酩酊ー1

 あぁ、幸せな毎日。はぁ、幸せ。なんの迷いもなくユウを愛せるなんて、ほんとうに幸せだよね。

 あ、今日は、職場の飲み会かー。久しぶりに、飲もうかなぁ。


 今日は飲み会。私の職場は、春に盛大なお花見をする。たくさんの料理とお酒、満開の桜。なんだか気分が高揚していく。

 ふだんは飲まない私も、ついお酒がすすんだ。

 ガヤガヤ。

 お花見が始まって一時間。もうまわりはすっかり酔っ払って、どんちゃん騒ぎ。私も楽しくて、グビグビとお酒を飲んだ。

 あぁ、楽しいなぁ。桜もきれいだしなぁ。はぁ……私酔ってるかな。……あー……酔ってるかも……ーー。

「杏奈ちゃんっ、こっちで飲もっ」

 上司の声。

「はぁい」

 先輩に促されて、お酒を注いでもらった。グイッと口に含んで飲み込むビールがおいしい。

「杏奈、ふだんお酒飲まないよね?」

 となりに座っている同僚から声をかけられた。

「うん。でも、たまにはね?」

「顔変わらないし、お酒強いの?」

「どうだろ」

 ふと考える。お酒飲んだのいつぶりだろう。あんまり飲むことがないからわからない。

「あ、ん、な、ちゃーん」

 と、先輩が抱きついてきた。

「美代先輩っ!?」

 ずいぶん酔っ払っているようで、おもむろに私の頬をスリスリする。

「杏奈ちゃんっ、可愛い! 前からずっと思ってたの。ふふっ」

「へぁ……あ、ありがとうございます」

「その反応っ、可愛すぎぃ!」

 ぎゅうっとさらに抱きしめられた。

「ぁ……っ」

「ついでもチューもしちゃうっ」

 チウっと首にキスされた。

「っ……美代先輩っ!?」

「女同士、これからも仲良くしましょうねっ」

 いつもは真面目な先輩が、酔って私に絡む。私はそれが可笑しくて、なんだかわらえた。

 先輩酔ってる……あはは、まぁいっか。

 それからも、私はたくさんお酒を飲んだ。頭がボンヤリする。

 あー、フワフワする。酔ったの久しぶりだなぁ。

 楽しい……。

「杏奈先輩、飲み過ぎですよ」

 私のそばにだれかが来た。

「へ?」

 男の子の声。

 あぁ、きみかぁ。

「ベロベロじゃないすか」

 ため息まじりに言う彼は、ふたつ後輩の松田浩太。最近、声をかけてくる可愛い後輩だ。けど、今日ばかりは譲れない。 ジロリと彼を見た。

「なに? もう飲んじゃだめってこと?」

「いや、そういうわけじゃないですけど、……ユウさんから怒られても知りませんよ?」

 そう言って、釘をさす浩太くん。何を隠そう。彼はユウの知り合いだったことが、最近判明した。


 三ヶ月ほどまえのことだ。浩太くんから声をかけられた。

「杏奈先輩、ユウさんの彼女なんでしょ?」

「え、な、なんで浩太くんが、ユウのこと知ってるの?」

「同じジムで格闘技習ってるんですよ。んで、ユウさんは俺の大先輩」

「へぇ~、そうなんだぁ」

 ユウは総合格闘技を習っている。同じ場所に通っていたのが浩太くんだった。先日、たまたま恋愛の話になったらしい。 以外な関係性。ちょっとドキドキした。

「こんな偶然あるんだねぇ。にしても、浩太くん総合格闘技習ってるんだ」

「はい。時々、ユウさんと組み手もします」

「へぇ」

「あの人すげぇ強いんすよ。っていうか……怒らすとこわい……」

「そ、そうなんだ……」

 なんとなく想像できた。

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