第78話『白き人形は希望の魔女となり、再生の時を刻む②』

 それは光のない、虚無の黒き輪っか。天の創造主の膨大な魔力に反応して、急激に巨大化していく。黒き輪は周囲にある、あらゆるものを破壊する。



 ここは霧の異界ケイオスにある、迷い星テラ。



 迷い星テラの雲も、星の大気も、テラの大樹が守ってきた貴重な魔力も……悪魔の女神の白き霧でさえ消えてしまう。あらゆるものが存在することを許さない、絶望をもたらす勝利の双剣―終焉の時の断絶セイバー



 時空でさえ、壊れて消えてしまう為、迷い星テラの時の流れも減速し始める。全て等しく、虚無に戻る……終焉をもたらす黒き輪が、眼前に迫った!




 私は希望の魔女ノルン。白い人形、悪魔の女神の娘。



 私は、愛しい魔物を強く抱きしめる。黒髪の吸血鬼の少女ルーンが、二度と離れない様に……私は羽ばたくことをやめて、2枚の白き翼で愛しい魔物を隠した。浮遊感が失われて、すぐに落下していく。


 黒き闇。一瞬で、視界は真っ黒になって、キュィーンと甲高い音が鳴り始めた。私たちは、二つの輪っかがぶつかる音を聞きながら、真下に落ちていく。



 闇の中から外にでると、光が戻った。急激に巨大化した、終焉の時の断絶セイバーが、元の大きさに戻っている。時の女神の娘が途中でやめた様だ。



 虚無の黒き輪の保持者は、私たちを殺すつもりはないらしい。『時の魔術のけいこ。レッスンって言ってたし……それにしても、彼女の魔力の量が多すぎる。単純な力勝負なら、絶対に勝てない。



 悔しいけど、大きな力の差がある。


 でも、負けたくない。私は、時の女神の娘には負けてはいけない……そうだよね? それが私の役割だよね?……お母さん。』





 悪魔の女神に導かれ、白き人形は役目を知る。



『悪魔の女神の極界魔術。

 帰天きてんの刻―終焉の時。』



 美しい女神は、自分の娘を捜して……正気を失った悪魔の女神は、崩壊する世界を彷徨っている。


 白き人形のノルンとルーンは、霧の異界ケイオスに辿り着き……大好きな母を、悪魔の女神を捜す。そして、役目を果たすだろう。



 愛しい魔物、白い瞳のルーン・グローリアと共に、傲慢の霧の女神ウルズと共に、白き人形の役目を……異界の女神として。




 でも、それはもう少し先のお話。


 白い人形のノルンは、希望の魔女になれたけど……まだ、異界の女神にはなれていない。母の様な強さを手に入れていないから。



 残念だけど、時の女神の娘ノルン―天の創造主には勝てない。


 今はまだ勝てないけど……白き人形が進む先に、何が待っているのか。いつか、女神の子らは為したいことではなく、為すべきことを為すだろう。



 大好きな母、悪魔の女神に代わって……うん、お母さん。大丈夫、私は強くなったよ。現実を受け入れて、いつか、きっとお母さんを助けるから。



 だから、待っていてよ。私たち親子は、待つのは得意でしょう?




 母の時を感じながら、私は白き翼を羽ばたかせて空中に漂う。


 終焉の黒き輪に襲われても、私たちに怪我はない。今の所は……黒き闇にのみ込まれていないのは、再生の時のお陰だ。私の時の魔術が、私たちの存在を認めてくれている。



『極星極界魔術・

 帰天きてんの刻―再生の時。』



 私には大きな夢がある。私は弱肉強食や自然淘汰が嫌いだ。私は奇跡を信じている。誰も傷つかない、誰も不幸にならない。誰もが幸せになれる世界を創りたい。



 私とルーン、白い人形の夢。


 ううん、違う。私たちだけの夢ではないはず……皆だって、魂のどこかで、そんな世界になればいいと思っているよね? 



 それなら、これは生きとし生けるものの夢にもなれる。そう思いたい。




 希望の魔女は、再生の時を刻む、白く光り輝く輪を操るもの。



 私の再生の時で、迷い星テラの時を正常に戻す。減速してしまった、迷い星の時の流れを加速させて……迷い星の魔力に反応して、白き輪が大きくなっていく。



 私は冷酷な天の創造主を癒す。いつか必ず、時の女神の娘―全知全能(欠落)を癒すのだ。



『極星極界魔術―白き人形の神具。

 再生をもたらす勝利の双剣―再生の時の断絶セイバー。』



 大好きな母に変わって、天の創造主の存在を否定する為に……誰も傷つかない、誰も不幸にならない、奇跡をもたらす勝利の双剣-再生の時の断絶セイバーを放った!



 時の女神の娘―全知全能(欠落)は佇んでいる。


 彼女の虚無の黒き輪っかにぶつかり、キュィーンと甲高い音が鳴り続けていて……終焉の時の断絶セイバーの中で、時の女神の娘は淡々と述べた。



 圧倒的な力の差。歴然たる事実。世界は残酷だ。




《うーん、いまいち。やっぱり未熟だね。


 操れる魔力の量も少ないし……。

 全てにおいて、私より劣っている。



 どんなに頑張っても、私には勝てないよ。

 負けると分かっているのに、諦めないんだね。



 まあ、安心してよ。これはレッスンだから……。

 ここでは殺さないよ。天国では殺すけどね。




 白い人形の夢、人形の安息の地。


 君は弱いのに……大きな夢を持っている。

 弱く生まれたから、夢だけでも大きくしたかったの?



 ねえ、知ってる? 叶わない夢は、夢じゃないんだよ?

 ただのまやかしだよ。そんなもの、私は認めない。》




 私は、再生の白き輪を元の大きさに戻した。


 テラの大樹が教えてくれる。このやり方ではだめ。ただ単にぶつけても、ドッペルゲンガーの黒き輪っかに弾かれてしまう。



 ※テラの大樹、テラ・システム。現在、変化なし。

 再生の聖痕による、時の女神の娘の治療は中断されたままです。



 どう考えても、魔力の強さや量では勝てない。信じられないくらいの差がある。『この子、むかつく~。殺されることを望むのなら、自分自身を弱くしなさいよ! それでいいのなら、すぐ終わりそうなのに……。


 お母さんでも、勝てないのかな? 私はどうすればいい? だめ、諦めるな……必ず道はある。最後まで、考え続けるの!』



 私は何か策を考えないといけない。大好きな母、悪魔の女神の娘として……時の女神の娘には、絶対に負けたくない!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る