第80話『希望の都ラス・フェルトの人魔協定②』

 私は、希望の都の通りを歩く。歩くというか、白い犬の耳と尻尾をもつ、女性の獣人に運ばれています。私の腰にある、フィナの手は小さくて可愛らしいのに、引きはがそうとしてもびくともしません。



 私は、白い瞳のルーン・グローリア。


 全身を隠す黒いローブとフリルレースの黒い日傘。白いリボンと腰まである長い黒髪に、悪魔の女神と同じ瞳、全てが凍える白い瞳をもつ吸血鬼の少女は、獣人のメイドさんに無理やり連れていかれています。


 元悪魔のメイド、元軍国フォーロンドの伯爵令嬢フィナ・リア・エルムッド。獣人のフィナは、私の黒い日傘の中に入って、私に抱きつきながら歩いています。


 栗色の髪の女性、獣人のフィナの力が強い。これは身体強化と武器出現、テラ・システム―フェンリル……フィナの魔力だけでなく、テラの大樹の魔力も利用して、身体強化している。



 フィナは天国の鍵(天のピース)の保持者だ。我儘な悪いノルンがくれた、天国の鍵N0.6~終末のノアの箱舟-魂の貯蔵庫を、私が制御しているからかな?


 獣人のフィナと天国の鍵が、強く結びついているのが分かる。No.1-テラの大樹、テラ・システムと……フィナは、希望の魔女の様にテラ・システムを行使できる。テラの大樹が望めば、極星魔術ですら行使できてしまう。



 騎士神オーファン・システム―セントラル。

 私たちを助けてくれた、白き狼の様に……。



 我儘な悪いノルンによって、可愛いお人形さんのノルンが封印されてしまった。でも、希望の魔女の代わりに、迷い星テラを守れるものがいる。『可愛いお人形さん、助けてくれる者は、私だけじゃないよ?……フィナは、本当に優秀なメイドさんだね。』


 黒い日傘の中で、引っ付きながら仲良く?……一緒に歩いている私たちを、都の住人たちは、不思議に思っているみたいです。周りから見られているのが分かります。フィナ、やっぱり少し離れたくなった。手の力を少し緩めて欲しい。


 小さなお子さんが、私たちを指さして、傍にいるお母さんに話しかけています。母親は子供の手を握って歩いて、私の白い瞳と目が合う……あ、優しく微笑まれた。横を通り過ぎる時、その親子の会話が耳に入ってきました。



「狼様の隣にいる人は、なんで黒いローブを着ているの?

 怖がり? 怖いのかな? 怖いから、狼様が守ってるの?」



「そうね、きっと怖くて寂しいのよ。

 でも、白き狼様がいるから大丈夫よ。」



「うん、光の大樹様もいるもん。

 ねえ、お母さん、あの浮いている木の所に行きたい。

 あんなの見たことないよ! ねえ、だめ~?」



「だめ、危ないから。それも、偉い方に任せないとだめよ。」



 フィナ、私……子供扱いされていない? フィナはいいよね。都の住人たちに、天使様の使いである白き狼と認識されているから。うん、私は恥ずかしい。



『ねえ、フィナ。やっぱり離れてくれない?

 その、これは恥ずかしいから……。』



「ルーン様、私言いましたよね? 絶対に離さないって。

 ルーン様が悪いんですよ。だから、駄目です。」



 メイドのフィナさんに、怖い笑顔で言われました。微笑んでいるのに、なんで怖く見えるのかな……うん、それは怒っているのが分かるからだね。うん、どうしよう。



 悩みながら運ばれていると、通りにある古民家より大きい、レンガ造りの大きな建物が見えてきた。ラス・フェルトの本庁舎。300万個以上の赤レンガが使われているらしく、赤い屋根がシンボルで、都の住人たちからは“赤屋根”の愛称で親しまれている。この赤屋根の本庁舎が、人と魔物の大切な話し合いが行われる場所です。


 ラス・フェルトの人魔協定。これから、人と魔物で話し合いが行われるから、先にフィナに都の情報とか、都に滞在していたフィナしか知らないことを聞いておきたい。



『あの、フィナ。教えて欲しいの。これから話し合いがあるでしょう? 

 私が、先に知っておいた方がいいことがあると思うんだけど……。』



 私から離れようとしなければ、フィナは怒っていても答えてくれる。フィナは、私たちの大切なメイドさんだ。本当に、大切なお姉さん……フィナが、大きなため息をついたのが気になったけどね。



「ルーン様……ラス・フェルトの代表者たち、

 この都には、三つの陣営があります。


 交渉時には、都の行政組織と警備組織は、

 都の維持と住人の安全は譲れません。



 現状では大きな問題ですが、解決する為なら、

 その点において協力関係を築くことはできます。


 食料や水の問題、天然ガスや石油などの燃料の問題。

 それらを解決できる計画―私が提案した、住人の精霊化計画。


 この計画は、一旦保留ということになっています。

 私の提案がすぐに受け入れられるとは思っていません。



 では、どうやって、都の維持と住人の安全を、

 両立させるかですが……それには、

 大樹の街エラン・グランデと堕落神―名無し様の協力が、

 絶対に必要でしょう。


 ラス・フェルトの住人たちだけでは、

 不可能な状態になりつつあります。」



養母様おかあさまは、私が言えば助けてくれると思う。 

 あとは、大樹の街だけど……フィナ、なんで睨むの? 

 えっと、フィナ、そんなに怒らないでよ。』



「いえ、少し考えことをしていました。

 。」



『え? あ、うん……えっと、だめかな?』



「いえ、ルーン様は気になさらないでください。」



 フィナに怖い笑顔で言われた。あれ、さっきより怒ってる。私、間違えたかな? フィナの前では、養母様おかあさまの話はしない方がいい。うん、怒っている時はもうしません。



『えっと、フィナ。ラス・フェルトの住人たちは、

 獣人や吸血鬼と協力関係を結ぶことができたら、何とかなる?』



「まだ分かりません。とても厳しいでしょう。

 

 条件次第で、大樹の街エラン・グランデは、

 ラス・フェルトが知らない、新たな狩猟と採取の方法を示せると言っています。



 もし、奇跡的に食料や水の問題を解決できれば、

 少なくとも……1週間で都を捨てて、新天地へ旅立つ必要はなくなります。


 それでも、いつまで都を維持できるかは分かりません。

 私の計画を含めて、色んな道があります。



 住人の中で望む者がいれば、この星から離れて、迷い星フィリスに移住する。

 そんなこともできるかもしれません。その道も存在します。



 今は難しいですが……でも、私もいつか帰ることが、

 できるかもしれない。希望は、誰にでも必要なものだと思います。



 ルーン様、聖フェルフェスティ教会の組織には気をつけて下さい。

 住人たちは、皆が聖フェルフェスティ教の教えを受けています。


 最終的には、聖フェルフェスティ教会組織の主張が通るでしょう。

 あの教会の司祭、白髪のご老人は敵にも、味方にもなり得ます。」



 ラス・フェルトの本庁舎は、もう目の前だ。大樹の街エラン・グランデの一団―猫の獣人たちが真剣なおもむきで、赤屋根の本庁舎の中に入っていくのが見える。フィナは立ち止まってから、私以外のものに聞こえない様に、小さな声で囁いた。



『?……あの白髪のお爺さんのこと?

 確か、聖フェルフェスティ教の信徒は、ノルンの手足になるって……。


 あれ、フィナ。聖フェルフェスティ教の信徒たちは、

 



「残念ですが、聖フェルフェスティ教は、

 天の創造主も讃えています。


 そして、創造主が世界を滅ぼそうとしている元凶だと、

 絶対に認めないでしょう。



 ルーン様、フェル・リィリアを説得できるかどうかで、

 今回の話し合いの成否が決まると思います。


 節制の保持者―フェル・リィリア。

 ラス・フェルトの人魔協定における主役です。



 傲慢な霧の女神様は、ルーン様の味方をしてくれると思うのですが、

 ウルズ様は、フェルのことをとても気に入っておられます。


 波乱を起こすとしたら、間違いなく、傲慢な霧の女神様でしょうね。

 さあ、ルーン様、ノルン様の分も頑張りますよ?」



『うん、私……できるだけ頑張ってみる。』




 こうして、私とフィナはラス・フェルトの本庁舎へと足を踏み入れました。



 私たちの背後に、銀色の髪と白い手足の少女がいることに、全く気付かないまま……この時、ラス・フェルトの人魔協定でも波乱を引き起こす、青い瞳の少女には、誰も気づいていませんでした。


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