酩酊ー2

 ユウと浩太くんは長い付き合いらしく、ときどきご飯を食べにいったりする仲らしい。とはいえ監禁されたことについては、もちろん知らない。

 そんな彼は、ちょくちょく私にちょっかいをかけてくる。今日だって、お酒をセーブさせようと声をかけてきた。私は浩太くんを睨んでやった。

「たまには私だって飲みたい」

「そうですけど……」

「浩太くん。せっかく飲んでるのに止めるの?」

「いや、だって飲み過ぎだから……」

「そんなにのんれない」

「呂律回ってないすよ……」

「なによ。今日くらい、いいじゃん」

 っていうか、私のほうが年上。彼はとても真面目だ。真面目すぎる。こんな席で、飲み過ぎなんて。そんなこと言う浩太くんは、先輩の私が指導してやる。私はズイッと顔を寄せた。

「浩太くん。きみは……真面目すぎるよ」

「え?」

「もっとろわないと!」

「杏奈先輩……酔ってますよね?」

「そんらことらい」

「酔ってます」

「えー?」

「えーって……」

 なにその適当にうけ流そうとする感じ。憎たらしいなぁ。でも、ちょっとかわいいなぁ。っていうか髪フワフワ。気持ちよさそう。

 浩太くんって動物みたいだ。ちょこまか動き回って、あー、なんかわしゃわしゃってしたい。動物にするみたいに、あぁ、触りたい。 ……もう我慢しない!

 私は、浩太くんの首に手を回すと思い切り頭をわしゃわしゃとした。

「先輩っ!?」

「あはは、かわいいー」

「やめてくださいっ、先輩酔ってますって」

「うん。酔ってるよー」

「こんなところユウさんに、見られたりしたら……っ」

「あはは。うん、ユウにバレたら怒られるね」

「俺……殺されるかも」

「あははは、そんなわけないでしょ?」

「僕が、どうかしたの?」

 !!??

 振り返ると、ユウがいた。なにやら青ざめる浩太くん。

「ユ……ユ……」

「あぁ、浩太。久しぶりだね。あれ、どうしたの? 肩、震えてるけど」

「な、な、なんで、」

「歩いていたら、たまたま君たちを見かけたんだ。ほんと偶然だなぁ」

 と言うユウは、驚いたと言わんばかりの表情。けれども浩太くんの表情はとっても暗い。

「偶然って場所じゃ、」

「なにが言いたいのかなぁ。あぁ、それと今度の組み手、楽しみだね。浩太」

「……っ、ぇ」

 突然、浩太くんの動きが止まる。

 まるで石みたいだよ、浩太くん。

「……ユウさん……組み手だけは……」

「身体なまってるから相手してよ。やだなぁ。なに怯えてるの? ただの組み手だってば」

「ゆ、許して……」

「あはは、許してってなにそれ。きみを殺すわけじゃあるまいし」

「……っ」

 ユウは終始ニコニコだった。浩太くんは顔面蒼白だ。ーーなぜ?

 にしても、ユウがこんなところにいるなんてほんと偶然だなぁ。嬉しい。あ、ユウがこっち見た。

「杏奈……なんでそんなに笑ってるの?」

 相変わらずきれいな顔だなぁ。

 私は、笑ってみせた。

「ん? だって、ユウに会えたー、よかったー」

「なに言ってるのか、よくわからないよ」

「えー、なんで?」

 ユウがいる。目の前にいる。

 わーい。なんか幸せだ。お酒のせいかな。気持ちいいなぁ。

 ユウが私をじぃっと見つめる。

 ドキドキするよ。あぁ、そんな綺麗な瞳で見つめないで。

「それよりさ、杏奈。きみ、かなり酔ってない?」

「酔ってないよー」

「酔ってるよね。完全に。はぁ、浩太なにやってんの? あんだけ、飲みすぎないように見ててねって言ったよね?」

「そ、そ、それは……俺も一応、止めたっ」

「ほんとうかなぁ」

 コクコクと頷く浩太くん。

 挙動不審な浩太くんもかわいいなぁ。

「あははは、仲良いねぇ」

「杏奈。きみさ、お酒弱いくせになにやってるの?」

 ユウが不機嫌なシワを眉間につくる。

 あぁ、ユウってほんとイケメン……。

「怒ったユウも、格好いいねぇ」

「この状況で、どの口が言ってるのかなぁ」

「へ?」

「悪いのは杏奈なんだよ。わかってる? まぁ、浩太もちょっと悪いけど」

「お、俺……なにもしてない」

「なにか文句あるのかな?」

「ナニモ」

「はぁ、これから先が思いやられるよ。……あぁ、だめだ。僕、杏奈を殺しちゃうかもしれない」

「あはは、ユウったら、なにその冗談」

「冗談じゃないよ」

 ユウの目は真剣だった。

 去り際に、

「杏奈先輩、おだいじに……」

 浩太くんのつぶやき声が、聞こえた。

 あぁ、……ユウに連れていかれてる。

「やだぁ、嬉しい~~」

「どっちなの?」

 ムスッとしたユウもやっぱり格好いい。


 タクシーでユウの家に帰った。抱きかかえられるようにしてリビングへ行く。

「あはは、ユウ、私酔っちゃったー」

「うん。そうだね。おかげでずいぶん心配したよ」

「えー、心配したのー?」

「死ぬほどね。なのにきみは、無自覚発言ばっかり。許さないから」

「え」

 ぴしゃりと言い放たれて、ドキリとした。張り詰めた空気。少し酔いがさめた気がする。

 ってあれれ、ユウの顔色があまりよろしくないな。

「覚悟しててね」

 ニッコリと笑うユウ。私は完全にユウを怒らせてしまったらしい。

「ゆ、許して……」

「許さないよ」


 縛られた。あの拘束具で。懐かしいな、なんて思ってるのも束の間だった。ユウは私の下着に手をかけた。

「ユウ……、ちょっと」

「言い訳は聞かないからね」

「あ……」

 ユウが私に触れる。瞬間身体を震わせた。神経を掴まれるような心地を味わう。

 ユウにより、私は一気に快感へ押し上げられていく。絡みつくようなユウの指先。そして、部分部分を撫でていく。

 彼は私の気持ちいいところをすべて知っている。身体のあちこちにある快感を司る部分を刺激され、抵抗すらできなくなった。しかもお酒のせいか、いつもよりさらに感じてしまう。

「ユウ……そ、こは」

「なに? 気持ちいいの?」

「き、もち……いぃ」

「じゃあ意地悪してあげる」

 ピークに達しそうだった。けれど、それをわざと引きとめる彼。楽しそうに口もとを緩めている。

「……ユウ」

「その顔やばい」

 焦らしプレイ。それが、ユウのお仕置き。拷問と同じくらい辛い。気持ちよくしてはやめるユウ。私は涙目で睨んだ。

「ユウの……意地悪」

「僕はね、怒ってるんだよ。女の人と言えど首にキスさせて、警戒心なさすぎ。しかも、浩太に自分から首に手を回してたよね? こんなに大切にしてるのに、どうしてわかってくれないかなぁ。心配でたまらないのに」

「ァ……っ、ユウ……」

「杏奈。いくら結婚を約束したからって、なんでも許したわけじゃないからね? ほんとうは監禁して、部屋に閉じ込めておきたいくらいなんだ」

 ユウは焦らすだけ焦らして私を弄んだ。


 ユウはドSだ。

 そして、私のストーカー、だった人。いや、今も……かな?

「たまにはこういうのも新鮮でありだね」

「なくていい……」

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