翻弄ー2

 数日後、私は行動に出た。

 一日に一度与えられるお風呂の時間。

 その時間だけは、自由を与えられる。手錠も拘束具もない。私はシャワーを浴びたあと、隙をついて逃げ出そうとした。

 自分なりに計画を立てて、うまくいけば逃げられるはずだった。

 けれど、予想外だったのは、ユウが異常なまでに用心深かったことだった。お風呂場の通気口を開けた途端、アラームが鳴った。すぐにユウがやってきた。

 驚きのあまり動けないでいる私に笑いかける。

「そろそろ脱走しようとするかな、と思ってセンサーを付けてたんだ。役に立ってよかったよ」

「あの」

「ねぇ、杏奈」

「……ユウ」

「わかってるよね」

 ユウが微笑んだ。その笑みに、私は凍りついた。

 わかってる。約束を破って、逃走を試みた。これから私は罰を受ける。

 生ぬるい汗により、下着がベッタリと肌にはりついた。


 ベッドの上で目隠しされた。見えない恐怖。

「四つん這いになって」

 低いユウの声に、私は抵抗するのを恐れた。じわじわと指示に従った。目隠しをされた状態で四つん這いの姿勢をとる。

 ーー怖い。

 恐怖におののいていると、ユウが耳元でささやく。

「杏奈。わかってるよね」

 その言葉に私はピクリと肩を揺らした。

「ユウ……なにするの?」

「んー、なにすると思う?」

「……わからなぃ」

「じゃあ、教えてあげる。……こーするん……だよっ」

 鋭い音とともに、お尻に衝撃が走る。

「……ァ」

 弾けるような痛みに私は身体をそらせた。ムチによる罰。それは、屈辱以外のなにものでもなかった。身体的な痛み。そして、精神的な痛みもユウは加えた。

「逃げ出そうとするなんて、いけない子だ」

 細くしなやかなムチが、私を痛めつける。

「痛い。ゆう……痛いよ」

「痛くなかったら意味ないじゃない」

「もうやめて」

「お仕置きは、まだこれからだよ」

 ユウは再度振り上げた。甲高い音程を発するムチ。私の身体を打つ音が部屋に響き渡る。ただされるがまま罰を受ける。恥ずかしさと痛みと恐怖の融合。不規則な音が鼓膜を振動させた。

「ねぇ、逃げられると思ったの? きみは僕を甘くみすぎだよ」

 振り下ろされるムチは止まない。響き渡る炸裂音。身体に力が入らない。痛みと恥ずかしさで呼吸が乱れる。

 それからユウは、私が泣き出すまでやめなかった。お尻をなんどもムチで叩かれた。ごめんなさい、となんども叫んだ。もう絶対に逃げない、と幾度となく言わされた。

「……ごめんなさい……ごめんなさぃ」

 ポタポタと落ちていく涙。

「反省してる?」

「してる……うぅ……っ」

「ーーそう。なら、許してあげる」

 夜を迎えたころ、ようやく目隠しを外された。クタクタになった私は、気絶するように眠った。お尻がズクズクと痺れている。それに、四つん這いになっていたせいで膝が痛い。

 監禁されて一週間。逃げ出そうという意欲はすっかりなくなっていた。

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