第5話

 こういうことを言えばベタすぎて恥ずかしいのだがあれは運命の出会いだった。


 夏の全国高校野球選手権大会の予選が始まり、予選の日程にあわせて応援メンバーが指名される。こうした役は最カーストの部員が担当するが、うちの高校は二軍を中心に応援団が組まれる。こうして団結心が湘南高校を強くするらしい。四軍から見れば河川敷でフリーバッティングしている方が有意義という意見が多い。ただ一般生徒でさえ予選の準決勝、決勝は強制参加なので、予選で応援しない部員など論外。


そんな時期にある部員からキャッチボールを頼まれる。


「誠ちゃん暇してるなら僕のボールを穫ってよ」


 ナンパみたいなかけ声だ。


 彼の名は椎名猛。たけるというには完全に名前負けをした男の子だった。身長も小さく160あるかないぐらいで僕より小さい。


 声をかけられたが彼を見た覚えが全くない。四軍にいるとはいえ野球部員の名前は全員言える。


 その疑問が彼に伝わったらしく


「入学早々入院してたんだ」


 恥ずかしそうに話した。


キャッチボールを続けながら彼は


「まさかチームの振り分けを4月にして、組の振り替えをもうしないと思わなかったよ」


 僕は彼の球を受けながらどうせ四軍でしょうと心の中で突っ込みを入れる。


「どうせ四軍だったけど」


 猛は下を見ながら吐き捨てるように呟いた。僕は心を見透かされたかと小さくビクとした。


「誠ちゃんは女の子なのに上手くてびっくりしたよ、俺なんか湘南高校を受かったときにプロ野球選手の道が見えたと小躍りしたのに四軍選手のレベルに達していないんだぜ」


 素直な子だなと思いながらグローブから伝わる違和感を覚えた。


「椎名君、少し球を強く投げて」


「猛でいいよ♪誠ちゃんから球って言われるとエロイよね」


 童顔の顔からセクハラまがいな言葉を受けて50点マイナスにした。


 右から投げ出される彼の球を何回か受けているうちにその違和感が分かった。猛の球はぶれるのだ。


 球速を上げるたびにそのぶれが大きくなり、いつも決まった場所で受け取ったはずのボールが網先に吸い込まれたりする。野球人生二回の僕がキャッチボールでこんな基本をはずすわけがない。


 彼に近づきボールの握りを聞く。彼は恥ずかしそうに


「いたって普通だよ」


 さっと右手を後ろに隠す。僕はスッとかれの手首をつかみボールを手渡す。


「アッ」


 僕は小さな声を上げる。


「多指症なんだ」


 彼は寂しそうな顔をした。指が多い人間はいると聞いたが彼の指は親指と小指の間に綺麗な長さで4本あり、身体の割にはかなり長い。


 私も友人に野球やっているのに手が綺麗で長いとよく言われてきたが、彼の長さはそこから3cmはある。


「宇宙人とよく言われるんだ」


 まあ今はネタにできるけど、昔はよく傷ついて泣いたよ」


彼は枯れた笑いをした。


「練習が終わったら駅前のマクドナルドでまってるよ!」


 僕は人生で初めて女を使って笑った。


 猛は顔を真っ赤にしてボールを握って立ち尽くしていた。

























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