第98話『戦乱の真っ只中! 魔王ヴェルグラの地底都市、攻防戦③』

 私は、白い瞳の■■■・グローリア。強欲の烙印の保持者。


 ここは魔王ヴェルグラの地底都市。魔物の異端者死にぞこないが集う、居住エリア……火炎魔術は消滅。邪神の騎士を燃やす炎は消えて、薄暗い部屋に戻っています。


 天国の鍵(天のピース)。青い水晶のペンダントの光が、周囲を淡く照らす。



 私の目の前に立つ、傲慢な霧の女神ウルズ。霧の女神様は何も言わず、魂を惑わす紫の瞳で、私をじっと見た。


 ドキッとして、自然と大鎌デスサイズをもつ手の力が強くなった。暗い場所の方が、紫の瞳はより際立つ。より怪しく、人や魔物を惑わすと思った。



 カラン、ガチャと何かの金属が落ちた音がした。


 ウルズお姉ちゃんの後ろに、機械の騎士が立っていない。傲慢な霧の女神様の足元に、機械の騎士の部品パーツが落ちて……。


 金属の手や足、顔も、胴体も、全ての部品パーツばらばらになっている。それで終わらない。騎士の部品は形が崩れて、細かい粒になって、最終的に塵となって消えた。


 女神の霧が教えてくれる。傲慢な女神は気に入らない、邪神の騎士の存在を認めなかったと……時の逆転リバースによって、存在する前の状態に戻されたみたいです。



 時の魔術。私が知る限り、最も凶悪な魔術です。堕落神の極星魔術が、可愛く見える。時の魔術を行使できないものは、何もできない。



 ウルズお姉ちゃんが纏う霧の中に、人の魂が見えた。たぶん、機械の騎士に封じ込められていた、邪神の配下の魂かな。



 女神の霧が隠してしまって、もう見えない。あの騎士の魂が、どうなるか知らない。今のウルズお姉ちゃんは少し怖いので、聞かないでおこう。



《強欲の烙印。ふーん、烙印はちゃんと使えるのね。

 及第点。本当に、ギリギリだけど……。


 

 私の寛大な慈悲に感謝しなさい。》



 傲慢な霧の女神は、沈黙を破りました。私のこと、■■■ではなく、グローリアと呼んでくれた。それは素直に嬉しい。



 私の同胞の吸血鬼たちがいるからかな? 銀細工で装飾された、黒いローブを身に着けている、可愛らしい6歳児の幼女。ウルズお姉ちゃんは近づくことをせず、私ともある程度の距離を保っています。



『あ、ありがとう。ウルズお姉ちゃん、少し怖いんだけど……。』



《はっきり言って、ガッカリだわ。

 グローリア、貴方は弱すぎる。今のままだったら……。


 何をしても私には、絶対に勝てないわよ?》



 ? うん、そうだね。もし私が、傲慢な霧の女神様と戦うことになれば、一瞬で終わる。戦闘にもならない。『時の魔術……霧の人形たちは、悪魔の女神に魂を奉げれば、行使できる可能性がある。』



《私に勝てないのなら、私より強い悪魔の女神に勝てる訳がない。

 最後に後悔したくないでしょう? グローリア、霧の人形に戻りなさい。》



 私は吸血鬼になってしまった。今の私ではどうやっても、時の魔術は行使できないと思う。私は吸血鬼、普通の魔物。霧の人形と比べたら、とても弱い存在……でも、弱くても生きようとすることはできる。



 最後まで足掻くことはできる。私の助けたい者、同胞の吸血鬼たちの為に、無茶で無謀なこともできた。



 ふと、私は思い出す。私には、自分の体がなかった。



『死にたいんじゃないの? 

 勿体ないから、その体……私に頂戴。』



 白い人形のノルン、あの子にそう言ったね。ずっと、自由に動かせる体が欲しかった。確かに、霧の人形と比べたら弱いけど、構わない。



 私は思い出して、自然と微笑む。それを見て、ウルズお姉ちゃんの機嫌が悪くなった。



《そう、貴方は、■■■に戻りたくないのね。そう分かったわ。

 じゃあ、勝手にしなさい。もし、ここで無駄死にしたら……。


 悪魔の女神には、グローリアは弱かったから。

 霧の人形に戻ろうとしなかった、■■■が悪いと言っておくわ。》



 ウルズお姉ちゃん、私は、今の自分にとても満足しているの。『ウルズお姉ちゃん、霧の女神様なんだから……もっと優しくしてよ~!』



《はあ~、私の優しさを無駄にして……もういいわ。


 グローリア、あと数秒後に、

 ここから離れているから、この部屋が崩れたりはしない。


 崩れはしないけど、まあ、揺れたりするんじゃない? 



 地表では、私のウロボロスが、騎士を喰っているから……。

 私のペットが間違って、弱い魔物を食べても、私は気にしない。



 生き残りたかったら、名無しのところに行けば?

 地底都市に侵入している、邪神の騎士は、貴方たちで対処しなさい。


 ここは、魔王ヴェルグラの地底都市なんでしょう?

 魔物の都市なら、自分たちで守りなさい。それじゃあね。》



 不機嫌な霧の女神様は、まくし立てて、霧の中に帰っていきました。同胞の吸血鬼たちが、私のもとへ駆け寄って、滅茶苦茶、心配してくれています。

 


 泣いている女性の吸血鬼に抱きしめられて、身動きが取れない時に、大きな揺れが発生しました。ウルズお姉ちゃんが言っていた、別の騎士の自爆でしょう。



 地震の様にグラグラと揺れたあと、しーんと静まり返る。


 傲慢な霧の女神様が言ったこと、地表では霧の龍ウロボロスが暴れている。皆でぞろぞろと、無計画に地表に逃げれば、そこで終わりかな。



 私は、同胞の吸血鬼たちに抱きしめられながら思いました。『ウルズお姉ちゃん、せめて……完成された大罪の神具を頂戴。私の神具、長い棒なんだけど……。』




 それから、時が流れました。



 地上では、大好きな夜が訪れているかもしれません。



 私たちは、養母様おかあさま―名無し様が封印されている、地底都市の最深部を目指すことになりました。



 体力のない者が多いので、途中で何度か休憩しながら進みます。休憩中、岩の上に座っていると、私からお二人の女性―ハルトさんとマルトさんが離れません。



「グローリア様、体調は大丈夫ですか? 

 少しでも、不調があれば仰ってください。」



「そうです、お嬢様。無茶をしないでくださいね。

 先程の様に、邪神の騎士とは戦わないでください。


 あいつがいたら逃げましょう。

 隠れて、逃げて、生き延びることが一番です。」




 同胞の吸血鬼たちの中で、特に私の傍から離れないお二人。双子の女性ですね、姉がハルトさん、妹がマルトさん。


 お二人とも黒髪で、物語の小説に出てきそうな魔物―吸血鬼らしく赤い眼で、青白い肌。姉ハルトさんの黒髪はストレートで、肩に届いています。



 妹マルトさんの黒髪は、ショートヘアでパーマです。幼さがでていて、ゆるっと可愛い感じです。姉のハルトさんはきりっとしていて、お姉さんという感じがします。



 休憩中に、ハルトさんとマルトさんとよく話しました。


 ハルトさんは教師をしていて、マルトさんは保育士を……あの避難所に子供が多くいたのも、お二人が教え子たちと一緒に逃げたから。



 運よく、親御さんに会えた子もいました。




 でもね、残念なことに、もう会えない子の方が多いです。



 泣いている子たちを、ハルトさんとマルトさんは抱きしめて、慰めてあげていました。


 ねえ、人と魔物、何が違うの? 迷い星フィリスの罪のない人と魔物は、本質は変わらない。皆、必死になって生きている。



 心の底から、同胞の吸血鬼たちを守りたいと思った。『強欲の烙印。私は神具を完成させないと……霧の人形に戻ったら生き残れるのかもしれない。



 でもね、ウルズお姉ちゃん、私は吸血鬼で、魔物なの。ここから逃げたら、最後じゃなくて、今、後悔するよ。』



 ごめんね、ウルズお姉ちゃん。


 傲慢な霧の女神様、どうか霧の中から見守っていて下さい。私はグローリアとして、皆を守ってみせます。こんな所で、犬死はしませんから。




 幸運なことに、避難所から出て、別に機械の騎士には遭遇していません。


 私たちは、列をなして進みます。地底都市の通路、長いトンネルの様になっていて……魔物の神―堕落神が封印されてしまって、トンネル内の明かりはついていません。



 暗闇の中を、私の青いペンダントが照らします。


 私を先頭に、すぐ後ろにハルトさんとマルトさん。私たちは、下層の大空洞、最深部の秘匿の間を目指して、進み続けます。最後まで、必死に足掻く為に。



 まだ、私たちは生き残っているのですから。



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 私は、傲慢な霧の女神ウルズ。可愛い妹たちに手を差し伸べる。


 女神の霧が囁く。この霧の声は、■■■には聞こえていない。グローリアの代わりに、私は霧の声に耳を傾けた。




 “現在の時刻、00:00”。


 魔王ヴェルグラの地底都市、最深部の秘匿の間へ。

 グローリアと同胞の吸血鬼たち、移動開始。


 

 邪神の騎士、集結中。


 女神の勅命インペリアルオーダー、“悪魔の大厄災”。

 終末の行軍ターミナルマーチまで、残り6時間。




 “制限時間、残り6時間”。


 グローリアたちに残された時間は6時間だけ……夜の時間が過ぎれば、邪神の太陽の光が降り注ぐ。悪魔の大厄災-悪魔の軍勢が終末の行軍を開始する。



 今度は、名無しの配下である、幽鬼シャノンはいない。堕落神―名無しの支援もないから、逃げることもできないでしょうね。



 悪魔の女神が動けないのなら、私が助けてあげるしかない。


 グローリアは、“ルーン”と同じ強欲の烙印の保持者。弱いけど、私の大切な妹。名無しの娘で弱いけど、悪魔の女神の娘であったことも変わらない。



 ルーン・グローリアには聞こえていない。それでも、私は悪魔の女神に代わって、大切な妹に語りかける。



《手のかかる子ね。グローリア、未来の様に……。

 ルーンの冒険日記の様にはならないわよ?


 グローリア、覚悟しなさい。

 逃げられないのなら、愚かな敵を殲滅しなさい。



 完成された大罪の神具は、貴方たちの道をひらく。

 邪神の騎士が、大軍であろうと、貴方の敵ではないわ。



 、同胞の吸血鬼を守って、

 吸血鬼のグローリアとして生き残りたいのなら……。


 強欲の烙印を完全に制御してみせない。霧の中から見守ってあげるわ。》


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