第98話『戦乱の真っ只中! 魔王ヴェルグラの地底都市、攻防戦③』
私は、白い瞳の■■■・グローリア。強欲の烙印の保持者。
ここは魔王ヴェルグラの地底都市。魔物の
天国の鍵(天のピース)。青い水晶のペンダントの光が、周囲を淡く照らす。
私の目の前に立つ、傲慢な霧の女神ウルズ。霧の女神様は何も言わず、魂を惑わす紫の瞳で、私をじっと見た。
ドキッとして、自然と
カラン、ガチャと何かの金属が落ちた音がした。
ウルズお姉ちゃんの後ろに、機械の騎士が立っていない。傲慢な霧の女神様の足元に、機械の騎士の
金属の手や足、顔も、胴体も、全ての
女神の霧が教えてくれる。傲慢な女神は気に入らない、邪神の騎士の存在を認めなかったと……時の
時の魔術。私が知る限り、最も凶悪な魔術です。堕落神の極星魔術が、可愛く見える。時の魔術を行使できないものは、何もできない。
ウルズお姉ちゃんが纏う霧の中に、人の魂が見えた。たぶん、機械の騎士に封じ込められていた、邪神の配下の魂かな。
女神の霧が隠してしまって、もう見えない。あの騎士の魂が、どうなるか知らない。今のウルズお姉ちゃんは少し怖いので、聞かないでおこう。
《強欲の烙印。ふーん、烙印はちゃんと使えるのね。
及第点。本当に、ギリギリだけど……。
グローリア、貴方を私の妹だと認めてあげるわ。
私の寛大な慈悲に感謝しなさい。》
傲慢な霧の女神は、沈黙を破りました。私のこと、■■■ではなく、グローリアと呼んでくれた。それは素直に嬉しい。
私の同胞の吸血鬼たちがいるからかな? 銀細工で装飾された、黒いローブを身に着けている、可愛らしい6歳児の幼女。ウルズお姉ちゃんは近づくことをせず、私ともある程度の距離を保っています。
『あ、ありがとう。ウルズお姉ちゃん、少し怖いんだけど……。』
《はっきり言って、ガッカリだわ。
グローリア、貴方は弱すぎる。今のままだったら……。
何をしても私には、絶対に勝てないわよ?》
? うん、そうだね。もし私が、傲慢な霧の女神様と戦うことになれば、一瞬で終わる。戦闘にもならない。『時の魔術……霧の人形たちは、悪魔の女神に魂を奉げれば、行使できる可能性がある。』
《私に勝てないのなら、私より強い悪魔の女神に勝てる訳がない。
最後に後悔したくないでしょう? グローリア、霧の人形に戻りなさい。》
私は吸血鬼になってしまった。今の私ではどうやっても、時の魔術は行使できないと思う。私は吸血鬼、普通の魔物。霧の人形と比べたら、とても弱い存在……でも、弱くても生きようとすることはできる。
最後まで足掻くことはできる。私の助けたい者、同胞の吸血鬼たちの為に、無茶で無謀なこともできた。
ふと、私は思い出す。私には、自分の体がなかった。
『死にたいんじゃないの?
勿体ないから、その体……私に頂戴。』
白い人形のノルン、あの子にそう言ったね。ずっと、自由に動かせる体が欲しかった。確かに、霧の人形と比べたら弱いけど、構わない。
私は思い出して、自然と微笑む。それを見て、ウルズお姉ちゃんの機嫌が悪くなった。
《そう、貴方は、■■■に戻りたくないのね。そう分かったわ。
じゃあ、勝手にしなさい。もし、ここで無駄死にしたら……。
悪魔の女神には、グローリアは弱かったから。
霧の人形に戻ろうとしなかった、■■■が悪いと言っておくわ。》
ウルズお姉ちゃん、私は、今の自分にとても満足しているの。『ウルズお姉ちゃん、霧の女神様なんだから……もっと優しくしてよ~!』
《はあ~、私の優しさを無駄にして……もういいわ。
グローリア、あと数秒後に、別の邪神の騎士が自爆する。
ここから離れているから、この部屋が崩れたりはしない。
崩れはしないけど、まあ、揺れたりするんじゃない?
地表では、私のウロボロスが、騎士を喰っているから……。
私のペットが間違って、弱い魔物を食べても、私は気にしない。
生き残りたかったら、名無しのところに行けば?
地底都市に侵入している、邪神の騎士は、貴方たちで対処しなさい。
ここは、魔王ヴェルグラの地底都市なんでしょう?
魔物の都市なら、自分たちで守りなさい。それじゃあね。》
不機嫌な霧の女神様は、まくし立てて、霧の中に帰っていきました。同胞の吸血鬼たちが、私のもとへ駆け寄って、滅茶苦茶、心配してくれています。
泣いている女性の吸血鬼に抱きしめられて、身動きが取れない時に、大きな揺れが発生しました。ウルズお姉ちゃんが言っていた、別の騎士の自爆でしょう。
地震の様にグラグラと揺れたあと、しーんと静まり返る。
傲慢な霧の女神様が言ったこと、地表では霧の龍ウロボロスが暴れている。皆でぞろぞろと、無計画に地表に逃げれば、そこで終わりかな。
私は、同胞の吸血鬼たちに抱きしめられながら思いました。『ウルズお姉ちゃん、せめて……完成された大罪の神具を頂戴。私の神具、長い棒なんだけど……。』
それから、時が流れました。
地上では、大好きな夜が訪れているかもしれません。
私たちは、
体力のない者が多いので、途中で何度か休憩しながら進みます。休憩中、岩の上に座っていると、私からお二人の女性―ハルトさんとマルトさんが離れません。
「グローリア様、体調は大丈夫ですか?
少しでも、不調があれば仰ってください。」
「そうです、お嬢様。無茶をしないでくださいね。
先程の様に、邪神の騎士とは戦わないでください。
あいつがいたら逃げましょう。
隠れて、逃げて、生き延びることが一番です。」
同胞の吸血鬼たちの中で、特に私の傍から離れないお二人。双子の女性ですね、姉がハルトさん、妹がマルトさん。
お二人とも黒髪で、物語の小説に出てきそうな魔物―吸血鬼らしく赤い眼で、青白い肌。姉ハルトさんの黒髪はストレートで、肩に届いています。
妹マルトさんの黒髪は、ショートヘアでパーマです。幼さがでていて、ゆるっと可愛い感じです。姉のハルトさんはきりっとしていて、お姉さんという感じがします。
休憩中に、ハルトさんとマルトさんとよく話しました。
ハルトさんは教師をしていて、マルトさんは保育士を……あの避難所に子供が多くいたのも、お二人が教え子たちと一緒に逃げたから。
運よく、親御さんに会えた子もいました。
でもね、残念なことに、もう会えない子の方が多いです。
泣いている子たちを、ハルトさんとマルトさんは抱きしめて、慰めてあげていました。
ねえ、人と魔物、何が違うの? 迷い星フィリスの罪のない人と魔物は、本質は変わらない。皆、必死になって生きている。
心の底から、同胞の吸血鬼たちを守りたいと思った。『強欲の烙印。私は神具を完成させないと……霧の人形に戻ったら生き残れるのかもしれない。
でもね、ウルズお姉ちゃん、私は吸血鬼で、魔物なの。ここから逃げたら、最後じゃなくて、今、後悔するよ。』
ごめんね、ウルズお姉ちゃん。
傲慢な霧の女神様、どうか霧の中から見守っていて下さい。私はグローリアとして、皆を守ってみせます。こんな所で、犬死はしませんから。
幸運なことに、避難所から出て、別に機械の騎士には遭遇していません。
私たちは、列をなして進みます。地底都市の通路、長いトンネルの様になっていて……魔物の神―堕落神が封印されてしまって、トンネル内の明かりはついていません。
暗闇の中を、私の青いペンダントが照らします。
私を先頭に、すぐ後ろにハルトさんとマルトさん。私たちは、下層の大空洞、最深部の秘匿の間を目指して、進み続けます。最後まで、必死に足掻く為に。
まだ、私たちは生き残っているのですから。
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私は、傲慢な霧の女神ウルズ。可愛い妹たちに手を差し伸べる。
女神の霧が囁く。この霧の声は、■■■には聞こえていない。グローリアの代わりに、私は霧の声に耳を傾けた。
“現在の時刻、00:00”。
魔王ヴェルグラの地底都市、最深部の秘匿の間へ。
グローリアと同胞の吸血鬼たち、移動開始。
邪神の騎士、集結中。
女神の
終末の
“制限時間、残り6時間”。
グローリアたちに残された時間は6時間だけ……夜の時間が過ぎれば、邪神の太陽の光が降り注ぐ。悪魔の大厄災-悪魔の軍勢が終末の行軍を開始する。
今度は、名無しの配下である、幽鬼シャノンはいない。堕落神―名無しの支援もないから、逃げることもできないでしょうね。
悪魔の女神が動けないのなら、私が助けてあげるしかない。
グローリアは、“ルーン”と同じ強欲の烙印の保持者。弱いけど、私の大切な妹。名無しの娘で弱いけど、悪魔の女神の娘であったことも変わらない。
ルーン・グローリアには聞こえていない。それでも、私は悪魔の女神に代わって、大切な妹に語りかける。
《手のかかる子ね。グローリア、未来の様に……。
ルーンの冒険日記の様にはならないわよ?
グローリア、覚悟しなさい。
逃げられないのなら、愚かな敵を殲滅しなさい。
完成された大罪の神具は、貴方たちの道をひらく。
邪神の騎士が、大軍であろうと、貴方の敵ではないわ。
ルーン・グローリア、同胞の吸血鬼を守って、
吸血鬼のグローリアとして生き残りたいのなら……。
強欲の烙印を完全に制御してみせない。霧の中から見守ってあげるわ。》
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