魔女の小瓶
「この瓶は空だわ。何を入れていたのだったかしら」
ポンと音を立てて蓋が開いたのでスイが振り向いた。
「これは何?」
覗きこむ。良いかおり、と一言もらして考えこんだ。良いかおり。それにしても、どこかでかいだことのある香り。はてどこで。小瓶に顔を寄せて止まってしまったスイをシェミネがつつく。
「私はこの香りを知っているけれど、あなたもお好き?」
シェミネには馴染みのある香りらしい。導かれて、いつ出会ったのか。瓶に青い瞳を映し続けるスイを、シェミネがもう一度つついた。茶色い瓶を取り出して、液体を揺らして見せる。
「あなたを導く小瓶」
「俺を? ふむ」
「あげます」
同じ香りがいっぱいに詰め込まれていた。
「食べられる? 割って飲むの?」
「香りが伸びた方向に歩くといいわ」
魔女の小瓶らしい。持っていれば自然と答えに導かれるだろう。いつかの自分が導かれたように。お守りの代わりだろうか。それにしても自分が持っていて良いものだろうか。
「俺に?」
「これはそんなに珍しい?」
「俺……あの、オホン、ありがとう」
魔女に託された小瓶を手に、まあるく煙を吐く森の中の小さな家を思い描く。もしかしたらこんな家に導かれるのかもしれない。
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