第31話

 長机の前でパイプ椅子に座らされた二人の高校生は、さもコンビニで面接を受けているような姿。しかし、その面接官はどこぞの組員なごとく厳ついメンツばかり。


「二人はどこの高校だねぇ」


 湘南高校野球部三年生と僕たちは軽い自己紹介をする。当たり障りのないQAが続く。


 監督がスカウト陣を見て知っていたかと耳打ちした声が漏れる。恥ずかしながらノーマークでした。監督の隣の男がぼそっと答えている。


「僕たち四軍だから知らなくて当然だよ」


 誠の一言にザワッと室内が響めく。


「君たちは何故うちにきたのかねぇ?」


 白地らしく監督は質問してきた。


「もちろんプロ野球選手になるためです」


 僕は監督に言い放つ。そして――


「三年間、この球を磨き上げてきました」


 彼らに訴えかける。


「プロ野球で通用する……彼は逸材だドラフトで穫りたい」


 監督は唸るように話す。


「じゃあ条件を話し合いましょう」


 僕は女子力10000%を使った。隣に座っている猛の足は震えていた。


「見てもらった通り椎名君はドラフト上位の実力です。彼を最後で指名しても契約金額は同等にしてもらいたいの」


 言葉を失ったドラフト陣がお互いに顔を見合わせた。


「そして、僕をキャッチャーとして穫ることが最低条件」


 彼らの目が一斉に僕に注がれる。ここが勝負――僕は静かに話し出す


「この魔球を捕球できるようになるまで三年以上かかけたの。僕以外の選手で練習したとして直ぐには使い物になるとはとうてい思えない。それに捕手の練習だけで、猛の肩を消耗させる事を推し量れば、誰を最低年棒で穫るのが正解だと自ずと答えが出てくるでしょ」


 女のお前がプロ野手として通じるのかという声がくる前にたたみ込む


「女性初のプロ野球選手、しかもアイドル映え美人。このパンダ効果だけで数週間は横浜スタジアムを潤すでしょうね」


 お前何いうとあきれ顔で猛がこちらを見ている。


 監督が大きな声で笑い出す


「この子は怪物だねぇ」


「僕のオリジナルグッズの契約料は10%」


何を考えている!!!スカウト陣から声が出る。


「それはあんた達がここに入ればの仮定話だねぇ~」


 監督は嫌らしく笑う。


 僕は笑顔で


「じゃあ、3日後に読買ジャイアントに遊びに行くだけよ」


「最初にうちに来た理由が知りたいねぇ」


「簡単よ僕たちは神奈川育ちだもの!」


 当たり前のように返事してやった。


 彼らとの試合は終わった。どちらが勝ったのかは2日後に分かる。


 横浜スタジオを出たときには日はとっくに傾いていた。


「上手くいくのかな」


 猛がおしっこを室内で漏らした子犬のような顔をした。


「あと、11球団もあるじゃない。就職活動で一社なんて虫が良すぎるよ」


 僕は猛にウインクを投げた。彼は鼻を膨らませて


「そういや俺、全然しゃべってないよ」


 とブーたれたので。


「商談が壊れたらどうするの!」


 すかさず彼の腹にチョップしてやった。


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