第13話
二度目の野球人生だからと言って野球道を網羅しているわけではない。捕手というポジションはほとんどやったことがない。投手という経験から理想の捕手像を作り出して相方を安心させるリードと配球に精進する。しかし技術面から言えば実際誰かに教わるのが一番で、四軍とはいえ彼らから教えてもらう技術指導はありがたい。
運が良かったことに二軍上位にいた山田君との出会いは大きい。彼の名は佐原太郎というのだが、名前の太郎からあの有名なマンガの名前があだ名になった。しかしドカベンではなく山田があだ名なので佐原と言われても誰も分からない。
ボールをキャッチしてからスローイングするまでの時間の短縮、助走して強い送球にするなど理屈では分かるが実際自分だけで完成させるとなると難しい。彼の経験則 からなるアドバイスは10冊の本より学ぶことが多かった。
キャッチングセンス、肩の強さ身体の大きさ彼は捕手になるために生まれてきたと言ってもいい。ただそんな恵まれた彼が四軍にいるかというと球が打てないのだ。少し内角球気味のボールをみると身体が固まってしまう。
彼は練習試合で危険球を頭に当ててからそういう身体になってしまった。死球からトラウマを受けるというイップスという精神病。今まで出来たことが出来ないと言うことはスポーツ選手にとって致命的であり克服する解決策も確立されていない。
僕も球に当たってあれした側なので彼になんだかのお返しはしたかった。
フリーバッティングのとき僕は山田君をキャッチャーに座らせて打席に立つ。
「よく見ていてね♪」
彼に優しい声をかける。たぶんなぜ声をかけられたかは全く分かってはいない。
力のこもった球が自分の横腹に沈む。声を上げる山田。
うずくまりたくなるのを我慢して、女子力1000%で
「わかっていたら大したことないんだよね!」
彼に笑顔を見せる。
僕は練習を始める前に僕にぶつけるように仕組んだのだ。最初はそんなことは出来ないとかなり渋ったが球友を救うためと美少女に攻められて落ちない男はいない。しかもなんの免疫力もない野球少年におねだりすることは簡単だ。
「 誠……おまえ」
彼がうめく。
僕は笑いながら彼にしか見えない角度から、ユニホームをめくり硬球の痕をみせてやった。
「これだけのこと」
そういっていい女は猛のところに走っていきピッチング練習を続けた。
次の日、山田君のバットから快音が流れて彼は二軍に戻っていった。私にボールをぶつけた投手がイップスになったかは教えないwww。
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