第95話『吸血鬼の少女グローリアは、魔王ヴェルグラの地底都市へ。』
私は悪魔の女神。私の白い霧が教えてくれる。
白い瞳のルーン、あの子は知らない。吸血鬼の少女グローリアは、堕落神―名も無き神の娘として、普通に生きていた。
過去の天上戦争時に致命傷を負って……そうまさに今、Code8.第八の刻に、霧の世界フォールから異界の青い星テラまで逃げのびた。そして、テラの衛星へ。そこで、ずっと眠ることになる。
私に封印された名も無き神は、娘を助けられない。配下の吸血鬼たちでは、グローリアの傷を治すことができなかった……私の極界魔術―再生の聖痕が癒すまで、目を覚まさなかった。
吸血鬼の少女、ルーン・グローリアがいる場所、ここは魔物の大陸。
最初の三大魔王ヴェルグラが支配する、地底都市の上空。フィリスの機械の騎士たちは、魔物を襲撃している。堕落神の6柱が、私に封印されてから……フィリスは、魔物の神の星を破壊して、天上戦争を引き起こした。6つの星が破壊されて、人と魔物は愚かな戦いを続ける。
創造主の操り人形フィリスは、人を助けなかった。
罪なき人々が救済を求めても、無反応。生き残った魔物の神―イグニス、グレンデル、名も無き神が封印されてから、機械の騎士たちはようやく稼働した。堕落神の加護を失った、傷ついた魔物たちを殺す為に……。
本当に、時は残酷ね。人は生き残ることだけで精一杯。聖フィリス教という間違った教えに縋りつく。残酷で残忍な神は、聖神と崇められるのだから。
希望の聖痕。私の可愛い娘ノルンから、未来からの贈り物。
ただ、この贈り物……希望だけでは何も起こらない。七つの元徳・大罪と重ねることで、希望の聖痕は効果を発揮した。私が創ることができない、“魂”にまで、直接影響を与えることができる。
希望の聖痕によって、上書きされた魂は、失った過去の記憶を取り戻すこともできるし、未来で手に入る魔力さえも使用できるようになる。
私の可愛い子ノルンはもう弱くない。天の創造主を滅ぼせる程、あらゆる世界で一番強い者になろうとしている。代償として、希望の魂が喰われることはないでしょう。
私はノルンの“希望の聖痕”で、ウルズの“傲慢の烙印”を上書きした。
ウルズは私の声を聞いていたのでしょう。直後、傲慢の霧の女神ウルズは転移魔術を行使して、星の外へ。希望の聖痕によって、未来の姿である霧の女神となって、極界魔術―傲慢の烙印を行使する。
聖神フィリスの極星魔術―白き太陽。宙から降ってきた、光の柱が二つに枝分かれした。光の柱は第三惑星にぶつかることなく、宙のかなたに消えていった。
《私は、傲慢の霧の女神よ。こんな炎ごときに、
やられる訳がないでしょう?》
白い霧から、ウルズの元気な声が聞こえてきた。
地獄に落ちた獣人の星の上空、星の外で負傷していた人形は……ウルズも強くなってくれた。後は、長女に任せましょう。
《!? あ、お母さん、それ反則!?
お母さんの反則負けで、第三惑星フィリスを壊すよ!?》
私の目の前で、時の女神の娘ノルンー天の創造主がまだ怒っている。
反則? ねえ、可愛いノルン。封印されているフィリスの代わりに、貴方が極星魔術―白き太陽を行使して、ルーンを殺そうとしたでしょう?
『ノルン、この星を壊したら、創造主の計画は絶対に叶わない。
創造主の魔力に頼っている貴方では、そんなことできないわ。』
《七つの元徳と大罪の保持者は、また蘇る。私が生き返らせるもん!
私のために役に立たない星なんて……。
私の邪魔をする、愚か者はいらない。お母さん以外、全部いらないの!》
私の可愛い子が、本当に第三惑星を破壊しようとする。第七の刻―時の封印。私は時の魔術を行使して、可愛い子を封印しようとする。
『こら、やめなさい。ノルン、大人しくしていなさい。』
《!? ちょっと、お母さん、やめてよ!?》
さすが、スキルー全知全能(欠落)の保持者。私が創り出した、青い水晶の檻を、難なく壊してしまう。すぐに、また時の封印を行使するけどね。
青い水晶の檻が現れては、すぐに壊れて……また、すぐに現れる。永遠に破壊と再生を繰り返す。私を殺せば、この状況から抜け出せる。だけど、天の創造主は、自身の計画が狂ってしまうから、私を殺せない。
時期が来れば、私の可愛い子を解放してあげよう。
自分の思い通りにならないと思って、この子は焦ったのかしら? 天国で待って、大人しくしていれば良かったのに……ノルン、私は悪魔だからね?
《お、お母さん……私、優しいお母さんの方が好きだよ。》
『? 私は悪いノルンも、優しいノルンも大好きよ。
貴方を霧の中に閉じ込めたくなる程……。
どんな世界よりも、誰よりも愛しているわ。』
正直に言って、私は白い霧の中にずっといて、とても暇だ。娘たちに過度な接触もできないし……希望の聖痕を届けることぐらいしかすることがない。
霧の人形を支えて、操ることをすれば、憎き創造主が邪魔をしてくる。
《……あのね、お母さん、天国に帰ってもいい?》
ふふ、帰す訳が無いでしょう。天国で待っていない、貴方が悪いのよ?
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ここは魔王ヴェルグラの地底都市の上空。宙から光の柱が接近しているらしい。えっと、どこに逃げればいいですか? ここは惑星フィリスですよね? 邪神は、自分の星すらも破壊するの?
私は、白い瞳の■■■・グローリア。
悪魔の女神と同じ瞳。何もかも凍える冷たい白い瞳をもつ、吸血鬼の少女。腰まである長い黒髪は、白いリボンで纏めています。
『傲慢の霧の女神、極界魔術を行使……聖神の白き太陽、消滅を確認。』
『!? や、やった。邪神の嫌いな太陽、消えたの?』
悪魔の女神の霧が、嬉しいことを教えてくれました。何もしていないけど、危険を回避できたみたい。白き太陽を呼ぶなんて、本当に、この星を壊そうとしている。
自分の星なのに、まるで意味が分からない。聖フィリス教の信者たちがいるのに……自分を支えてくれている人たちも殺そうとする。やっぱり、フィリスは邪神だ。それは間違いない。
あれ、私……重要なこと、聞き逃していない? 傲慢な霧の女神? 傲慢な魔女ではなく? 分からないから、女神の霧に聞いてみよう。
『ねえ、霧さん。ウルズお姉ちゃんはー。』
《■■■、貴方、ここで何をしているの?》
あ、ウルズお姉ちゃんだ。女神の霧の中から、小さな霧の女神が出てきました。白い手足に銀色の髪、魂を惑わす紫の瞳をもつ、6歳ぐらいの幼女。
傲慢の霧の女神ウルズ。銀細工がとてもいいアクセント、身の丈にあった黒いローブを着ている。魅惑的な雰囲気を醸し出していて、とても可愛らしいです。
女神の霧が、最初の霧の人形が生まれた場所だって言っていました。もしかしたら、生まれた直後かもしれません。お姉ちゃんでも、幼い子は可愛いです。
《■■■、失礼なこと考えていない?》
『え、えっと考えてないよ。
あの、ウルズお姉ちゃん、私はグローリアです。
今の状況の説明は難しいから、
お母さんの霧に聞いて欲しいんだけど……。』
《……貴方、また記憶を失ったの? まったく、弱い子ね。
私をみなさい。我儘な悪いノルンに殺されても、
大罪の烙印も失っていないし……この通りよ。》
ウルズお姉ちゃんは両手を腰にあてて、背中を伸ばした。うん、やっぱり可愛い。少し見ただけでは、この幼い子が傲慢の女神だとは信じられない。
《はぁ~、記憶を無くして、大罪の烙印も……。
グローリア……グローリアねぇ~。うーん、気に喰わないわ。》
『え、えっと、ウルズお姉ちゃん?』
あれ、不穏になってきた。
まずい、この流れは良くない。絶対に嫌な感じになる。ウルズお姉ちゃんは、無茶なノルマを課してくる。
大地を、邪神フィリスの騎士が行軍している。上空には、飛空船―ノアの箱舟が鎮座している。女神の霧の中には、悪魔の軍勢を統べている、傲慢な霧の女神が……あ、これ、私つんでない?
《そう、じゃあ、グローリア。貴方の役目を果たしなさい。
貴方は、名無しの娘。それなら、同胞を助けなさい。》
転移魔術。ウルズお姉ちゃんは、傲慢の烙印も重ねて行使してくる。抵抗なんて、絶対にできない。うわ、鬼だ。悪魔だ。こんなに可愛いのに、することはえげつない。
『!? ちょ、ちょっと待って。お姉ちゃん、助けて!?』
《? 私は、■■■を助けるわ。グローリア、記憶を取り戻しなさい。
一番手っ取り早い方法は、邪神の機械の騎士を殺すことね。
強くなれるし、記憶も取り戻せるし、一石二鳥でしょう?》
『し、死んでしまうから……本当にやめて!?
こんなことする、ウルズお姉ちゃん、大っ嫌い~!』
《はいはい、行ってら~。》
霧の女神の転移魔術。光が消えた。音も消えて、無音の闇の中へ……すぐに、光と音が戻った。温かい光が、私を照らしてくれている。嫌いな太陽の白い光じゃない、青い光です。
焦げなくて、とても安心。私の目の前に、青い水晶のペンダントがありました。
これは未来にあったもの。未来の私が必死になって、探し出したもの。希望の魔女が、未来から届けてくれた、“天国の鍵”でした。
時の女神の落とし物―天国の鍵(天のピース)。
砕けた、10個の欠片―N0.6~N0.10 終末のノアの箱舟-魂の貯蔵庫。
保持者―白い瞳の■■■・グローリア。
「!? グローリアお嬢様!? シャノン様と一緒に、
異界の星テラに……どうして、こちらに……。」
「シャノン様にすぐに伝えるんだ! お嬢様が、まだ地底都市におられる!」
えっと、とても騒がしいです。私の周りにいる方は、みんな吸血鬼ですね。女性や子供が多い気がします。
「お嬢様、お怪我はありませんか!?
ここにいてはいけません。フィリスの騎士が……。」
お嬢様? あの、そんなに頭を下げないでください。ああ、ちょっと、私はどこも怪我をしていません。そんなに心配しなくて、大丈夫ですよ。
『グローリアお嬢様……名無し様、
昔のこと、教えて欲しかったです。何にも分からないじゃないですか~!』
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