第75話『白い瞳のグローリアの冒険。三大魔王―幽鬼シャノンの影を追って……③』

 私はフェル・リィリア。


 皆さん、私のこと、覚えてくれていますか? 歳は15歳。母親と同じ金色の髪と青い瞳を気にいっています。金色の髪と青い瞳は、明るい印象を与えてくれるから。


 ふわふわとした白いスカートと緑色の帯……敬愛するウルズ様の時の魔術によって、水の都の民族衣装は綺麗な状態に戻っていた。赤い血はついていない。



 私は元徳の節制に選ばれた、光と悪魔の子。それが私です……12枚の白き翼をもつ、天の神様ノルン様が私たちに命じました。



《光と悪魔の子―フェル・リィリア、節制の保持者。

 貴方は私の狩人、七つの大罪の保持者を狩りなさい。

 勇気の保持者ラルと共に……。》



 天の神様であるノルン様は、私たちに教えてくれました。私たちが疑問に思ったこと、全て答えてくれた。悪魔の女神様の白い霧や、最初の人形―敬愛するウルズ様でも知らなかったことを……天の神様は教えてくれた。



 青のお嬢様は二人いる。私の故郷である、水の都ラス・フェルトを救ってくれた、希望の魔女ノルン様。希望の魔女様は、この腐敗した世界で唯一の希望……世界が終わり、そのあとに新しい世界がやってくる。


 新しい世界を呼べるのは、希望の魔女様だけ。古き時代の最高位の神々でも、今の世界を救えない。光の女神フェルフェスティや時の女神ノルフェスティでも、この腐敗した世界を救えなかった。


 全てを創り出した、



 全ての世界は一点にまで圧縮されて、全て壊れてしまう。現に、地獄の下層―灼熱の海の位置が上昇し始めている。天の神の地獄の手が、上へ上へ動いているためです。


 どこかの小さな星々で、人の争いが起こっても……どこかの小さな星々で、魔物の争いが終わっても、最後は変わらない。


 全知全能なる天の神の手の中で、全てが終わる。私たちは、天の神を殺すことができないから……でも、希望の魔女、ノルン様は違う。



 希望の魔女様だけが、天の神を殺すことができる。この腐った世界から新しい世界へ、私たちを連れていってくれる。希望の魔女様と同じ姿をした、天の神様ノルン様が笑顔で話していた。



《フェル、泣かないで。希望はまだあるよ。

 お母さんが残してくれたからね。


 希望の魔女と光の大樹。

 テラの大樹が世界樹になれば……大樹の枝や根は、

 天国と地獄を支えることができる。


 天の神がいなくても、世界は存在し続ける。

 天の神の大きな手を止めることができるかな……。


 フェル、希望の魔女を助けてあげて。》



 白い手足に銀色の髪。海の様に透き通る青い瞳をもつ少女は、とても可愛らしく微笑んだ。小さな星々をいとも簡単に砕き、世界を終焉に導く天の神には、全く見えない。自由に、無邪気に遊んでいる女の子だ。



 私の両手の中に小鳥がいる。ちょこちょこと体を動かして、周囲を確認して……私が歩きだすと、この小鳥は飛べない様で、手の中から落ちない様に丸まっている。



 ここは、猫の大樹の街エラン・グランデ。


 敬愛するウルズ様によって救われた街は、迷い星テラの白い霧の中で浮遊している。食料と水の確保が喫緊きっきんの課題だけど、天の神の神具もあるし……私より頼りになる狩人のラルがいるから、何とかなると思う。


 再生と終焉の時の中で、猫の獣人たちは、最後まで諦めずに生き続ける。



 飛べない、顔やお腹が真っ白の小鳥を見た。肌触りが柔らかい。動いているけど、この小鳥はぬいぐるみ。私の神具―テュール・ロックが、天の神に代わって、私に囁いた。



《招魂魔術の行使を確認。

 フェル様、遠隔探査(ソナー)の範囲を広げますか?》


 凛とした女性の声が、節制の保持者である私にだけに聞こえてくる。天の神の神具たちは、自由意思をもっていて……自分たちの存在意義を示す為に、保持者を死守ししゅする。


 神具たちは手段を選ばない。保持者が消えれば、神具も消えることになるから。誰だって、役目を果たせず、何もできずに消えるのは嫌だよね。



「今のままでいいよ。古代の遺跡、どこまで分かった?」



 心の中で呟くと、私の神具はちゃんと答えてくれる。私のことを様付けで呼んでくれて、大切にしてくれているのが分かって……令嬢と従者。偉い貴族の娘になれた気がして、最初は気分が良かった。


 天の神様ノルン様から、世界の真実を聞くまでは……。



《古代の遺跡の構造は、調査済みです。

 敵と思われる個体の数、居場所も把握しました。


 遺跡に、色欲の保持者はいません。》



「ありがとう……変化があったら、教えて。」



《大罪の保持者を発見した場合、

 フェル様の安全を最優先に行動させて頂きます。ご容赦下さい。》



「………………。」



 私は街の通りを歩いて、フェルフェスティ教会の目の前にきた。この教会は、水の都ラス・フェルトにあったのに……とても不思議なことだね。天の神様が集めているからかな?


 小さな星にあったもの、色んなものが混ざりあって、今の獣人の街が成立している。私はふと思い出した。天の神の言葉が蘇ってくる。



《フェル、今から言うことは、絶対に覚えていてね。

 天の神である私が死ねば、世界は救われる。


 天の神は負けを認め、喜んで殺されるでしょう。

 生き残りたければ、私を殺しなさい。


 フェル、もっと強くなって。未来の自分を信じて。

 きっともっと強くなれるから……。


 皆に君の口から伝えて欲しい。

 世界を救う為に、ノルンを殺さないといけないことを。》



 天の神様ノルン様は、微笑みながら話し続ける。


 無邪気に、自分の死を望んでいる。今は誰も、天の神を殺すことができないことを理解した上で……天の神様ノルン様は、幼い子供。私には、無邪気に遊んでいる子供にしか見えなかった。


 好きに遊べる様になったから遊ぶ。欲しいものを好きなだけ手に入れて、いらないものはどんどん捨てていく。天の神様ノルン様にとって、世界とは遊べる庭。


 この庭に、叱ってくれる母親がいないから自由に遊べる。天の神様ノルン様は最後にこう言った。



《フェル、貴方のお母さん、まだ生きているよ?

 私の神具で探してみたら?


 もし、大罪の保持者を、一人でも殺せたら……。

 私が、貴方のお母さんを救ってあげる。


 貴方のもとへ、連れてきてあげるよ。

 だから、頑張って……大罪の保持者を殺してね。


 もちろん、私を殺してもいいよ。

 それじゃあ、頑張ってね。節制の保持者さん。》



 私のお母さんが生きているらしい。


 それなら会いたい。それが、私の本心です。世界が終わるなら、大好きな母と一緒に最後を迎えたい。それが、私の夢……でも、私の夢の為に、大罪の保持者を殺すの? 


 私の様に何も分からず、勝手に保持者に選ばれたかもしれないのに。



 フェルフェスティ教会の前で立ち止まっていると、天の神の御声みこえが聞こえてきた。聞き間違えることはないはず、確かに……天の神様ノルン様の声だった。



『私……この教会、知っている。

 どうして、なんで……。』



「?……ノルン様? どうして、

 招魂魔術に介入されているのですか?」



 私の手の中にいた、飛ばない小鳥が喋った。


 その声は、天の神の御声みこえだった。希望の魔女ノルン様?……あり得ない。テラの大樹が近づいてくれば、私の神具が警告するはず。


 でも、天の神様ノルン様であれば、わざわざ招魂魔術に介入する必要がない。それに、何かに驚いていた。全知全能である天の神が、ある出来事を知らずに驚くと言った無駄なことはしない。文字通り、大きな手で全てを抱えて……大きな目で、全てを見ているのだから。



「ノルン様? どうされたのですか?」



『どうして、ノルン様を呼ぶの?

 貴方は、あの怖い子と関係があるのね。』



 天の神様の御声みこえではない。別の女性の声が聞こえた。


 私の手の中で、大人しく丸まっている小鳥の口から発せられる。私の神具が教えてくれた……この声の主が、招魂魔術を行使している者であり、大罪の色欲の保持者だと。



「私の声、聞こえていますね?

 私はフェル・リィリアです。


 貴方が、大罪の色欲の保持者……。


 もう一度聞いていいですか?

 貴方はどこにいるの?」 



『私は堕落神―名も無き神。名無しと呼んで下さい。

 私の居場所は……貴方が知っている情報次第かな。


 貴方は、私を殺したいの?

 元徳の節制に選ばれた、フェルお嬢さん?』



 養母様おかあさまが、金色の髪に青い瞳の少女に声をかけました。フェルと名乗った少女は、金の装飾が施されている教会の前で立ち止まっています。



 私は、白い瞳の■■■・グローリア。


 私の後ろにいる、養母様おかあさまが怒っているのが分かります。驚いて、つい声が出てしまった。この教会のことを知っています。私は、ここに来たことがあります。


 この教会は、フェルフェスティ教会です。


 私は、この教会の目の前にいて……そこで一匹の白き鳥、天使にあった。白い翼をもつ希望の魔女。ノルン、そうあの子です。


 頭が痛い。この教会の前で何をしていたのか思い出せない。元徳の節制に選ばれた、フェル・リィリア。彼女は、私の声を知っているみたい。私のことを希望の魔女ノルンと勘違いしている様です。



「名も無き神、名無し様……どうして、

 ノルン様の声が聞こえるのですか?」



 私はノルンの姉だから、声は似ているはず。それで勘違いしたのかな。養母様おかあさまの手や腕の力が強くなって……後ろから、私を強めに抱きしめます。養母様おかあさまの顔を見れません。あとで絶対に怒られる(´;ω;`)。



 元徳の保持者と大罪の保持者は、フェルフェスティ教会の前、私が知っている場所で……私の魂に強く刻まれている場所で、腹の探り合いを始めました。



『ごめんね、それは言えないわ。

 でも、貴方が知りたいこと……別のことなら。

 

 お互い、知っている情報を交換するのはどうかしら?


 私を狩ると言っても、必要な情報が少ないと狩場にすらいけないわよ?

 その方が、お互い助かると思うけど?』



「敵に、自分が狩られる狩場を教える、変わった神様。

 昔の神様って、みんな……殺されたいのですか?


 ねえ、堕落神……名も無き神様。

 天の神様の様に、私に教えて下さい。


 私のお母さんは生きているの? どこにいるの?


 私の母を見つけてくれたら、貴方を殺さない様に頑張ってみる。

 私の神具で、貴方を殺さない様に……。」



『フェル、ここは迷い星テラよ。

 光の大樹の庭であり、希望の魔女ノルン様の依り代。


 知っているかしら? この星に、唯一の人間の都が現れたの。

 その都の名は、ラス・フェルト。』



「ラス・フェルト……あの都に、私のお母さんはいません。

 私と一緒に、あの都から地獄に落ちたから。」



『地獄で、あの怖い子にあったのね。

 12枚の白き翼をもつもの、時の女神の娘。


 フェル、貴方に忠告します。

 あの子は優しいノルン様ではない。


 希望の魔女ではありません。

 絶対に、あの怖い子を信用してはいけない。あの子は―。』



「そうですね……あの御方は、天の神様。


 ねえ、名も無き神様。フィリスっていう星があるらしいの。

 その星はどこにあるの?」



『迷い星フィリス? 

 あの迷い星は、まだ地獄に落ちているはず。


 邪神フィリスが倒されない限り、

 地獄から戻ってくるのは難しいでしょうね。』



「元徳の正義に選ばれた、フィリス様のことかな。

 邪神フィリス……色々と教えてくれますね。」



『気にしないで、ただの気まぐれだから。』



「そうなんですね。じゃあ、私も教えてあげます。

 私には相棒がいます。優秀な弓の使い手。


 彼の神具に見つかったら、逃げるのはしんどいですよ?

 守りたいものがあるなら、見つかる前に逃げて下さい。



 私の神具が、精霊魔術の行使を確認しました。

 貴方に、小さな魂がくっ付いている。



 その子を守りたいんですね……。


 名無し様、忠告させて頂きます。

 今すぐ、招魂魔術の行使を中止して下さい。


 私たちの神具が、貴方にくっ付いている……。

 小さな子を殺す前に……。」

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