第97話『戦乱の真っ只中! 魔王ヴェルグラの地底都市、攻防戦②』

 私は、白い瞳の■■■・グローリア。


 私と、フィリスの騎士は互いに武器を持ち、対峙する。そのさ中、女神の霧が、私に囁く。傲慢な霧の女神が、霧の中で極界魔術を行使した。


 !? ウルズお姉ちゃんが、私を助けてくれるのかな? ウルズお姉ちゃんはツンデレだね。変なところで厳しいから、もっと優しくていいと思うけど……。



《傲慢の霧の女神ウルズの極界魔術。

 :天上天下に招かれし大罪の神具。

 傲岸不遜ごうがんふそんな魔女たちの宴。》



 ? 長いね。えっと、全ての世界に現れた、。お姉ちゃんたちが、大罪の神具を使って、謙虚さなどなく、驕り高ぶって、相手を見下す宴かな。


 宴の主催者(極界魔術の行使者)は、ウルズお姉ちゃんだし、大罪の保持者じゃなかったら、絶対に参加したくないや。



 七つの大罪。ウルズお姉ちゃんの大罪は、“傲慢”。アメリアお姉ちゃんが“憤怒”。エレナお姉ちゃんが“暴食”。養母様おかあさまが“色欲”。



 ヘルとヴァルは忘れた。歳の近い幼い姉、あの二人は霧の中に引き籠っているので、覚えていない。残っているのは、怠惰と嫉妬、そして、強欲。



 この三つの中なら、自分に一番あっているのは強欲だね。


 希望の魔女、ノルンの魂を奪っていた。今、邪神の神聖文字の魔力も奪えたし……機械の騎士の魂を奪いたい。生き物の魂を奪いたい、その衝動がある。



『白い瞳の■■■・グローリアの極界魔術、

 :死神の魂食マジックイーターい。』



 私の強欲の烙印。傲慢な霧の女神、ウルズお姉ちゃんによって、死神の大鎌-デスサイズに、私の大罪が付与されていく。


 大罪の烙印は、光り輝く文字となって、大鎌を変貌させる。170cm~180cm程度の長柄に、強欲の烙印の文字が刻まれて、1m以上ある、カーブした大きな刃は消える。私の腕の中に、大罪の神具が……。



『極界魔術―白い瞳の■■■・グローリアの神具。


 強欲な死神の死の宣告、

 魂の死をもたらす大鎌-サリエル・■■■・デスサイズ。』




 しかし、■■■・グローリア、神具の獲得に失敗!



 !? 私の神具の大鎌―透明な青い水晶の刃になろうとして、なぜか、途中で止まってしまった。それ以上、変化しない。


 その理由を、女神の霧が教えてくれた。えっと、ウルズお姉ちゃん、ツンデレじゃなく、ヤンデレなんだけど……。




 傲慢の霧の女神ウルズが、神具の出現を阻止!



《吸血鬼ちゃん、貴方のお名前を教えて。》



 霧の中から、傲慢の女神の声が聞こえてきた。グローリアといったら、絶対に無視される。


 ねえ、ウルズお姉ちゃん。■■■、私の名前を思い出せないから、途中で止めたの? グローリアではなく、■■■になれないと、完成された大罪の神具を渡さないつもり?



『ウルズお姉ちゃん!? なんで、こんなことするの?』



《私の妹は、■■■だから……貴方のお名前は?》



 いや、だから覚えてないってば! もう、性格悪いな~。助けるのなら、ちゃんと助けてよ。現に、フィリスの騎士に襲われているのに!



 私が、女神の霧に意識を向けていると……傲慢の霧の女神、ウルズお姉ちゃんに、気を削がれてしまった。機械の騎士との戦闘に集中できなくなった感じがする。



 これはウルズお姉ちゃんが悪い。うん、私は悪くない。



 フィリスの機械の騎士は、私との戦闘中に不可解で、不気味な行動をとる。ガチャと、大きな金属の塊が落ちた。『あれ? 機械の騎士がロングソードを落とした。降伏?……絶対にそんなことしないね。動作不良ならいいな~。』




 邪神の機械の騎士が、鋭いロングソードを捨てた。


 しかも、その場に跪いて、左手でもつ重厚な盾を自身の鎧に引き寄せている。頭も垂れているので、騎士の顔は私から見えない。騎士の鎧は、重厚な盾の中に隠れてしまって……文字通り、金属の塊となった。



 私の目の前にいた、機械の騎士の行動は不可解なものに見えた。武器を捨てて、跪く。敵との戦闘中にとっていい行動ではない。




 戦闘に集中できていなかった。理解できなかったから、判断が遅れた。



 邪神の配下は、頭のネジがとんでいる。そのことは、狂信者デュレス・ヨハンと対峙して、よく分かっていたはずなのに……この判断の遅れが、私にとって、同胞の吸血鬼たちにとって、致命的なものになる。



 ここは魔王ヴェルグラの地底都市。魔物の異端者死にぞこないが集う、居住エリア……避難所の部屋が、とても明るい。使



《愚かな小娘よ、我らの魂はすでにフィリス様に奉げている。》



 機械の騎士は淡々と喋る。猛烈な炎に包まれながら、最後の瞬間まで、ドロドロに熔け始めた盾を離さない。自らを焼く為に、火炎魔術を行使し続ける。



《我らの強さは信仰がもたらすもの。その輝きを、とくと見るがいい。》




 機械の騎士はもう動かない。ドロドロに熔けていく。


 私に女神の霧がまた囁く。この異常な熱量、火炎魔術だけでなく、邪神の神聖文字が効果を発揮している。……。



 人の魂を封じ込めている、騎士の動力源。青く輝く魔晶石と、邪神の神聖文字によって形作られた核が露出した。



 その瞬間、邪神フィリスの神聖文字が解放された!


 これは極星魔術。周囲に、邪神の神聖文字が先にとんでいく。避難所の部屋だけじゃない。別の部屋、さらに地底都市の通路だけでなく、下層にある大空洞まで、一瞬で文字が広がった。



 これは大爆発。邪神の極星魔術―聖なる火だ。



 私に残されている時間は、ほんの数秒しかない。転移魔術で、騎士の残骸をとばす? もう遅い、邪神の神聖文字は解放されているのよ?



 だめ、騎士の残骸がここからなくなるだけ。解放された神聖文字が、大爆発を引き起こしてしまう。


 今の私にできることは、同胞の吸血鬼たちを見捨てて、転移魔術で私だけ逃げるか。無謀だけど、同胞の吸血鬼たちの盾になることぐらい。



 この二択なら、私の答えはすぐにでた。



 私は両手で、巨大な死神の大鎌―デスサイズを構える。


 残念ながら、私の神具はまだ完成していない。途中で止まっている。霧が囁く、何度でも囁く。私の名前、君は誰?


 

《強欲の烙印……保持者の貴方のお名前は?》



 知らんわ~! 分からないってば……もう、強欲の烙印よ、死神の魂食マジックイーターい! 邪神の神聖文字を―。




《まったく、転移魔術で、自分だけ逃げればいいでしょう。

 死ぬはずだった同胞の吸血鬼を、見殺しにせず助けるのなら……。



 責任をとりなさいよ、■■■。しっかり生き残れる様にしてあげないとだめよ。

 自己満足は最低よ? 責任とらないなんて、地獄行きね。》




 突然、霧の中から、傲慢の霧の女神様が出てきました。


 ヤンデレな女神様。とても可愛らしい、6歳児のウルズお姉ちゃん。あの、お姉ちゃん、フィリスの機械の騎士が自爆するよ?……というか、その最後の言い方やめて。なんかやだ。




《傲慢の霧の女神、ウルズの時の魔術―極界魔術、

 傲慢な女神の時の逆転リバース。》



 チカッと閃光が走った。不思議なことに、フィリスの機械の騎士だけ、逆再生されていく。それ以外は、普通の時が流れているのにね。



 下層の大空洞まで広がった、邪神の神聖文字が戻ってきた。極星魔術が、完全に魔術で負けて、封じ込められた状態です。邪神は封印されているとは言え、堕落神の極星魔術でもお構いなし。



 傲慢な女神の時の逆転リバース。とても可愛らしい、ヤンデレな女神様が、気に入らないものは、全部戻してしまう。



 ドロドロに熔けていた金属が固まり、重厚な盾や大きな鎧に戻っていく。火炎魔術が行使される前の状態に戻って、正常な機械の騎士が佇んでいた。



 女神の霧には、元徳と大罪の優位性がある。霧は保持者を優先するの。


 現在、生き残った堕落神は封印されている。地底都市の近くに、元徳の保持者はいない。この状況で、大罪の魔女たちを、霧の魔術において上回ることはほぼ無理かもね。



 魔女のお母さん。悪魔の女神様はここまで考えて、霧を創ったのかな? 



 もしそうなら過去と現在、そして未来を見通す、悪魔の女神様はやっぱり最強だ。



 ウルズお姉ちゃん、霧の女神を名乗るのなら、女神に相応しい振る舞いをして下さい。意地悪しないで、私の神具をちゃんとください。本当にお願いします!


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