第11話

 フリーバッティングは二人で出来ないので練習に参加する。しかし、猛をバッティングピッチャー として使いたくないので僕が勤める。


  猛が自分の実力が知りたくて投げたがる。これは投手としての性。こんなところで彼の球を見せてもなんの利益もない。むしろ鮫の中に生肉を入れるがごとく彼は四軍に食いつぶされるだろう。あの魔球を打ち崩したいそんな欲求に野球好きの集まりを押さえることなど出来ようか……猛にもそれが分かっていると思っていたのだが若さとは恐ろしい物とある事件を起こしていた。


 僕がこの情報をつかんだのは河川敷球場で社会人野球をしているSNS 。球場で練習をしていると突然覆面をした中学生ぐらいの少年が突然やってきて、チームの四番に勝負を呼びかける。最初は頭の悪い子供のいたずらかと思い、球場から追い出そうとしたのだがこのチームの4番もビールが入っていたせいか良きかな良きかなと勝負を了解した。


 その投手から繰り出す球はバッターはもちろんキャッチャーさえ捕球できない球を投げていたと書かれていた。コメント欄は俺も見たとか、白昼夢乙、祭日に現れる怪人とか小さく荒れていた。


「これってあなたのことでしょ!」


 スマホを見せると彼は悪びれることなく


「見つかっちゃった♪」


 どこぞの芸人の様におどけて見せた。


「馬鹿ッッッッ!」


「そんなに怒ることないじゃん、ちょっとしたイタズラ」


「そんなことで使うなら次の組み替えで見せびらかして上の組を目指した方がましよ!そして持ち玉一つだけのナックル投げられますみたいな、一発屋高校球児に満足してちょうだい!!」


 僕は感情を初めてコントロール出来なかった。


「ご、ごめん……本当に軽い気持ちだったんだ」


 彼はおしっこを粗相した小型犬に見えた。そうだ彼はまだ16才。僕の尺度で考えてはいけなかったことに気づかされる。


 暑い夏も過ぎ、秋季関東地区高校野球大会が始まった頃、僕の防具は赤から真っ黒に変わる。


「ようやくこの暑い防具を着けずにピッチング練習が出来るようになったのに、涼しくなるとはこれいかに」


河川敷に心地ちいい風が吹き抜ける


 僕は彼のボールを押さえることが出来たことに満足した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る