第73話『白い瞳のグローリアの冒険。三大魔王―幽鬼シャノンの影を追って……①』

 私は、白い瞳のグローリア。私は、迷い星テラの外にある秘密の遺跡にいる。養母様おかあさまが、遺跡の庭園へ案内してくれました。


 そこには鉄とガラスでできた、ドーム状の大きな屋根があります。足元には、小さな草や花が咲いていて……昼間なら、太陽の光が降り注いで、居心地の良い場所になるのでしょう。


 

 この遺跡を造った、テラの古代人の憩いの場。


 私は吸血鬼なので、太陽が嫌いです。特に白い太陽が憎い。きっと嫌なことがあったのだと思います。白き太陽を憎む理由は、思い出せませんが……。



 今は夜。嫌いな太陽は迷い星テラに隠れている。


 見上げれば、迷い星テラと白く発光している霧が見えるだけ。白い霧とは別に、黒い霧も存在しています。だけど、真っ黒な宇宙と同じ色なので、どこに黒い霧があるのか、私には分かりません。




 ここは、秘密の遺跡の庭園。


 迷い星テラの鳥や虫の声は聞こえない。でも、迷い星の土や草、花の香りはします。私は養母様おかあさまの手を握りながら、綺麗な草花に囲まれながら、ゆっくり呼吸をする。遺跡の中にいて感じた、鉄の冷たさはここにはない。


 星の息吹を感じ取れて、とても落ち着いた。真っ暗な闇の中から解放されて、太陽がいない空の下で自然を満喫するのはいい。私たち、吸血鬼でもね。



 遺跡の庭園の中に、暗闇の中に青く光るものがある。大小様々な魔晶石が、円になる様に草の上に置かれていて……その円の中に、柔らかい布が置いてあった。


 養母様おかあさまが座り、私も同じ様に座ります。養母様おかあさまが、後ろから私を抱きしめてくれました。



『グローリア、私はこれから招魂魔術を行使します。

 シャノンちゃんがいた場所に近づくからね。


 グローリアは、精霊魔術を行使できるかな?

 私の魂に近づこうとしてみて……。』



『分かりました。精霊魔術を試してみますね。』



『うん、でもね、グローリア。

 絶対に、招魂魔術を行使したら駄目だよ?


 私のあとを追う形になって、迷い星テラの中に入ってしまう。

 私が見ているものを見せてあげるから……絶対に、ここにいてね?』



『うん、養母様おかあさま、大丈夫です。』



 私の白いリボン。少し緩んでいた様で、養母様おかあさまが撫でながら、私の黒髪を優しく束ねてくれた。



『じゃあ、始めるね……。

 グローリア、シャノンちゃんを迎えに行こう。』



『私も、微力ながら頑張ります!』



 堕落神―名も無き神。私の大切な養母様おかあさまは、招魂魔術を行使していきます。同じタイミングで、私も精霊魔術を行使。養母様おかあさまの大きな魂に近づき、私の視界は真っ暗になりました。



 光のない無音の闇の中へ。


 暫くすると、養母様おかあさまの星の核から、膨大な魔力が流れ込んできました。光と音が戻ってきて、養母様おかあさまが見ている景色が、私の目の前に広がっていきます。




 ここは霧の異界ケイオスにある、迷い星テラ。


 嫌いな太陽の光が降り注ぐ。木々がまばらに生えている丘陵きゅうりょうに……養母様おかあさまが操る、小さなぬいぐるみがいた。ごつごつとした小石の横を、本当に小さなぬいぐるみが通り過ぎていきます。


 つぶらな黒い瞳と小さな嘴。顔やお腹は真っ白。翼や尾の色は黒色で、カップよりも小さい。細い黒い足は2㎝もなく……尾羽をいれても、15㎝程の小さな鳥でした。



 翼を広げることができない、小鳥のぬいぐるみ。


 小さな足で、少しずつ進んでいきます。乗り越えられないので、積み重なっている小石を避けます。


 落ちている数本の枝を乗り越えようとして、こてっと転倒。広げることができない翼を少しだけ動かして、何とか起き上がります。



 もちろん、この小鳥は飛べません。羽ばたくことができないから。


 真っ白の小鳥は仕方なく、数本の枝も避けます。この子は、必死に前に進もうとしてくれているけど、5m程しか歩けていません。



 近くに、テラの古代人が造った遺跡があります。


 その古代の遺跡の中に入るシャノン様を、別のぬいぐるみが見ました。シャノン様を見つけてくれたぬいぐるみは、テラの大樹に捕まってしまって……。



 養母様おかあさまのぬいぐるみ達が手に入れた、色んな情報。この丘陵きゅうりょうにある川や池の場所。いくつもの川が流れ込む大海。古代の遺跡に繋がる洞窟。遺跡の鉄の屋根が崩壊してできた、縦穴の場所さえも見つけてくれました。



養母様おかあさま、この子は小さいですね……。』



『そうね、でも、このエリアにいる子はこの子だけ。


 別の人型のぬいぐるみは、

 テラの大樹が、水の都に連れていってしまったから。


 草の中に隠れて……この子は小さいから、

 見つからなかったのでしょうね。』




 養母様おかあさまのぬいぐるみ達は、小さくても優秀です。


 有益な情報を、危険なものを見つけてくれるから……別のぬいぐるみ達の記憶。過去の景色の中で、地面に転がっている、トカゲに似た人型の魔物の死体。


 丘陵きゅうりょうにある古代の遺跡は海の近くにあって、その海岸に危険なものがあった。三大魔王の1人―狂王の軍勢がいたのです。


 二隻の大型の木造船が停泊。船には数人の狂王の兵士がいるだけです。古代の遺跡に近づくにつれて、狂王の兵士の死体がどんどん増えていきます。


 シャノン様は、狂王の兵士から逃げる為に、古代の遺跡の中に……まだ、狂王の兵士の生き残りはいるでしょう。



 なるべく早く、遺跡の中に入りたいです。飛べない真っ白の小鳥は、ちょこちょこ足を動かしてくれています。だけど、殆ど進めていません。この子は、とても小さかったから。



養母様おかあさま、この子は小さすぎます!』

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