時の間「女神の転移者。吸血鬼の少女、ルーン・グローリアとゆかいな仲間たち。」
ピッ……ピ、ピッ! “現在の時刻、02:00”。
2時間経過……悪魔の大厄災まで、残り4時間。
魔物の都市、その下層にあるものは、古代エルフ文明のもの。地底世界と言える程の大きな空間が、大地の下に存在していました。
ここは魔王ヴェルグラの地底都市―下層の大空洞。
私は、白い瞳のグローリア。何もかも凍える冷たい白い瞳をもつ、吸血鬼の少女。腰まである長い黒髪は、白いリボンで纏めています。
今は休憩中。同胞の吸血鬼たちは休んでいます。若葉色の光を放つ、魔晶の木々の近くで……私も、魔晶の木の根っこに座って、ある日記を読んでいました。
でも、一旦日記を読むのをやめます。ぱたんと日記を閉じました。
手の中にある日記を閉じて、魔晶の木や大空洞へ、視線を向ける。
ふぅ~と深呼吸。ふと、教師のハルトさんが教えてくれたことを思い出してみます。ここでハルトさんのまるわかりガイド~地底都市―下層の大空洞~。
下層の大空洞には三つのエリアがあります。一つ目のエリアは巨大な地底湖。湧き出る水は湖となって、やがて海へと流れていきます。
二つ目は灼熱の溶岩地帯。噴出する火山ガスは、その毒性で動植物を寄せ付けず、灼熱のマグマが滝となって流れ落ちていきます。
そして、三つ目が魔晶の木々が群生するエリア。若葉色の光が闇を照らし、古代エルフ文明の遺跡を淡く照らす。とても美しく、とても神秘的です。
魔物の堕落神は封印されても、星の核は魔力を供給し続ける。魔晶の木々は魔力(魔晶石の微粒子)があれば、太陽の光が届かない場所でも生存できた。
灼熱の溶岩地帯の火山ガスを吸収して、危険なガスの毒性を根に蓄えてくれている。地上の植物の様に酸素を生み出してくれるため、地底世界であっても、魔晶の木々周辺であれば普通に生活できるのだ。
魔晶の木々は、私が嫌いな太陽の光がなくても生きていける。太陽が嫌いな私たち、吸血鬼にはとても印象がいい。
吸血鬼、特に女性たちは好んで、苗木を育てる仕事や植木鉢を作る仕事をしていた。魔晶の木にも様々な種類があって、ガーデニングが流行っていたそうです。
ふぅ~ともう一度、深呼吸。視線を下げて、私は日記を開きます。
今、私は魔晶の木々が群生するエリアにいます。魔晶の木の根っこに座って、ある日記を読み始めました。これは、堕落神フレイと同化した、ミトラさんがくれた日記です。
私の大好きなお人形さん、希望の魔女ノルンが必死になって集めたもの。無くならないように、“日記の時”を止めてくれているらしいです。
一冊の日記、白い瞳の■■■・グローリアの冒険日記・上巻。
私の名前、私の日記だね。でも、私はこの日記に何を書いたか覚えていないの。
この冒険日記の目次は、こんな感じです。
※冒険日記の目次。
① 時の魔術のレッスン。
② 狂王の地底都市ヴェルグランドへの潜入。
③ 七つの大罪、怠惰と嫉妬の魔女。
④ 悪魔の大厄災、
⑤ 新しき霧の女神。■■■・リプリケートの死という救済。
⑥ “天国の鍵”を求めて、霧の女神の救済の旅。
ぺらぺらとめくって、私の日記を読む。
読んでも、文字として読めるのに……やっぱり、私の名前、■■■が分からない。たぶんだけど、私自身が名前を思い出したくないのかも。
■■■は、悪魔の女神の極界魔術―再生の聖痕。
私は、昔の自分に戻りたくないんだと思う。昔の自分、何が嫌だったのかと聞かれたら、可愛いお人形さん、あの子から全てを奪ってしまった。再生する時にあの子を傷つけてしまったからと答えます。
可愛いお人形さん、希望の魔女ノルン。私は、あの子と一緒に生まれて、あの子を傷つけてしまった。
『お母さん、どうして? 私を生んだの?
ノルンが何も知らないのは、誰よりも弱くなったのは……。
全て私のせい、だから、私を消して。』
『こんなはずじゃなかった。ただ、動きたかっただけ、
ただ知りたかっただけ……私が、人形の夢の世界が消えれば、
あの子も死んでしまうかもしれない。』
『だけど、死ぬのは一度だけ。スキルや魔力が戻り、
ノルンは霧の人形として蘇生できる。
お母さん、お願いだから……ノルンではなく、私を消してよ!』
そして、Code5.第五の刻―地獄での選択の時、再生の聖痕は役目を果たす。
『天の創造主の神具よ、私の声を聞け!
私は強欲の魔女。悪魔の女神に従い、
創造主に仇を為すもの。
創造主の神具よ、己の存在意義を示せ!
己の存在意義を示さず、何もしないのなら……。
私は、元徳の希望に選ばれた聖女を殺す。』
『誰も傷つかない、誰も不幸にならない。
ノルンだったら、できると信じてるよ。
ノルン大好きだよ、今までありがとう。
とても楽しかった!』
『■■■、お願いだからやめて!』
■■■は、役目を終えて……いや、完遂してないね。我儘な悪い天の創造主を癒すことができていない。私は失敗して、
このまま、吸血鬼として、何も知らずに平穏に生きていきたい。
※テラ・システム。
再生の聖痕による、時の女神の娘の治療が中断されています。
可愛いお人形さん、希望の魔女ノルンを助けたいという気持ちは変わらない。あの子の傍にいたい。でも、私の役目を果たすには、■■■に戻らないといけない。
だって、時の女神の娘―天の創造主は、再生の聖痕でないと癒せないんだから。
あ~、もう決まらない。自分の中で答えがでず、もやもやしながら、私はぱたっと日記を閉じた。
「■■■様、どうされました?」
声をかけられて、その人を見る。白いローブを纏った、金色の髪の女性。歳は30代くらい。金色の長い髪を後頭部で、赤いリボンで一つにまとめて垂らしている。
私の大切なゆかいな仲間。■■■という名前を、私にくれた人。
ミトラ・エル・フィリア。聖母フレイと同化して、名実ともに、聖母の代弁者。元徳の愛の保持者であり、創造主の神具さえも、自分のものにしている。
ミトラさんは、正しい道を選んだ。悪魔の女神でさえ、そう言うだろうね。
『ミトラさん、私分からないんです。答えがでなくて……。』
「………………。」
聖母の代弁者は、魔晶の木の根っこ、私の横に座った。彼女は何も話さない。私が話すまで待ってくれている。
『私は、可愛いお人形さんを助けたい。でも、■■■には戻りたくない。』
「? 嫌なら戻らなくてもいいと思いますよ。
貴方は、不死なる名も無き神の娘、グローリアお嬢様。
それでいいと思います。もしかして、
再生の聖痕が失われてしまうと考えておられますか?
それは大丈夫です。貴方が■■■という名前を捨てても、
悪魔の女神様の加護は失われません。
再生の聖痕で癒すのは、悪魔の女神様ですから。」
『え? あ、そっか……再生の聖痕は、悪魔の女神の極界魔術。
悪魔の女神が望まなければ、効果は発揮しなくてー。』
突然、聖母の代弁者に抱きしめられた。『? あれ、ミトラさんに抱きしめられている。えっと、何で? 私は別に泣いたりしてないけど……。』
聖母の代弁者は、優しく語ります。白い瞳の吸血鬼の少女は、自分の素性で悩む必要はなく、あとは進むだけだと……転移者、ゆかいな仲間たちと一緒に。
「グローリアお嬢様、貴方は、悪魔の女神様に愛されています。
貴方のお美しい白い瞳がその証拠です。
過去に運ばれても、貴方の白い瞳は失われていない。
貴方が名も無き神の娘として、吸血鬼として生きることを選んでも、
悪魔の女神様は、貴方を愛し続けます。
再生の聖痕という愛で、貴方を守るでしょう。貴方が守りたいものも。
グローリアお嬢様、私たちは転移者です。
悪魔の女神様や希望の魔女様によって、
過去や未来に運ばれる者たち。ここへ運ばれて、私は確信しました。
『白き霧よ、私の声を聞け。私は、時を奪う。
転移者たちよ、正しい道を見つけなさい。
正しい道であれば、時は動き出す。
夢から目覚め、大切なものを守りなさい。』
悪魔の女神様の
グローリアお嬢様、転移者である私たちと一緒に、
正しい道を見つけましょう。
私たちの世界、私たちの星、私たちの大切な仲間たちを守る為に……。」
私も、ミトラさんに抱きつきました。何も話さず、ただしがみ付く。ミトラさんの慈愛の温もりがとても心地よかった。
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