しあわせのみつば /掌編集

ほがり 仰夜

焚火囲んで夜の語らい


あまたの子等 連れて

天高く

昇れ 昇れ 炎


 歌声が聞こえた。一風変わったリズムで綴られる言葉達は心地良く耳に響く。はぜる火と、樹々の間を走る風の音を伴奏に、歌声は続いた。夜の肌寒さから、やわらかに身体を包んでくれる音色に、ただ二人の聴衆はうっとりと聞き入っている。

 ふと、小さな歌い手が口を閉じた。夜の虫が一拍遅れて歌を止める。それから歌い手は唐突に喋り始めた。

「炎は……」

 また暫く考えこむ。虫が歌い出すよりは早く、身振りを大きく、言葉を付け足す。

「燃えていって……どこに消えていくんだろうね」

「リピアは時々不思議な事を言うからな」

 のんびりとした会話。夜は時間が有り余るから。答えた青年はマントにくるまり炎から一歩離れて歌を聞いていた。相槌を打ったがどうやら答は纏まらなかったらしい。

「ふふ」

 代わりに笑った顔を火に映した。それだけで十分。リピアも笑い返す。

「私はろまんちすとなのさ。ねえ、シェミネはそんな話を聞いたことはない?」

 もう一人の旅仲間の声を求める。

「そうね、太陽の元まで帰っていくのかもね。太陽も火も、始まりの象徴よ」

「火は陽光の贈り物。シェミネもろまんちすとだね!」

 他愛のない会話はつらつらと。皆会話の意味よりは声音に意味を求めていた。それから歌詞の続きを探すように、音と合わせながら、遊びを続けていく。

 それから、誰ともなく眠りにおちて、静寂を夜の森に返した。虫の言葉で続きは紡がれるだろう。

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