噂話-1 不死の獣、獣の賢者
「死なない獣がいるらしい」
「死なない私のような?」
「息の根を止めても、肉を食らっても、同じ個体がいつの間にか発生するのだそう」
「それなら森のひとではないな」
「肉体が消えてしまって、同じ個体と言えるの」
「同じなのだそうだ。なにしろ本人がそう言うのだから」
「ならばそうなのだろうね」
「えっ獣が」
「死なない獣は複数いて、そのうちの一体が、そう教えてくれたのだという。そんな話が街に伝わっているんだって」
「永く生きると色々なことを覚えるものだからね」
「仲良く過ごせそうだね」
「それが、彼には彼の事情があるから、共に生きるようなものでもないのだと。無闇に襲いはしないが、怒りに触れると恐ろしいことになる」
「在り方が違うのね」
「人とひとのように」
「そうなのだろうね」
「獣の賢者はどこにいるの?」
「わからないな」
「不死なのだからまだ存在しているのでは」
「触れられない領域に踏み込めばあるいはね」
「世界の繋ぎ目から彼らの領域に行けるのかもしれないね」
「不死とはいえ既にいないかもしれない」
「世界の都合は変わるものだからね」
「姿を変えて今は鳥になっているかもしれない」
「ひともいつか鳥になる」
「既に会っているかもしれない」
「思い出してみよう」
「不死の獣はみな言葉を操るの?」
「言葉を操るのは一握り。不死の獣は人が好物。倒れても倒れても起き上がって襲い来る」
「底無しの胃袋」
「人を喰らい尽くしたらどうするのかな」
「そのときは、消えてしまうかな」
「共にあるのだね」
「出会いたくはないね」
「人である限りは出会うのだろうね。いつかどこかで。どこかの世代で」
「人を喰らうとは、神話の世にいた龍のようだね」
「龍なのかな」
「彼らはもう眠っているよ」
「龍には会えるかな」
「会えるだろうけれど、眠る龍を起こしてはいけないよ」
「起き出した龍とならば出会すこともあるだろう」
「龍は既に人の捕食者ではなくなった」
「不死の獣とは何者なのだろう」
「人の身はつくづく争いが多い」
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