第22話
文化祭も終わり何故か一仕事を終えたような気分になっている。学校から帰ってお風呂で汗を流す。熱いシャワーを浴びながら肌が水を弾くのを見て、これが若さの証とおっさんじみた言葉を吐く。風呂上がり冷蔵庫からカルピスを取り出し火照ったからだと、部活で抜けきった糖分を補給する。喉を鳴らしながら一気にそれを飲み干す。
台所から母が料理している音が聞こえる。誠ちゃんも手伝いなさいという声は聞こえない……振りをする。リビングでスマホ片手に新聞を広げる。テレビ欄を見て今夜プロ野球のドラフト会議があるのに驚く。生まれ変わってから17年間、ドラフト会議の中継など全く気にもしなかった自分に……。
ハイハイを卒業してからずっとボールとバットを握ってきた。幼稚園に入るとままごとや鬼ごっこがしたくないので野球をはやらす。誕生日やクリスマスには野球道具にしか興味を持たない不気味ちゃんだったかもしれない。そんな不気味ちゃんに母は可愛い服を着せ、父はお土産にぬいぐるみを買って僕を矯正しようと頑張っていたがいつの頃からか諦めていた。
小学校に入ってすぐ、無理を言って少年野球チームに入れてもらった。それからは野球三昧の生活を送り、自分なりのリア充生活を満喫していた。リア充というより男子に囲まれたハーレム生活というほうが正しいのか(クスクス)。
テレビの生中継でドラフト会議が始まった。悲喜こもごものプロ野球選手の卵達が画面を賑わす。
ビール片手に呼ばれることのないドラフト中継を真剣に見ていた自分を思い出す。
プロ野球選手になるための準備があと一年をきった――来年この席で自分たちが呼ばれることを想像して身震いが走る。
もう猛はランニングで悪態をつくことはない、悪態どころか僕が遅いと煽る余裕さえ出てきた。一緒に頑張っているとはいえ、少し嫉妬してしまう自分が恥ずかしい。
彼の成長は球威にも如実に表れる。キヤッチャーミットに吸い込まれる球は確実に重くなってきていた。来春にはプロ野球選手を翻弄するピッチャーがこの河川敷で生まれることを確信する。
そして僕たちはあと一年かけてもう一つの武器を作り上げる。自分が生まれ変わったアドバンテージすべてを賭けた戦いが始まった。
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