力は数で補うことができてしまう。


そして、決定的なのが、吸血鬼と人間との間に生まれた子、<ダンピール>っていうんだけど、それは多くの場合、吸血鬼を憎んで敵対することになるんだ」


「<ダンピール>って、知ってる。吸血鬼ハンターって、ダンピールが多いらしいね。だけどどうして、吸血鬼を憎むんだろ?」


「……分からない。ただ、自分のルーツが怪物だっていうことが許せないからだとは言われてるみたいだね」


「そっかあ…。吸血鬼が人間を襲う怪物ってことだと、その怪物が自分の身内だっていうのが耐えられない感じなのかな……?」


「そうかもしれないね。だからそうやって人間と敵対する怪物という存在でいることが結局は自分達を追い詰めていくんだって、吸血鬼も気付いたんだよ。


でも、いまだに、<吸血鬼は人間にとって危険な恐ろしい怪物>っていうイメージが残ってるくらいだから、そのイメージを変えてしまうのは簡単なことじゃない。


だけど、幸い、僕達には時間がある。いつか人間と仲良くなれるのを待てるくらいの時間はね」


「そうだね」


ふわっと微笑んだ霧雨を見て、ミハエルも輝くような笑顔を見せつつ言ったのだった。


「それに、日本じゃもう、吸血鬼は必ずしも人間の敵ってわけじゃないってことになってるみたいだもんね」


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