風追い雲追い季節の言葉

「空を見ろ!」

 突然のリピアの声に首をもたげるスイ。吹こうか吹くまいか迷う風が、途切れ途切れてやって来る。風鈴の音も幻聴のように今は遠い。はて、なんだろう? 雲を眺めてスイは考えた。槍が降るでもない良い天気だ。空の青より雲は輝き、夏の影も風鈴と共に遠くへ。顔で日光を受け止めながら、ぱたん、スイは背中から地面に張り付いた。

「うむ、良い天気だね」

「羊飼いは羊に食われてしまえ!」

 寝転がったスイをぱこっと蹴り上げ、リピアはダッシュで去った。夏の風物詩、帰省して来た悪ガキを見てしまった顔のスイ。今日のリピアは一段と無邪気。そんな事を考えるのも束の間、結局は雲を目で追い始めるのだった。

「空を見ろ!」

「羊雲、もう秋ね」

 ぽんと返ったシェミネの台詞を聞くや、リピアはぱっと目を輝かせ飛び付いて、

「そうなんだよ! 秋が来るんだよ!」

「羊の群とね」

「そう、羊!」

 夏の到来と同じように興奮した姿を見せた。森の人は移ろいに繊細なのか、少しの変化も思いきり喜ぶ。去る季節を惜しみはしない。一巡りがまた同じものを連れ歩くから。迎える準備をいつでも整え歓迎する姿に、シェミネもつられて歌いだす。

「羊飼いは忙しかろ、忙しかろ。逃げる羊は秋を追う。秋は人を追うもんだ、羊飼いは忙しかろ」

 適当な旋律に空の羊が肩をゆらした。あるものは消え、あるものは群れから離れ、ますます羊飼いの手を焼かせている。そんな苦労を知らず、草の上では少女二人が歌いだす。合わせて逃げる羊たち。これは暫く収まりそうもない。

 人は羊を追う。羊は秋を追う。賑やかな秋の気配。横でぽつりとスイが呟くには、

「鱗雲、龍の腹が見え隠れ」

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