第32話

 台風が過ぎ去った後のように事務所は急に静かになった。


「羽川はあの球を見てどう思った?」


 一軍投手コーチである彼は目をつぶり


「買いですね、あの子は聡いよ3日後ジャイアントに行くと宣言して私たちの回答期限を決めた」


「ドラフト上位指名を外して穫れる我がチームのアドバンテージは大きい」


「あの球だけで大丈夫ですか?」


 若手のスカウトから声が出た。


「馬鹿かお前、あんな魔球すぐに打てるやつがいると思うか? 中谷がかすりもしなかったのを見ていなかったのか! しかもあのキャッチャーの原石を見た読買に穫られでもしたら、来期俺たちはドルフィンズにはいないぞ」


「まずはこのことをすぐオーナーに話してからだねぇ」


 長机に残った二人の手作り名刺をいじりながら監督はタバコをはいた。


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