時の間「三人目の主人公?傲慢の霧の女神ウルズちゃん。」
私は霧の人形。文字通り、悪魔の女神の白い霧だ。私の星の核に、お母さんの霧がくっ付いて、小さな霧の体を成している。
女神の影アシエルの様な姿、眼や口のない白い霧の幽霊。私はこの姿―白い霧の幽霊が嫌い。嫌いなアシエルと似た姿が嫌。私の存在が忘れられて、霧の中に消えてしまいそうで、やっぱり嫌だ。
私は、気に入っている自分の姿―霧の人形の姿を強く思い出す。小さな霧の幽霊から、白い手足に銀色の髪、魂を惑わす紫の瞳をもつ、霧の人形に姿を変えていく。
私は、傲慢の霧の女神ウルズ。
霧の女神ルーン・リプリケート?……私が、この体を乗っ取ったの。女神の影ノルフェ―優しいお母さんは、女神の影の本来の役目を果たしてもらう為に、私の星の核を利用して、再びルーン・リプリケート―女神の複製品を創った。
私が新たな霧の女神となり、正気を失った悪魔の女神に代わって、妹たちを見守り、妹たちに手を差し伸べるわ。それなら、何も問題ないでしょう?
再生の聖痕である、聖痕の少女ルーンはこの体の中にいない。聖痕の少女が帰ってくれば、ルーン・リプリケートと名乗ればいい。
それに、あの子が霧の女神として表舞台に出てくるには、時期尚早だと思う。つまり、妹のお膳立てをしてあげるってこと。なんて妹思いの姉のなのかしら。《私の優しさ、この子も気づいてくれたらいいのだけど……。》
ゴロゴロと雷が鳴って……白い霧の中を、黄色の雷が流れていく。
傲慢の霧の女神は3番目の妹を見た。私の小さな体を抱える、綺麗な白い腕。爆ぜる様な黄色の瞳と目が合った。この子に運ばれると、雷鳴魔術の影響でビリビリと痺れてくる。運んでもらっているから、文句を言わないけど……。
女神の影アシエルが封印された影響ね。この子は、自分の魂を取り戻した。消えない様に、霧が守ってくれていたのかな。女神の影ノルフェ、優しいお母さんなら守ってくれただろうし……。
3番目の霧の人形、暴食の魔女エレナ。
黒のミニズボン、黒のニーハイソックス。銀色の小手を身に着けて……雷を呼ぶ、雷鳴魔術。黄色の雷が、白い霧の中を進んでいく。
私は姿が変わっていない妹を見て思ったことがあるわ。
私、身長がかなり縮んだ。お母さんの様に美しい大人の女性から、妹のルーンに食べられて、白い人形の少女になってしまった。そして、女神の影ノルフェに創られた、霧の女神ルーン・リプリケートを乗っ取ったら、幼女に……6歳ぐらいかな。
6歳の幼女よ? 足が小さいから歩くのも大変。そもそも歩く体力がない。女神の影ノルフェー優しいお母さんは、どうしてこんな幼い姿で創り直したのかしら?
一番、可愛い時の娘を抱きしめたくなって……もう、仕方ないわ。《エレナが来てくれなかったら、生き延びることも難しかったかも……女神の影アシエルから解放されて、元気そうで良かった。》
『ウルズ姉さん、大樹の街エラン・グランデを見つけた。
元徳の保持者……ラルかな? こっちにくる。』
私を抱えながら、黄色の雷となって飛ぶ妹が声を発した。確かに、妹とは別の雷鳴魔術……正確に言えば、霧の世界フォールの魔術ではない。あの生意気な狩人に宿る、雷の精霊の力によるもの。
雷鳴が轟いた、青い雷が近づいてくる。
間違いなく、元徳の勇気に選ばれた狩人のラルだ。ここで邪魔をされて、猫の大樹の街エラン・グランデの中に入れず、好いているフェルに会えないのは嫌だ。《? 精神年齢も幼くなったのかな……好きとか嫌いとか、感情を上手く隠すことができない……感情を制御できず、すぐ泣いてしまいそう。本当に子どもね。》
私は少し落ち込みながら、暴食の魔女に声をかける。
《エレナ、霧の龍を数匹呼ぶわ。ラルには、未知の神具があるから、
時間稼ぎになるか分からないけど―。》
『姉さん、早く。もう狙われている。』
《わ、分かった。すぐ呼ぶから……。》
私は一度深呼吸をしてから、白い霧に向かって右腕を伸ばした。冷たい雨と強風が腕にあたり、小さな腕が崩れて、白い霧に戻っていく。
私は構わず、小さな霧の腕を伸ばし続けて、全力で叫んだ。
《我は、傲慢の霧の女神ウルズ。
我が声を聞き、今ここに現れよ、霧の龍ウロボロスよ!》
漆黒の蛇の甲高い声が聞こえてきた。
私のお気に入りの霧の龍が、私の声に応えてくれて嬉しい。周囲の霧が黒く変色し始めて、黒い瘴気から、ズ、ズズズと何かが這う音……黒い霧の中に、腐敗した漆黒の蛇が現れる。
鎧の様な黒き外殻が見えると、黄色の雷と青い雷が爆ぜた。女神の白と黒の霧が、大樹の街エラン・グランデに近づいていく。
黒い瘴気の中で、青い雷だけが放たれた……黒い瘴気の中を蠢く霧の龍は、甲高い声で威嚇し続ける。青色の雷も鳴りやまなかった。
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『フェル、この子に手を出せば、私は貴方が大切にしているもの、
全て壊す。貴方から、全て奪ってみせる。』
ゴロゴロ、遠くで雷が鳴っている。これから強い雨が降りそう。雷の音が聞こえてくると、聖フェルフェスティ教会の鐘も鳴り始めた。
私はフェル・リィリア。
元徳の節制の保持者。私の神具―テュール・ロックが、強い殺気を感知して、私に警告。私の手の中で丸まっている可愛い小鳥は、冷たい言葉を口にした。
大罪の色欲の保持者は母親かな? くっ付いている小さな子を守りたいんだね。貴方が小さな子の母親なら、私は貴方とは敵対したくないなあ。
『フェル、私は必ず復讐する。猫の獣人たちも、
水の都ラス・フェルトの住人たちも……皆、殺すよ?
貴方の母親も見つけ出して殺す。
地獄に落ちても……天国に隠れても、絶対に見つける。
私は貴方たち、親子を傷つけたくない。
今ならまだ協力できる。
だから、この子には手を出さないで……。』
ゴォーン、ゴォーン……聖フェルフェスティ教会、封魔の鐘は鳴り続ける。教会の鐘の音は、大樹の街の外まで響いていった。
「………………。」
《フェル様、ご報告があります。》
私が黙っていると、私の神具が……凛とした女性の声で語りかけてきた。何か、変化があったみたい。私は従者と秘密の会話を始めた。
「どうしたの? 古代の遺跡で何かあったの?」
《いえ、遺跡ではなく……大罪の保持者の居場所が分かりました。
ですが、色欲ではありません。大罪の暴食です。》
「暴食? 確か、霧の人形……。」
《ええ、暴食の魔女が近づいてきています。
霧の龍ウロボロスも、数匹いる様で……ラル様が迎撃に。
フェル様、古代の遺跡の監視を放棄してよろしいでしょうか?
大樹の街エラン・グランデの防衛に専念致します。》
「うん、分かった。監視しなくていいから……。
古代の遺跡の敵の情報を教えてよ。」
岩石魔術。私の神具―テュール・ロックが魔術を行使した。大樹の街エラン・グランデの周囲で、天の創造主の膨大な魔力が形あるものに変わっていく。
封魔のラス・フェルト
魔を封じる鐘の音に反応して、魔力の結晶が次々に創られていく。黄色や青、無色透明など、綺麗な宝石の柱が空中に浮かぶ。
美しい結晶の柱は、大樹の街エラン・グランデを守ってくれる。元徳の節制の聖痕が、効果を発揮するから……私の近くにも、小さな結晶が現れて、ぷかぷか浮かんでいた。
ゴロゴロ……近くで雷がまた鳴った。白と黒の霧が雷の光を隠している。「狩人ラルかな? 青い雷が見えたら判断しやすいのに……。」
「名無し様、私も……今ならまだ協力できると思います。
古代の遺跡に、生存している人や魔物がいます。
炎鬼と幽鬼……名無し様、この鬼をご存知ですか?
生存者を助けたいのなら、ここからすぐに離れて下さい。
狂王の兵士に追い詰められて……。
生存者に逃げ場はなさそうですよ?」
『フェル、今の私はとても弱い小鳥よ?
貴方は、生存者を助けてあげないの?』
「残念ですが、それは無理です。
この街にとても厄介なものがやってくるので……。」
雷の光が放たれた。黄色の雷は、浮遊する結晶の柱に導かれて、大海へと落ちていく。きらきらと光る結晶……節制の聖痕、私の神具の防衛システムはしっかり機能している。
だけど、黄色の雷は鳴りやまない。
ドォ―ン! 私の頭上に浮かんでいた小さな結晶に、雷鳴魔術が直撃……私の結晶は砕けてしまい、ぱらぱらと破片が降ってきた。完全に防ぐことができず、少しビリビリする。「黄色の雷……残念、ラルじゃない。」
黄色の雷が、聖フェルフェスティ教会の前にも落ちた。
雷鳴魔術……白き霧の雷は、姿形を変え始める。白い手足に銀色の髪。爆ぜる様な黄色の瞳をもつ霧の人形へ。女神の人形は、黒のミニズボン、黒のニーハイソックス。銀色の小手を身に着けている。
爆ぜる様な黄色の瞳が、私を捉えた。
『ウルズ姉さん、約束は果たしたから……。』
《え!? いや、ちょっと待って! もう帰るの?
早いよ! まだ、ここにいてよ!》
今の声は、白い霧の中から聞こえてきた。霧の人形から離れない、白い霧から……私が敬愛するウルズ様の声が聞こえてきた。
「ウルズ様!? ウルズ様ですか!?」
白い霧の中から、小さな霧の人形が出てくる。白い手足に銀色の髪は同じだけど、瞳の色は魂を惑わす紫の瞳。
《そうよ、私よ! フェル、会いにきてあげたわ!
私、とっても忙しいんだから、感謝しなさい!》
ただ……背がかなり低い。頭を下げないと、目を合わせられない程に。小さな女の子はとことこ歩いてきてくれる。
「あれ? ウルズ様……。」
とても幼い。私がお会いした時より、さらに幼くなっている。もしかしたら3~4歳かも……完全に幼女である。可愛いのだけど、とても心配。「私の神具が暴走して、勝手に攻撃しなかったらいいけど……大罪の保持者であっても、こんな小さな子、敬愛するウルズ様を傷つけたくない。」
お子ちゃまのウルズ様は、白い霧から身の丈にあった黒いローブを創り出した。銀細工がとてもいいアクセントになっている。
魅惑的な雰囲気を醸し出していて、とても可愛らしかった。「魔法の糸で創ったのかな? 両手を腰にあてて、背中を伸ばして……ウルズ様、とても可愛らしいです!」
《フェル、霧の女神ウルズ様がきてあげたわ。
困っている様だし……私に感謝してよね!》
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