第35話
女性初のプロ野球選手も学級内では一人の高校球児にすぎない。いや、僕が男子なら扱いが別なのだろうが、野球に興味のある女子高生など、クラスに数名いるかいないかという程度。昨日のドラフト会議を最後まで見ていた女子高生は更に減るだろう……。
僕としては一応ニュース番組で出演したので、登校一番誠ちゃんマンセーを想像してクラス入りしただけに恥ずかしい。
友人の一人が僕のサインを父親に求められたという話題で、初めてプロ野球トークの流れが来た。プロ野球選手って凄いんじゃねえ? みたいな反応がほとんど。僕の年収が500万円で夢のない現実を知ってこのトークはお開きな流れに……。
「いやいや知子ちゃん(仲の良い友達の一人)、男職場に女一人、数億稼ぐ優良物件がごろごろいる僕は負け組でしょうか」
カルピスを数倍薄めた女子トークが、あっという間に濃い口カルピスに替わる。合コンを求めるゾンビ達に囲まれる僕。
芸能界はもとより女子大生やキャビンアテンダントと経験を積んでいる勇者に、スライムでどう立ち向かうのかと問うとそれもそうだねと納得。
来期までに経験値を詰んで勇者と
* * *
昼休み時間、放送で職員室に呼ばれた。昨日のドラフトのことだと予想できているが、放送での呼び出しは心臓に悪い。
で……今、僕は狭い校長室の中で猛と一緒に座らされている。クラス担任、校長、四軍コーチ、監督、それに理事長のおまけ付き。いや今回は理事長が僕らを呼んだみたいだ。
「朝から父兄からの問い合わせで大変なことになっています」
開口一番理事長が話し始める。彼らの悪意ある視線が僕らに注がれる、すっとぼける僕。
「四軍が一軍より強いという発言ですよ!」
甲高い声を荒げる理事長。
「四軍が強いとしかいっていないんですが」
「同じ事です!!」
更に1オクターブ声が上がる。
「で、何が問題なんですか」
「な、何って……」
即答できない理事長に
「四軍が強いわけないだろう!」
怒声を上げて監督が割り込む。
「じゃあそれでいいじゃないですか」
肩をすくめ、冷ややかに答える。
「それで済まないからあなた達を呼んだのよ」
申し訳なさそうに四軍コーチが目をそらしながら話す。
「TVニュースで嘘発言された学校の立場を考えてみろ!」
真っ赤になって罵る監督が可愛い。
「嘘ではないんですけど」
「は、はぁ~~~~?」
僕の言葉に驚きの表情を浮かべ、顔を見合わせる大人達。
「湘南高校一軍からはドラフト指名はいませんよね、それなのに四軍からは二人も指名されて嘘といわれても」
ふふふと笑って答える。その隣でジト目でにらむ猛。監督が吠える
「二人が選ばれたからといって強いという証明にはならんだろう!!」
少し薄くなった頭から湯気が噴き上がる。
「違いますよ二人
ニヤニヤする僕。苦虫を噛み潰した顔の理事長と監督、そしておろおろとする四軍コーチ。校長が突然
「では、試合で決着をつけてみてはどうだろうか」
どこぞの野球マンガのような発言。
「何言っているんですか校長先生、僕たちはもう引退しているんですよ」
バンと机を叩き
「一軍と四軍には試合をしてもらいます!」
理事長が鬼の形相で立ち上がった。
「で、僕たちが勝ったらどうなるんですか」
誰も答えられない意地悪な質問をする。
「四軍が勝てば一軍ですよね、一軍の最後のキャリアを四軍にする勇気があるんですか、いやもとから四軍が負けると証明したいからの試合なんですかね」
続けざまに発言をする
「僕らが勝てば内申書その他の記録は一軍選手ということで試合を受けます。一軍の立場は現状維持。かれらが負けて四軍落ちは忍びなし、チームメイトの親善試合で遺恨を残すなんて馬鹿馬鹿しいです」
「それでいいでしょう!」
理事長の歯ぎしりが聞こえた。
「今日の条件は理事長名義の文書で僕たちにください、こんな意味もない試合に付き合わされるチームメイトに頭を下げないといけないもので」
校長室が凍りつく。
放課後、久しぶりに全員そろった四軍部員に僕は叩かれる。
「まあ決まったことはしょうがないので一軍を倒して昇級しましょう♪」
全員からため息が漏れる。
「では悪巧みもとい作戦会議をしたいと思います」
そういって四軍コーチを部室から追い出す。
作戦といってもたいしたことではなく、一軍エースの安永君の投球映像をみんなで視聴して 試合当日までなまった身体を河川敷で鍛え直す。
コーチをわざわざ追い出すほどでもなかったかしら。
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