第74話『白い瞳のグローリアの冒険。三大魔王―幽鬼シャノンの影を追って……②』

 私は、白い瞳の■■■・グローリア。


 私は養母様おかあさまにくっ付きながら、日記帳に風景も描いています。養母様おかあさまが見ているもの、迷い星テラの綺麗な自然や、古代人が造った鉄の遺跡を忘れたくないから。



 私の手元には日記帳と、養母様おかあさまがくれた色鮮やかなクレヨンがあります。迷い星テラの緑豊かな山と透き通る青い海を描きました。


 透き通る海。私は青い海が好きです。青色が一番好きなので、海がある景色を多く描きたい……どうして、青色が好き? さあ、なぜでしょう?



 私は、養母様おかあさまのぬいぐるみ達。茶色のクマや白色のウサギのぬいぐるみが印象に残っていたので、真っ先に描きました。


 秘密の遺跡で眼を覚ましてから、クマとウサギのぬいぐるみには会ったことはないのですが……少し不思議に思いながらも、今は小鳥のぬいぐるみを描いています。



 私は、養母様おかあさまに精霊魔術でくっ付きます。


 すると、養母様おかあさまが見ているもの、迷い星テラの景色が、私にも見えてきて……ここは迷い星テラ。古代の遺跡がある丘陵きゅうりょうに、強い風が吹く。透き通る青い海から白い霧が流れてくる。



 養母様おかあさまが操る、飛べない真っ白の小鳥。


 この子のつぶらな瞳で見てみると、周囲は大きな石だらけ。15㎝以上ある石は、この子には大きな石です。顔とお腹が真っ白の小鳥は、自分よりも大きな石を乗り越えようとして、こてっと転倒。何度もこけています。



 頑張って起き上がる可愛い小鳥。ぴよっと鳴きました。


 飛べない真っ白の小鳥は、キョロキョロと周囲を見る。この子から見れば、越えられない高い岩の壁が行く手を阻んでいて……頑張って進んできた道を引き返すしか方法がなさそうです。


 1㎝程の小さな黒色の蟻が、高い岩の壁の上を進んでいくのが見えました。大きな岩を越えられない小鳥。さっきよりも小さな声で、ぴよっと鳴きました。


 この子は羽ばたくことができない為、自力ではどうすることもできません。この子の足は小さく、岩の表面に引っ掛ける爪もありません。


 この子は、この星で一番弱いかも。誰かの助けがなければ、この子は生きていけない。この子は普通の生き物じゃない。養母様おかあさまのぬいぐるみだけど……ぬいぐるみだから、遊び終わったら捨てるの?


 魂が宿っているから、ただのものじゃない。一度でも命が宿ったのなら、ぬいぐるみや人形を簡単に捨てたらだめだよ。後で、養母様おかあさまに、ぬいぐるみのことを聞いてみよう。



 風が強くなって、海から流れてきた白い霧が、大きな岩を隠していく。飛べない真っ白の小鳥は飛ばされない様に、身を縮めて丸まっています。



 強い風で、白い雲が流れていく。


 この子が見上げると、上空では数匹の大きな鳥が飛んでいました。猛禽類かな? この子を狙っているのかもしれません。遠くから見れば、ちょこちょこ歩く小鳥にしか見えないので。


 白い雲と霧によって、猛禽類と思われる鳥たちの姿も見えなくなりました。私は、日記を書きながら……後ろから抱きしめてくれている、養母様おかあさまに話しかけます。



養母様おかあさま、この子はとてもかわいいです。

 かわいいのですが……もう進めないみたいです。


 養母様おかあさま、これからどうしましょう?』



『グローリア、大丈夫よ。今、いいことを思いついたから。

 成功するか分からないけど、試してみたいことがあるの。


 テラの大樹に気づかれるかもしれない。


 上手くいけば、光の大樹に捕まる前に、

 逃げることができるはず……。』



養母様おかあさま、危険なことではないですよね?』



『大丈夫よ……じゃあ、試してみるね。』



 精霊魔術で養母様おかあさまにくっ付く、わたし。養母様おかあさまの星の核に、ある変化が起こりました。養母様おかあさまの星の核に、神生紀の文字に魔力が付与されたもの、神聖文字が刻まれています。


 養母様おかあさまの神聖文字が解放。招魂魔術によって、丸まっている小鳥から黒い文字が現れる。黒い文字は幾つもの円を形作って、魔法陣を形成していきます。


 霧の世界フォールの神聖文字。養母様おかあさまに教えてもらっていたので、私にも分かりました。あれは烙印。養母様おかあさまが敬愛する女神様の聖痕を真似って創られたもの。



 名も無き神の極星魔術―色欲の烙印。


 極星魔術。人や魔物が使用することも、比較することもできない最強の魔術。養母様おかあさまは、私たちがいる秘密の遺跡……この場所を使って、極星魔術を行使しています。



 迷い星テラの外にある、秘密の遺跡がある衛星。


 養母様おかあさまは堕落神です。霧の世界フォールの第十一惑星だった、氷の惑星、名も無き星を依り代にされている。


 依り代の名も無き星は壊れていません。依り代の星間循環システムも……養母様おかあさまは、自身のシステムで、遺跡がある衛星を乗っ取っているそうです。


 迷い星の光の大樹にとって、養母様おかあさまの星間循環システムは、未知のシステム。星の外からの魔術の行使であれば、テラの大樹は気づけません。さすが、養母様おかあさまです。



 未知のシステムでも、大樹の庭である迷い星の中で魔術を行使すると……未知の何かが星の中に入り込んだと、大樹に気づかれてしまいます。


 養母様おかあさまの代わりに、ぬいぐるみ達が捕まってしまいました。やっぱり、テラの大樹は厄介です。いつか、水の都ラス・フェルトに侵入して、ぬいぐるみ達を助けてあげたい。



 養母様おかあさまの色欲の烙印の中で、飛べない小鳥が丸まっている。養母様おかあさまが、私に教えてくれました。



『グローリア、大きな鳥が攻撃してくるから……。

 怖かったら目を瞑ってね。』



『? 上空にいた鳥に、色欲の烙印を使われたのですか?』



『うん、そうだよ。

 大罪の色欲。敬愛する女神様は、

 女神の魅了を使って、天の創造主さえも騙そうとされた。


 上手く使えば……男を魅了するだけではなく、

 もっと昇華したものになる。


 が、そう言っていたわ。』


 

『?……怖い青い瞳の子ですか?』



 ガシッ! バサバサ……飛べない真っ白の小鳥の視界が、大きく揺れた。地面がどんどん離れていく。小鳥のぬいぐるみが顔を動かすと、自分の体に食い込む大きな爪が見えた。


 養母様おかあさまは、何もなかったかの様に、平然と話し続けます。



『12枚の白き翼をもつ、女神様のご息女。

 希望の魔女様ではないのに……怖い青い瞳の少女。


 私は、あの子には会いたくないわね。』



 小鳥のぬいぐるみは、猛禽類の大きな鳥に捕まっていて、飛ぶことができる大きな鳥は、どんどん羽ばたいて大きな木々を越えていく。



養母様おかあさま、小鳥さんが……。

 あの、古代の遺跡から離れていってしまいそうですよ?』



『そうだね、少しだけ離れそうね。


 実は、別のぬいぐるみがね……。

 を見つけてくれたの。



 それは、古代の遺跡の方へ近づいてきている。


 怖いものだから、あの遺跡に入る前に確認しておきたいの。

 この大きな鳥には、頑張って運んでもらいましょう。』



『そうですか、分かりました……。』



 猛禽類の大きな鳥は、白い霧の中を迷うことなく進んでいく。霧の下は、透き通る青い海のはず……そして、それは、突然やってきた。



 白い霧の中に何かある。とても大きなもの。人工的な明かり? あれは、人や魔物が作りだした光だと思う。霧の中に、空中に浮かぶ何かが、確かにそこにあった。



 それは大きな岩の塊。小山と言える程大きい。


 大きな岩の塊が空に浮かんでいる。岩石魔術? 何かの魔術だと思うけど……空中に浮かぶ巨石の塊の上に、大きな木が根をおろしていた。



『!? 綺麗です、凄いです!

 養母様おかあさま、あれは街ですか!?』



 空を飛ぶ大きな木。テラの大樹とは関係がないみたい……浮遊する大きな木は、普通の木で魔晶の木ではなかったから。


 空を飛ぶ大樹の幹や枝の上に、温かい光が灯っている。よく見ると、誰かが建てた小屋が幾つもあった。



『あれが霧の中に現れたのを、一度だけ見たことがある。

 ほんの少しだけ……どうしようかな。



 白い霧が運ぶはずがない。きっと、怖い青い瞳の少女が運んだ。

 必要なものを、迷い星テラに集めている……。


 あの子の狙いはなにかしら。』




『?……養母様おかあさま

 私にはさっぱり分からないです。』



『グローリアは、今は分からなくていいのよ。

 そろそろ、ここで降ろしてもらいましょう。


 街があるのなら、舗装された道もあるはずだから、

 この子の小さな足でも、大丈夫でしょう。』



 養母様おかあさまがそう仰ると、小鳥のぬいぐるみを運んでくれた、大きな鳥が足の力を緩めました。



 飛べない小鳥が、ひゅーと下に落ちていく。大きな木の葉っぱや枝にぶつかりながら、どんどん下に落ちていきます。



 ぽてっと街の通りに落ちました。飛べない真っ白の小鳥は、むくっと起き上がって、ちょこちょこ歩いていきます。


 やっぱり、ここは街でした。人型の生き物が歩いています。



 人型の生き物の言葉が分かりません。養母様おかあさまの故郷、魔物の大陸に住んでいた魔物かなと思いましたが……どうやら、違う様です。見た目は、猫の様な耳と尻尾が生えているので、獣人に見えるけど。



『迷い星フィリスやテラではない。

 地獄に落ちた星の住人……猫の獣人。


 フレイの砂の星を砕いた、光の輪っか。

 やっぱり、あの怖い青い瞳の子と関係がありそう。』



『……………。』



 私には分からないので、養母様おかあさまの邪魔にならない様に、黙ることにしました。


 飛べない真っ白の小鳥が見てくれているもの、猫の獣人たち、小屋や大樹の幹……あと、レンガ造りの古民家や教会がありました。忘れない様に、私の日記帳に猫の獣人の街を描きます。


 あとで、文字をつけ足せるので、街の景色を描くことに集中する。霧の中に浮かぶ、大きな木。そこに猫の獣人が住む街があったんですよ!? 



 私はワクワクしながら、色んなクレヨンも使って、頑張って描きました。



 でも、私の手がピタッと止まります。飛べない真っ白の小鳥が、ある少女を見つけたから……その少女の瞳は、青い瞳でした。



 私は青い瞳の少女を見た時、ある人形のことを思い出しました。銀色の髪に白い手足、海の様に透き通る青い瞳をもつ少女のことを。



「かわいい小鳥。だけど……。

 かわいそうに、烙印が刻まれているの?」




 金色の髪に、青い瞳の少女が近づいてきます。


 私が知っている、人形の少女じゃない。この子は猫の獣人でもない。獣人たちが着ている服とは違い、緑色の帯にふわふわとした白いスカートを着ています。


 小鳥のぬいぐるみは、この子に捕まりました。この子の両手の中で、大人しく丸まっています。金色の髪に青色の瞳の少女は……小鳥を見ながら、ぽつりと呟く。



「烙印……色欲かな。天の神様から、

 七つの大罪の保持者を、狩る様に言われているの。


 色欲の保持者、貴方はどこにいるの?」




 私は戸惑っています。

 

 白い手足に銀色の髪。海の様に透き通る青い瞳をもつ、霧の人形……あの子のことを思い出してしまったから。そう、あの子は、ただの人形じゃありません。


 体が弱くて、よく咳きをしていた。少し歩くだけで、ふらついて倒れてしまう。あの子は人形だったけど、私にとって大切な妹。



 希望の魔女ノルン。あの子は、私の大切な妹でした。それなら……私はいったいだれ? 私は養母様おかあさまの娘、グローリア。



 私は、白い瞳の■■■・グローリアです。誰か、私の名前を教えて下さい!

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