第102話『過去と未来が交差する、魔王ヴェルグラの地底都市ー攻防戦⑤ 吸血鬼のグローリア、神具に名を刻む。』

 ピッ……ピ、ピッ! “現在の時刻、03:00”。

 3時間経過……悪魔の大厄災まで、残り3時間。



「おかしな組み合わせだ。吸血鬼が、憎き人間を連れて、何をしている?

 今は戦争中だぞ? ふざけているのか?」




 私たちの周りには、武装した龍人たち。魔王ヴェルグラの親衛隊かな?




 ここは魔王ヴェルグラの地底都市―下層の大空洞、巨大な地底湖付近。



 ここにある湖畔の遺跡、古代エルフ文明の遺跡から……私たちの目的の場所である、堕落神の神殿―最深部の秘匿の間へ辿り着くことができます。



 私は、白い瞳のグローリア。何もかも凍える冷たい白い瞳をもつ、吸血鬼の少女。腰まである長い黒髪は、白いリボンで纏めています。



 私は、龍人に初めて会いました。吸血鬼や人間と変わらない姿。特徴的なのは、頭部にある二本の角。魔力を帯びて、青く輝く角は、彼ら彼女らが龍種であり、ドラゴンの血を受け継いでいる証です。



 親衛隊は、全員が軍服―戦闘服を着こなしている。一般の兵士―トカゲに似た人型の魔物とは、明らかに違う。


 この龍人たちは選ばれたエリート。うん、まあ、王の親衛隊だから、当然と言えば当然……よし、じゃあ、私も覚悟を決めて、龍人たちに伝えます。



『皆様、私たち吸血鬼は、この醜い争い。

 機械の騎士との争いを終わらせる方法を知っています。』



 私は仲間の前に出て、頭を下げる。魔王の親衛隊、私たちに声をかけた龍人の眼を見て、逃げずに、震えずに……丁寧に言葉を発していきます。

 


『私は、堕落神―不死なる名も無き神の娘。吸血鬼のグローリアと申します。

 どうか、皆様、賢明なご判断をお願い致します。


 私を、魔王ヴェルグラ様に謁見えっけんさせてください。

 どうか、よろしくお願い致します。』



「貴様が、名無しの娘であることは知っている。

 故に、我らの王の神殿に近づくことを許した。


 だが、今の状況下で、貴様の今の戯言たわごとを信じる程、

 我らは愚かではない。」



 やっぱり、私の言葉だけでは、すぐには信じてもらえない。


 うん、それは正しいね。龍人の親衛隊は、王を守っている。素性の分からない者、信用できない者、魔物に害をなす者を、王のもとへ近づけてはいけないのだから。



「名無しの娘よ、時間は有限だ。戯れ言ではなく、確たる証拠を示せ。

 それができなければ、即刻去れ。


 貴様が、名無しの娘であることに免じて、一度だけ失態を見逃そう。」



 時間は有限。うーん、確たる証拠ね。


 魔王ヴェルグラが、最も尊敬しているのは、魔物の堕落神。軍神イグニス、巨神グレンデル、そして、養母様おかあさま、不死なる名も無き神。



 悪魔の女神によって、魔物の堕落神は封印されている。


 それなら、女神の時の封印を解くことができれば、好転して、状況は改善。無数の機械の騎士たちは破れて、私たち魔物は勝利を手にする。



 女神の時の封印を解く鍵は、間違いなく、“再生の聖痕”だ。



 ■■■は、悪魔の女神の極界魔術―再生の聖痕……私は、自分の名前を思い出したくない。だけど、再生の聖痕の力は欲しい。



 白い瞳の■■■・グローリアの冒険日記・上巻。私は、未来の自分が書いてくれた冒険日記を読んだ。そして、聖母フレイの代弁者である、ミトラさんと話をして、気持ちが吹っ切れた気がする。



 私は、悪魔の女神の様に、全てを叶えたい。皆で正しい道を選んで、私たちの世界、私たちの星、私たちの大切な仲間たちを、全部守りたいのだ。



 昔の霧の人形ではなく、今の吸血鬼の少女として生き残りたい。


 魔物である吸血鬼の同胞も、ハルトさんやマルトさんも……人間である冒険者たち、ミランダやロベルト、ミルヴァも。このゆかいな仲間たちを、誰も失いたくない!



「名無しの娘よ、確たる証拠を示すことができないのであれば……。

 二度と、我らの神殿、我らの王のもとへ近づくな。さあ、去れ!」



 ふふ、私は欲深い。強欲の魔女がぴったりだね。それじゃあ、私の神具に、私の霧の人形の名を刻み、女神の再生の聖痕を手に入れよう!



『極界魔術―白い瞳のグローリアの神具。』



 悪魔の女神様、どうか私に霧の人形の力を。養母様おかあさま、私は必ず、吸血鬼として生き残ってみせます。


 さあ、私の神具よ、我が手に……全ての魂、魔力を手にする為に!



『では、確たる証拠を! 私は、堕落神の封印を解くことができます。

 我が母を、女神の時の呪いから解放してみせましょう。』



 私の手の中に、大鎌が現れる。私の大罪―強欲の烙印は、光り輝く文字となって、大鎌を変貌させる。170cm~180cm程度の長柄に、強欲の烙印の文字が刻まれていき……。


 うん、強欲の魔女に相応しい神具。私は、昔の自分、霧の人形の力さえも、自分のものにしてみせる。


 私は、霧の中にいる傲慢な霧の女神に語りかけた。きっと、私の声はウルズお姉ちゃんに届く。霧の中から見守ってくれているはずだから……。



『ウルズお姉ちゃん、心配しないで。

 私は自分の名前を捨てたりしない。自分の霧の人形の力を放棄したりしない。



 そんなもったいないこと、私にはできないよ。


 だって、私は全部欲しい。12の星の核、

 七つの元徳や大罪さえも、全部欲しいの。



 ウルズお姉ちゃん、私の名前はグローリア。

 貴方の妹の名前―■■■は、私の神具に刻むから……どうか許して。



 私は強欲の魔女。利用できるものは、全部利用する。

 貴方の妹、霧の人形の力さえも、自分のものにしてみせる。


 だから、どうか私を許して、私を信じて……。』



 私は、傲慢な霧の女神に、必死に訴えた。すると、私の手の中にある大鎌に、変化が起こった。そうそれは確たる証拠となって、私の手の中で青く光り輝く!



《はあ、もう、貴方は本当に手のかかる子ね。

 グローリア、安心しなさい。


 貴方は私の妹よ。それは変わらないわ。

 グローリア、霧の人形に相応しい行いをしなさい。


 それができなければ、神具を取り上げるからね?

 頑張って、霧の中から見守っているからね。》



 私に優しく語りかけてくれる、ウルズお姉ちゃんの声が聞こえた気がした。



『ウルズお姉ちゃん、ありがとう。

 ヤンデレじゃない、お姉ちゃんは大好きだよ。』



 傲慢の霧の女神に祝福されて、私は自然と微笑んだ。私の手の中に、完成された神具が現れる!


 1m以上ある、カーブした大きな刃は青い水晶の様に輝いていた。青い水晶の刃は、敵の強固な鎧をすり抜けて、直接魂を狩る。



 そうこれは、死神の大鎌。強欲の魔女グローリアの神具。



『強欲な死神の死の宣告、魂の死をもたらす大鎌-

 サリエル・・デスサイズ。』



 私は、死神の青く輝く大鎌を持ちながら、龍人たちを睨みつける。魔王の親衛隊に、傲慢の霧の女神ウルズの様に、強く宣言した。



『王の親衛隊よ、よく聞け! 私は名も無き神の娘であり、強欲の魔女だ。

 悪魔の女神の時の力を、霧の人形の力を手にしている!

 

 私の大鎌を見よ! お前たちが望む、確たる証拠。これでは不充分か!?

 私の神具でも足りぬと言うのであれば、私の眼を見よ!



 悪魔の女神と同じ瞳を見ても、お前たちの魂は凍えぬか!?』



 えっと、強きに言うのはもう限界です。笑われてもいいから、もう一度、お願いしてみます。



『済みません、私を、魔王ヴェルグラ様に謁見えっけんさせてください。

 どうか、よろしくお願い致します!』



 うん、わたし頑張った。ウルズお姉ちゃんに似せてみたけど……こういう時は度胸だよね? 上手くいったかな?

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