第76話『全知全能なる天の神は、天真爛漫なお遊びを始めて……希望の魔女ノルンは、天の神に挑む。』
私は、傲慢の霧の女神ウルズ。小さな白い手足に銀色の髪。魂を惑わす紫の瞳をもつ幼女……6歳児。これは望んでない、本当に不本意よ。
私が袖を通している黒いローブ。銀細工で装飾されたローブは、魅惑的な雰囲気を醸し出していた。
ここは迷い星テラの中にある、猫の大樹の街エラン・グランデ。聖フェルフェスティ教会の前に……全知全能なる天の神だと自称している、我儘なノルンがいる。
母の霧が教えてくれた。眼の前にいる妹のノルンは時の
とてもむかつくこと。嫌なことに……。
我儘なノルンは、あの邪神フィリスと同じもの。金細工で装飾された、白いローブを身に着けていた。《全知全能なる天の神? 嘘つき、欠落しているくせに。ばれたくないから、それを誤魔化そうとして……。
貴方は全知全能なる、完全無欠な存在じゃない。貴方は、ただの子供よ。母がいない間に、好きなだけ遊ぼうとしているだけ……そうなんだよね、ノルン?》
6歳児にしか見えない、霧の女神ウルズは腰に手をあてながら思った。大好きな母と可愛い妹を苦しめている元凶は、邪神フィリスだ。
少女の魂は、邪神フィリスに喰われてしまい、フィリスの魂と同化してしまっている……母の霧はそう答えた。それなら、私の願いも変わらない。あの邪神を必ず殺す。
聖神フィリスの嘘。皆が、フィリスに騙されている。真実を知っているのは、全知全能なる天の神―時の
傲慢な霧の女神ウルズはとても怒っている。自称-天の神ノルンの目の前に、黒いローブを着た、見知らぬ黒髪の少女がいた。我儘なノルンは、黒髪の少女のことを、白い瞳のグローリアと呼ぶ。
全てが凍える白い瞳。私はグローリアという吸血鬼の少女を知らない、会ったこともない。なのに……どうして、この子は、私の妹と同じ瞳をもっているの?
白い瞳のグローリアが現れたことで、私たちは大きく動揺……妹のエレナも驚いていると思う。私たち、霧の人形にとって、これ程驚き、怒りを覚えることはない。母の白い霧は、黒髪の少女は吸血鬼だと、私に示してくる。
でも、見知らぬ吸血鬼なのに、再生の聖痕を保持していることも示してきたのだ。悪魔の女神の極界魔術―再生の聖痕を……大好きな母が残してくれた、とても大切なもの。私たちが天の神に勝つ為に、絶対に必要なもの。その唯一無二の聖痕を、白い瞳のグローリアは体の中に宿している。
聖痕の少女は体が焦げない様に、黒いローブで体を隠しながら……怯えながら、きょろきょろと窺っていた。《ああ、やっぱり、この子は……私たちの妹だ。どうして、吸血鬼に……大丈夫、母の霧が守るから。私が絶対に守るから……大丈夫よ、ルーン。》
母と同じ白い瞳が見えた。母の霧が、私に教えてくれた。
彼女の本当の名前は、白い瞳のルーン・グローリア。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
乱入者が多い、一人二人じゃない。
私はただ怒りが湧いてきたから、我儘なノルンに文句を言おうとしたのよ? そうしたら、乱入者が現れたの。もう、これ以上増えないでよ。
私と妹のエレナも、猫の大樹の街に招待されていないから、侵入したことになるけど……そこは気にしてはいけないわ。
膨大な魔力が消費されて、転移魔術が行使される。二匹の鬼と普通の人間。妹のアメリアを好いている若き魔王―炎鬼クルドと吸血鬼の小娘? 幽鬼シャノンだったかしら。
あとは、軍国フォーロンドの冒険者たちが数名……私に歯向かった愚か者たちね。この人間たちも運がいいわ、まだ亡くなっていない。
いや、ここまで巻き込まれたら、運がとても悪いのかも……悪魔の女神の時に呪われているのでしょう。
まだ終わらない、乱入者が増えていく。まとめるから、皆はついてきてね?
少し離れた所に、堕落神がいる。魔物の神―不死なる名も無き神。吸血鬼の神は驚いている様だから、自分の意思で転移してきたわけではなさそう。
ここに集められた者は、我儘なノルンを中心に、円を描く様に綺麗にばらけている。あの生意気な狩人、ラルは……まだ、どこにいるか分からない。あいつの未知の神具のせいかな。
母の白い霧でも、すぐに見つけられないなんて厄介ね。
ややこしいから、ここでまとめるわ。猫の大樹の街のエラン・グランデの守護者。そして、侵入者と乱入者たち①~⑫……街の守護者は、①元徳の節制の保持者―フェル・リィリア。②元徳の勇気の保持者―ラル・トール。
大樹の街の侵入者は、私……③大罪の傲慢の保持者―霧の女神ウルズ。④大罪の暴食の保持者―魔女エレナ。
我儘なノルンによって巻き込まれたもの―とりあえず、乱入者と呼ぶけど……妹のアメリアが好いている、三大魔王の1人―⑤炎鬼クルド。軍国フォーロンドの冒険者たち⑥~⑧。
⑥ミランダ・フォーチュン、⑦ロベルト・フィルド、⑧ミルヴァ・カ―ネルの若者のみ。軍国のエルムッド伯爵家の執事ジョンと、“樽飲み酔いどれ亭”のギルドマスター、クレスト・ホフマンは、迷い星フィリスにいるみたい。
軍国の冒険者たちを、迷い星テラまで連れてきたものは……確か、この小娘は転移魔術が得意だった。三大魔王の1人―⑨幽鬼シャノン。そして、魔物の神。⑩堕落神―不死なる名も無き神。
白い霧が私に囁く。幽鬼シャノンは、すでに転移魔術を構成していて、名も無き神のもとへ駆け寄ろうとしている。不思議なことに、堕落神―名も無き神は、幽鬼シャノンを見ていない。
皆の前で座り込んでいる、白い瞳のルーン・グローリアだけを、じっと見つめていて……白い霧が、また驚くことを教えてきた。
白い瞳の吸血鬼の少女には、堕落神―名も無き神の魂も宿っていることを。招魂魔術、名も無き神の魂が
白い霧は迷いなく述べる。堕落神―名も無き神と、白い瞳のルーン・グローリアは親子だと断言した。《!? 親子?……本気で言っているの? ルーンの魂が不安定だったから?……同じ吸血鬼でも、自分の魂を与えたとしても……。
貴方は、生みの親ではないわ。
私は認めない。私たちの母は正気を失っていても……悪魔の女神、ただ一人。ルーンを助けてくれたのなら……そこだけは感謝するけどね。》
猫の大樹の街の守護者。侵入者と乱入者たちが形作る、輪っかの中心に……二人の少女がいる。乱入者たちは、聖フェルフェスティ教会の前に、無理やり集められた。こんなことをするのは、一人しかいない。
⑪自称-天の神、我儘なノルン。そして、再生の聖痕の保持者―⑫白い瞳のルーン・グローリア。
銀色の髪に白い手足。透き通る海の様な青い瞳をもつ少女。白いローブを着ている我儘な妹は……しゃがみ込む、白い瞳のルーン・グローリアの周りを、手を広げながら踊る様にくるくると回ったりしている。
無邪気な妹はとても楽しそうだった。
突然、変化はやってきた。妹の手の動きに合わせて、信じられない程の魔力が放たれていく……自称―天の神の言葉が、全世界に響き渡ったのだ。
《幼き子らよ、我の子を聞け。
我は天の神……其方たちを導くもの。
我は世界を閉ざす。天と地は塞がり、世界は終わる。
幼き子らよ、昇華せよ。各々の信念を貫け。
我は示そう。我の存在を……。
そして、高みへ至る為の鍵を。》
天の創造主の膨大な魔力が、世界中を包み込んでいく。我儘なノルンの声と共に、ある映像が頭の中に流れてきた。それは途轍もなく、巨大な存在。
天の創造主の本体―
もう一つ、頭の中に浮かぶものがある。私たちの目の前で、しゃがみ込んでいる黒髪の少女だ。
ルーン・グローリアの怯えている姿が、頭の中に流れていく……自分の耳を疑った。我儘なノルンが言った、次の言葉が信じられない。
《そうだね、これはゲームだよ。
楽しい、楽しい終末のお遊び。
この子は、白い瞳のルーン・グローリア。
私はこの子に、天の鍵の欠片を授けていく。
生き残りたいのなら、この子を導きなさい。
この子と一緒なら救われる。
でも、助かるのはこの子と……そうだね、一人だけにしよう。
この子を導けた者には、私の神具を授けよう。
再生と破壊をもたらす勝利の双剣を手にするといい。
新たな世界で、新たな神となればいい。
さあ、時間は残されていない。地獄の炎は、確実に近づいてきている。
生き残りたいのなら、この子を―。》
私はもう我慢できなかった。世界を壊そうとしている我儘なノルンを、母の代わりに叱った。創造主の膨大な魔力によって、私の声も世界中に響いていく。
《ノルン! 貴方、いい加減にしなさい!
反抗期で、暴れたいのは分かるけど……。
私も、派手に暴れたことがあるから……。
まだ、世界を壊すのはいいわ。
でも、私の妹を傷つけようとするのは、絶対に許さない!
もうやめなさい……いずれ、母は帰ってくる。
最後に、後悔するのは自分だよ?
ノルン、やめなさい!》
《うーん、やっぱりウルズお姉ちゃんは優しいね。
こんな私でも……私のことも、守らないといけないって思うんだ。
ウルズお姉ちゃん、私は大丈夫だよ。
だって、誰よりも強いもん。誰にも負けないよ。》
我儘なノルンの姿が変化。膨大な魔力によって成長して……青のお嬢様の時と比べると、少し背が伸びた。まだ大人ではないけど、15~16歳くらいに見える。大人の女性になろうとしていて、12枚の白き翼が姿を現した。
全知全能なる天の神―時の女神の娘ノルン。
天の神は、震えている白い瞳の少女に手を伸ばす。ルーンの柔らかい、小さな顎に触れて……無理やり、顔を上げる。黒いローブのフードが外れてしまった。
天の神の白き翼が、太陽の光を遮っている。でも、いつ顔を焦がすか分からない。それが怖くて、ルーンは涙目になっていた。
ああ、もうやめなさいよ。バカ……。
《いい加減にしなさい! ルーンを―》、
『グローリアを離して!』
堕落神―名も無き神が叫び、招魂魔術の行使を……やめた。私たちの目の前に、回転する銀の輪が浮かんでいる。
名も無き神も、まだ魔物だった頃に見た輪と全く同じもの。
転移魔術―異界の門。名も無き神は、その輪を見ながら呟いた。
『悪魔の女神様……どうか、娘をお助け下さい。』
回転する銀の輪が消えると、白い瞳のルーン・グローリアの姿も消えた。12の時の翼をもつ、天の神は邪魔をしなかった様だ。時の
大空に浮かぶ、異界の門。その門の中に、自分に最も似ているものがいたから……天の創造主を殺せる可能性がある、
白い手足に銀色の髪、透き通る海の様な青い瞳をもつ少女。彼女は時の
悪魔の女神の娘、6番目の霧の人形……希望の魔女ノルン、脅威度Aランク。
希望の魔女ノルンは、両手の銀のガントレットで、しっかり抱きしめている。希望の魔女にとって、大切な少女の頬が少し焦げていた。急いで、黒いローブのフードで隠してあげたけど……少し間に合わなかった。
女神の再生の聖痕が、頬の火傷を綺麗に治していく。
希望の魔女ノルンは、泣いている白い瞳の少女をしっかり支えながら……見下ろして睨んだ。
転移魔術。自分と同じ姿をした天の神が、猫の大樹の街エラン・グランデの上空に転移してくる。
希望の魔女の叫びが、依り代である迷い星テラ中に響き渡った。
『お前は、私の大切な人を傷つけた。
この嘘つき! 私からお母さんを奪ったのに……。
ルーンは、私にくれるって……傍にいていいって言ったよね!?
もう信じられない! お前は嘘つきだ!
お前は、フィリスと一緒だ!
お前たちは、私が欲しいものを奪おうとする。奪っていく……。
そんなこと、絶対に許さない!
私が、ルーンを天国へつれていく。
お前たちは、私の嫌な気持ちと一緒に消えろ!
虚無に帰れ、このドッペルゲンガー!!』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます