第23話


 街はクリスマスムード一色になる。陳腐べた な表現だがこれに勝る表現方法は存在しない。そんな中、誠は緊急事態に落ちいってしまった。


「この後、カラオケにでも行きたいみたいな」


 級友の今田くるみがテニスラッケットを部活鞄に突っ込み、リュックのように背負いながら提案してきた。


「いいなそれ! バレーボール漬けの毎日にあきたところさ」


 歌詞みたいな変な口調で安田薫子が返事を返す。


「マコちゃんも参加決定ーーーーーーい」


 柔道部の相良結衣が僕の予定を勝手に決めるのでムスッとした表情をわざと作る。


「誠も野球以外することないんだし」


 そう言われるとぐうの音も出ない……退路は断たれた。カラオケに向かう途中、どんな歌を唄うかそれだけで頭が一杯になる。人生経験二倍の僕だが、二度目の人生は野球しかしてこなかった……テレビアニメやドラマなど全く興味もない残念女子にスクスクと育っている最中。歌のレパートリーなんて全部懐メロだよ! 最近の歌なんて雑音にしか聞こえないと40過ぎのおばさんがいうけど、幼稚園のお遊戯でもう達観していたよ。


 部活帰りに偶然出会った四人のクリスマス会――彼女の戦いが始まった。


「この歌聞いたことがあるぅ~~~~」


 最初の人生では国民的アイドルであったスーマップの『大切な貴方のために』を歌い上げることが出来た。


「ん……なんか良い曲だねこれ」


 うん十年前大ヒットしたドラマの主題歌『マテリアサンバ』をノリノリで唄う。


「この歌もチョー知らないんですけど!」


 今ではキーが違いすぎて男性ボーカルの歌などほとんど歌えない……もう詰みかけ。


「僕ジュース取ってくるけど何がいい?」


 苦し紛れの時間稼ぎをするが、時間無制限のカラオケタイムは終わらない。スポーツで汗を流すのでストレスが貯まらないと思われがちだが、文化系以上に先輩後輩の軋轢でストレスは溜まりやすい。そんな負のエネルギーを発散させるのにカラオケはいいツールだ。しかも、歌い手達は体力の有り余る体育会系女子。二時間唄って楽しかったねェ~で終わるはずはない。


 カラオケなんて聞いている振りをして自分が気持ちよくなりさえすればいい。しかし、ある程度、順番にマイクを回しながら遊ぶ遊技。このメンバーの中に一人で永遠に歌い続けられる勇者がいればいいのだが、上下関係をびっしり教育されている僕たちはレールを外れる行為はしない。


「あれ? マコちゃんは休憩ですか」


 三曲ほど歌を入れないとさすがにつっこみが来る。小学生の合唱大会で歌った『愛よいつまでも』を熱唱。


「その歌、うけるんですけどーーーー」


 僕を除いた三人はどこかで聞いた今風の曲を歌い続ける。


~~~~~二時間経過


 マコトキレル


 デンモクに連続で三曲ほうりこむ。カラオケ画面から古くさいアニメが映し出され、今では絶対ありえないリズムな主題歌が流れる。『デンジャラスじーさん』デンデンデンと永遠に続くその曲が、僕の熱唱と共にボックス内に響き渡る。冷房も入っていないのにキンキンに冷えた室内。今の世代にはもう軍歌のごとく、過去のアニソンを三曲連続で歌い上げる。


 ボックス内はスタンディングオベーションに変わる。僕はこの戦争に勝った――


この後はカオスだった。お互いに知らない曲を歌い続け、5時間後には全員の屍だけが残った。


「楽しかったねェ~もう喉カラカラ」


「マジしびれたっしよ」


「マコちゃん反則ゥゥゥー」


 四人の歌姫は、日が落ちて寒くなった夜道を歩く。冷たいものが頬に当たる。


「あっ、雪だ」


 四人は常夜灯に照らされた落ちてくる雪を見つめる。


「ホワイトクリスマスだね」


 べたべたの表現で締めくくった……クリスマスナイトな青春の一ページ。







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