第36話

 呼ばれることのないドラフト会議を俺は見ている。西横浜商業高校の飯塚光太郎という選手が、10球団から指名されたとき心臓が締め付けられた。こいつさえ同じ地区にいなければと呪詛を吐く。いや、自分にプロ野球選手の価値があれば、地方大会の準決勝の注目度を鑑みて呼ばれてもおかしくはない。自分に力がないからだ……それが毎年戦っているだけに彼の存在はより大きくなる。


 二巡目、三巡目の選択選手の中に自分がいると想像してしまいチャンネルを替えることが出来ない。


 決勝で自責点を少しでも押さえられていたら、ドラフトで選ばれる可能性があったのではと思ってしまう。


「八巡目選択選手 横浜ドルフィンズ 西海大学付属湘南高校――」


 心臓の鼓動が跳ね上がる


「――椎名猛」


 自分がドッキリを仕掛けられたのではと膝から崩れ落ちた。椎名猛というのっぺらぼうのチームメートに仕掛けられた笑えないイタズラ。


 八巡目にもう一人ののっぺらぼうが呼ばれたことにさえ気がつくことはなかった。


 チームメイトからのっぺらぼうがニュースに出ているとラインがくる。慌ててテレビをつけると彼らが楽しそうにインタビューを受けている。


「僕たちというより四軍が出ていたら神奈川優勝も狙えた」


 こいつは何をいているんだ。俺の頭の中はクエスチョンマークで一杯になる。四軍が強い?? 俺は四軍の存在さえ知らなかった。俺は仕掛け人からのネタばらしを待つ……。


 画面の少女が立て看板を持ちドッキリでした! という映像は流れない。


 翌日、監督から四軍との試合があると伝えられた。


 潰してやる! 俺の心の中は真っ黒に染まった。

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