第77話『白き人形は希望の魔女となり、再生の時を刻む①』

 ここは霧の異界ケイオスにある、迷い星テラ。猫の大樹の街エラン・グランデの上空に、二匹の白い鳥がいた。2枚の白き翼をもつ鳥と、12枚の白き翼をもつ鳥は見つめ合う。


 悪魔の女神の娘と時の女神の娘。白い人形と霧の人形のルーツ(オリジナル)。銀色の髪に白い手足、二人の青のお嬢様は……。




 私は白い人形。悪魔の女神の娘。


 銀色の髪に白い手足。透き通る海の様な青い瞳をもつ少女……大好きな母が、私を生んでくれた。この姿は、私だけのもの。


 病弱で、体は弱かった。痛みですぐに気絶していた。何もできない弱い自分が嫌いで、とても苦しんだ。それでも、私はわたし。どんなに苦しくても、必死に生きるしかない。生きていれば、必ず変化は起きる。



 親不孝なことしてきたから、親孝行しないとね。私は母の城から出て、大切なことに気づいたけど、まだ1ヶ月も経っていないね。



 本当に短い時間。再生と終焉の時の中で。



 何もできなかった私からすれば、一生一度の大冒険だったよ? これからも歩むことができれば……私だけの時―再生の時を刻んでいく。最後に振り返った時に、私の再生の旅といえるものになっていればいいな。



 私は自分のことを信じられる様になりました。自分のことを愛せる様になりました。それができる様になったのは、大切な人が傍にいてくれたから……人じゃないけど、細かいことは気にしない。




 私は希望の魔女となり、白き翼を羽ばたかせている。


 私の腕の中にいる、大切な人。黒いローブで全身を隠して……光が嫌いなんだ。不謹慎だけど、怯えているルーンが可愛い。私は、黒髪の吸血鬼の少女をぎゅっと抱きしめる。



『? あ、ノルン……フードが外れるからやめて。

 光を浴びたら、焦げるの。』




 うん、私はルーンのことが好き。



 ルーンの可愛い声が聞けて、とても満足です。あんな別れ方をしてしまったから、自分の気持ちに気づけたのかな? 


 たぶん、ルーンの新しい体、吸血鬼の体のせいだ。白い人形の姉妹では、恋人にはなり難いけど……ルーンが悪いんだよ。




 聖痕の少女、聖ちゃん。白い瞳のルーン。


 今までずっと、貴方が傍にいてくれたからです。ずっと傍にいて欲しかったのに……ルーン、私に酷いことをしたよね? 私に相談せずに、勝手に決めた。私の傍から離れた。



 とても悲しかった。私は、一人になりたくないのに。


 ルーン、謝っても許さないよ? 絶対に許さない。私も、勝手に決めたから……ルーンが二度と離れない様に、私たちの同化を進めることにしたの。



 システムーノルニル、起動。ピッ……ピ、ピッ!……システムが起動して、何かを計算していく。



 ※テラの大樹、テラ・システム。

 ①白い人形、希望の魔女ノルン。

  希望の聖痕(100) = ノルンの希望(50)+天の創造主の神具(50)。


 ②白い瞳のルーン・グローリア。

  強欲の烙印(100) = ルーンの強欲(50) +堕落神―名も無き神の色欲(50~)。



 堕落神―名も無き神の魂は、招魂魔術によって分霊ぶんれいされています。希望の魔女により……白い人形、ノルンとルーンの同化が再開されました。



『ノ、ノルン……くすぐったい。

 太陽の光がない、暗い所にいけないかな……ここは怖いよ。』



『うん、ルーン。私も安全な場所にいきたいよ。

 ルーンをすぐに連れていってあげたいんだけど……。


 目の前にいる、ドッペルゲンガーが嫉妬して、

 邪魔をしてきそう。怖いと思うけど……。


 大丈夫、ルーン。私が絶対に守るから。』



『わ、わたし……力ないからね!? しっかり抱えていてね!?

 高いところから落ちるのは嫌だよ~。』



『大丈夫だって……もう離さないから、絶対に。』



 私は、黒髪の吸血鬼の少女を優しく抱きしめる。絶対に、二度と離さない。ルーン、貴方の姿が変わっても……吸血鬼になっても、ルーンはルーンだよ。



 私の大切な人。吸血鬼だから、最愛の魔物だね。




《あ~、はいはい。もうお腹いっぱいです。

 ノルンちゃんって、そんなに積極的だった?


 もういいかな? それとも、まだイチャイチャする?》



 ドッペルゲンガー。私と同じ姿をした少女が、私たちに声をかけてくる。12枚の時の翼は、美しく調和していて……嫌いなフィリスが身に着けているもの、金細工で装飾されたローブは、神聖な雰囲気を醸し出している。


 大切なルーンを傷つけたから、絶対に許さない……そう思っていたのに、相手を見ていると、次第に怒りが治まっていく。



 時の女神の娘ノルン―天の創造主。


 ドッペルゲンガーから、あり得ない程の魔力が放たれていた。常に解放されている様だ……何か、理由があるの? 私が不思議に思うと、テラの大樹が教えてくれた。



 ※テラ・システム。

 時の女神の娘ノルン―天の創造主、知恵の聖痕を保持。

 全知全能(欠落)、(計測不能:∞) → 悪魔の女神に譲渡中。



 全知全能(欠落)、悪魔の女神に譲渡? 膨大な魔力を、お母さんに渡そうとしている。時の女神の娘―天の創造主は文句を言ったけど……ずっと待っている。待ったりすることに慣れているのかな。



 怒りが治まってきて、冷静に相手を見ることができた。


 手を動かしたり、ため息をついたりして……私たちの準備が整うまで待っている。私は知っている。ドッペルゲンガーが行う、一つ一つの仕草は私がよくするものだ。鏡を見ている様な感覚になる。



 悲しくなる程、目の前にいる少女は私と同じだった。『ご機嫌取り? お母さんに好かれたくて必死だね……悔しいな。本当に悔しい。どうして、こんなに似ているの? やめてよ、お母さんが混乱するから……。』



 時の女神の娘は、世界を壊している。沢山の人や魔物を殺している……その残虐性を、私も魂のどこかに隠しているのかもしれない。


 私は、ドッペルゲンガーに声をかけた。時の女神の娘は12枚の翼を羽ばたかせながら、私に答える。



 自然と、ドッペルゲンガーの呼び方がお前から貴方に変わっていた。



『あのさ、聞きたいことがあるんだけど……。

 貴方の願いってなに?


 母の代わりに、世界を壊して……何を叶えたいの?』



《うーん、そうだね。

 天の創造主は殺されることを願っているよ。


 天国から堕ちて、正気を失った、

 悪魔の女神に殺されること。


 大好きなお母さん、悪魔の女神に―。》



『あの大きな目じゃなくて……貴方の願いは?』



《? 私の願い? それを君が聞くの?


 知っているのに、聞くって……。

 私の願いは変わらない。


 ずっと、昔から一緒だよ。》



 時の女神の娘ノルンは、微笑みながらそう言った。


 自分自身に聞かれて……久しぶりに、本心を明かした。白き人形に聞かれなければ、きっと答えなかっただろう。


 私の願いは、大好きな母と一緒に暮らすこと。そう、何も変わっていない。時の女神の娘からすれば、私がドッペルゲンガーになりそう。



 何よ、それ。本当にやめてよ。本当に悲しくなる……でも、私だって譲れない。『絶対に失いたくないものがあるの。私は、貴方を認めない。貴方だって……私のことを認められないでしょう? 貴方は許せるの?……大好きな母を奪う存在を。』



 私は創造主の神具を呼んだ。でも、すぐに現れない。本来の持ち主である、時の女神の娘―天の創造主が拒否しているみたい……別にいいよ、拒否したければ拒否すればいい。



『強欲の烙印よ、神具を奪え。』



 私は、貴方から奪う。貴方の神具も、貴方が大切にしているもの、全てを……大好きな母を、私に奪われたくないなら全力で守ればいい。


 私は全力で、大好きな母を奪いにいく。



《君は悪い子だね、私と同じくらい……悪い子。

 いいよ、その神具はあげるよ。


 再生の聖痕は、君が持っていればいいって言ったし……。

 創造主は強くなって欲しいからね。》



 ※テラの大樹、テラ・システム。

 白い人形は、希望の聖痕(100) と強欲の烙印(100) を保持しています。


 再生の聖痕 → 創造主の神具、勝利の剣レーヴァテインに付与。

 再生の聖痕による、時の女神の娘の治療が中断されています。



 私たちの目の前に、再生をもたらす勝利レーヴァ双剣テインの一振りが現れた。勝利の双剣には、一定の姿形がない。色も金色から銀色に、そして、透明になったりしていてよく目立つ……なぜか、双剣のもう一振りは現れなかった。『確か、ドッペルゲンガーが、再生と破壊をもたらす勝利の双剣って言っていたけど……まあいいや、今はこの状況で……どうやって、ルーンを守るかを考えないといけない。』 



 私は、液体の様に存在している細長い剣を見る。


 この剣には、一定の姿形がない。それなら剣の形にこだわる必要はないし……どんな形にもなれるのが強みだ。どんな形でもいいのなら、私が望む形は決まっている。



 大切な聖痕、再生の聖痕が刻まれた勝利の剣を、絶対に奪われたくない。だから、誰にも奪われない様に……私だけの時を刻むことにした。



『極星極界魔術・

 帰天きてんの刻―再生の時。』



 勝利の剣は姿形を変え始めて、私たちの周囲を回り始める。私の魔力に反応して、とても白くなった。全てが凍える白さを放って光り輝く。



《そうだよね。やっぱり、その形にするよね。

 それが一番使いやすいし……何より、その形がいい。》



 時の女神の娘ノルン―天の創造主は、私の神具を見て呟く。


 私の周りで回転する、白く光り輝く輪っか。異界の門の様に回転しながら……勝利レーヴァ双剣テインは、再生の時を刻み始める。



 希望の魔女ノルンの時の魔術、白く光り輝く輪。


『極星極界魔術―白き人形の神具。

 再生をもたらす勝利の双剣―再生の時の断絶セイバー。』



 ぱちぱちと、天の神が手を叩く。すると、時の女神の娘の前に……。



《そう、それでいいんだよ。


 姿形にとらわれずに……常識を捨てて、新しいものを手に入れる。

 昇華させて、高みに至るんだ。


 それじゃあ、次はね……。》



 勝利レーヴァ双剣テインのもう一振りが現れる。猫の大樹の街エラン・グランデの上空に、勝利レーヴァ双剣テインが揃ったのだ。


 双剣のもう一振りは姿形を変えて、時の女神の娘の周囲を回り始めて……。



『!? 私が呼んでも、現れなかったのに……。

 必要なものは、しっかり集めているね。』



《そりゃそうだよ、私だって……。

 まだ、奪われたくないものがあるからね。


 悪いけど、君には……絶対に渡さないよ?》



 時の女神の娘ノルンにとって、絶対に譲れないもの……大好きな母だ。母になら殺されてもいい。天国で、母と一緒に最後を迎える。


 他のものを、白い人形に奪われても……大好きな母だけは、絶対に奪われたくない。だから、白き人形にも奪われない様に、母の時を刻む。



『悪魔の女神の極界魔術。

 帰天きてんの刻―終焉の時。』



 創造主の魔力に反応して……それはとても黒かった。光のない真っ黒―虚無。全てを消す黒い輪っかが回転している。



 天の神ノルンの時の魔術、虚無の黒き輪。


《極星極界魔術―悪魔の女神の神具。

 破壊をもたらす勝利の双剣―終焉の時の断絶セイバー。》



 バチバチと、周囲の時空が歪む。虚無の輪の中で、時の女神の娘は微笑んでいる。母の時と一緒に歩めている。こんなに嬉しいことはない……天の神ノルンは笑顔で、白き人形に伝える。



《白き人形のノルン、君は……まだまだ未熟だね。

 はっきり言って、時の魔術の制御が全然できていない。


 悪魔の女神と比べることもできないくらいに酷い。

 だから、今からレッスンを始めよう!



 よく聞いてね。一度でも失敗したら……。

 迷い星テラは、砕けて消えてしまうよ?



 守りたいんでしょう? 白い瞳のルーンを守りたいよね?

 それなら守りなさい。君の力で守れるのならね~。》


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