ご褒美ー1
退院当日。ユウを迎えに病院へ行った。
病室へ行くと、私に気づいたユウがニコリと笑いかけた。すでに荷造りを終えているようだ。
「杏奈」
微笑むユウに駆け寄っていく。
「ユウ、ごめん。私なにもしてない。荷造り手伝うつもりだったのに」
「もう動けるんだから平気だよ。それより仕事休んでよかったの? 僕ひとりでも家に帰れたのに。どっちにしろタクシー乗るし」
「だめだよ。荷物もあるし、重たいもの持って足に負担かけたら……」
「だから平気だってば。杏奈は心配性だなぁ」
なんてユウはケロリと言うけれどやっぱり不安だった。だって、予定よりも早く退院する。
先生はあと一週間伸ばしたほうがいいと言った。それでも、ユウは聞かなかった。
「先生。僕明日退院できそうです」
一ヶ月前から先生と会うたび口癖のように言っていた。
初めは適当にあしらっていた先生。三日前、ユウの諦めの悪さにとうとう降参した。
「岡田くんの粘り強さにはお手上げだよ」
呆れるように先生が私へそう言った。
「すみません」
代わりに謝った。ユウの姿を視界の端に置いたまま感嘆した。
わがままなユウ。こんなに心配してるのに、当の本人は平気そうな顔して、
「はぁ、やっと退院できる」
なんて背伸びしながら呑気なことを言っている。
ユウったら……口が酸っぱくなるまで忠告しとかないと。
ベッドの端に腰掛ける彼の前で仁王立ちした。
「帰っても無茶しちゃだめだからね」
「わかってるよ」
「ジムでのトレーニングはしばらくおあずけだからね」
「はいはい。まったく先生といい杏奈といい世話焼きの人ばかりだなぁ」
ツンと口を尖らかすユウ。
あ、かわいい。なんて、つい許してしまう私も甘いなぁと思う。
実際、退院が決まったとき、一番喜んだのは私だった。
だって、ようやくユウが家に帰ってくる。これからは毎日いっしょだと思うと胸が弾んだ。帰ったら思いきり甘えちゃおう。
彼との甘い生活に想いを馳せていると、ユウが立ち上がった。
「ほら、杏奈。会計も済んだし行こう。この部屋はもう懲り懲り」
「……うん」
ユウの荷物を肩にかけると、ドアに向かって歩き出した。病室を出る前、もう一度振り返った。
二ヶ月間、ほとんど毎日通った病室。薬品とユウの匂いがするこの部屋には思い出がたくさんある。
面会の終わる時間ギリギリまでユウといて、離れたくないなんて我ながら子どもみたいなことを言ったりもした。
帰り際、私はかならず彼にキスをした。ユウはいつも名残惜しそうな顔でエントランスホールまで見送ってくれて、帰りはかならずタクシーで帰るようにと念を押す。
そんなユウとのやりとりが二ヶ月間つづいた。甘酸っぱい日々ともお別れ。
……お世話になりました。
心の中でお礼を言うと背を向けた。
ユウという存在は、私の心の一部。
それから、タクシーに乗ってユウの家へ帰った。玄関の鍵を外して中へ入る。緊張が解けたのもつかの間だった。
玄関のドアを閉めた瞬間、ユウが私の手を引いた。荷物を玄関に投げ出し、階段をのぼっていく。強い力で無理やり寝室へ連れていかれると、そのまま押し倒された。舌を絡ませる濃厚なキスをされ、服の中に手が入ってくる。思わずユウを引き止めた。
「ユゥ……まって」
「だめ。この日をどれだけ待ってたと思ってるの?」
「ユウ……」
「杏奈とこんなふうにしたかった。そのために先生にも無理いって退院したんだ」
「え、そうなの?」
「当然。それに、夜ひとりにさせるのも心配だったんだよ。僕のいないときに万が一のことがあったらと思うと眠れなかった」
「大袈裟だなぁ。言い過ぎだよ」
「言い過ぎじゃないよ。それほど、杏奈を愛してるんだから」
「……うん」
そして、再び口づけ。舌を絡め取られる。身体がゾクゾクする。ユウは私の腰に手を回すと、さらに舌を深く絡ませた。
彼の舌が触れるたび、私の身体がピクっと揺れる。心地よい快感に引きずり込まれそうだ。
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