宿命ー1

 光は彼方先にある気がして届かないものなのだと思っていた。つかみどころがなくてそれは見るだけにとどめるべきものだと感じていた。

 ちがう。目の前にある。あなたという光はちゃんと私の手の中にーー。

 ごはんを食べに行こうと言われて、てっきりいっしょに行くのかと思っていた。ちがった。

「えー、待ち合わせ? いっしょに行こうよ」

「だめ。形上、待ち合わせしたいんだよ」

 は? 形上ってなにそれ。

「えぇ、でも」

「お願い」

 とユウが言うものだから、仕方なく了承した。

「わかったよ」

「あ、ちょっとだけきれい目な格好でね」

 ユウが、さらりとそんなことを言う。

「そ、そんなかしこまったレストランなの!?」

「いや、ふつうくらい」

 ふつうくらいって……なに?

 意味不明だった。

 とりあえずそんなこんなで予約当日。場所も聞かされないまま、待ち合わせ場所へ。一応、ドレスを着てみた。

 ろくに持ってないから買っちゃった。うーん、お店の人が選んでくれたけど似合ってるのかなぁ。

 オフホワイトのショートドレス。

 ……胸もと開きすぎかな。

 不安を抱きつつも足を運んだ。ユウはいた。

 あ、もう来てたんだ。

 声をかけようとした。

「ユ……ーー」

 けれど、おもわず立ち止まってしまった。ユウの姿に、私は魅入ってしまった。

 壁にもたれかかるようにして立っているユウ。茶色いラインの入った藍色のスーツ。鮮やかなターコイズブルーのネクタイ。

 艶のあるワックスで、髪を耳にかけている。サイドに流した髪が、すごく色っぽい。いつもと違う髪型、いつもと違う雰囲気。

 そんな彼を見て、私はドキドキした。妙に落ち着かない気持ちになった。

 あれ……私なんでこんなに動揺してるんだろう。いつもいっしょにいるはずなのに。

「杏奈」

 ユウがこっちに気づいて手をあげた。ニッコリと私に笑いかける。その無邪気な表情は、いつものユウ。

 あはは……ユウはユウだよね。

 私は、フッと笑みをこぼすと足を踏み出した。

 ユウが予約していたのは、五つ星の高級レストランだった。神聖な雰囲気の漂う店内。まわりにいるお客も、お金持ちそうなの人ばかり。

 ユウ……ふつうって言ったよね?ぜんぜんふつうじゃないよね。……どうしよ。

「ユウ……ここ、なかなか予約できないところだよ?」

「あ、そうなの? 知り合いが予約してくれたからさ」

 平然とした態度のユウ。

 知り合いがいて、予約してくれた? ユウって……何者?

 ユウの顔の広さに改めて驚かされた。

 うつくしい夜景の見える窓際で、私たちは食事をした。どの料理も上品でおいしかった。

 私たちは、いつものようにたわいない話をした。ただ楽しかった。

 こんな日がいつまでもつづけばいいなぁ、なんて思った。

 デザートが運ばれてきた頃、ユウが私に差し出した。翡翠色のジュエリーケース。私は首をかしげた。

「え、なに?」

「いいから、開けてみて」

「う、うん」

 手に力を込めて、ジワリと開けた。

「……ぇ」

 目をおおきく見開いた。そこには、ダイヤの指輪が入っていた。

「ユウ、これって」

 顔をあげた。少し恥ずかしそうにするユウが視界に入った。

「……あはは。こんなかしこまる必要もないかなって思ったんだけと一応。ジムのみんなも、ちゃんとしろってうるさいし」

「え、それって……まさか」

 ユウの口がゆっくりとひらかれる。

「うん。そのまさか。……ねぇ、杏奈。ぜったい後悔させない。悲しませるようなこともしない。だから」

 結婚してください、とユウはそう言った。恥ずかしそうに困ったように嬉しそうに、そんな表情を浮かべながらそう言った。

 ユウはとてもきれいだった。考える必要もなかった。

「……ありがとう」

 私はその場で返事をした。なんて幸せなんだろう。

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