第4章 戦乱の幕開け。再生と破壊をもたらす勝利の双剣は・・・誰の手に?

第71話『迷い星テラにて…白い瞳のルーン、迷子になる。』

 ここは、。霧の世界フォールの領域が拡大して、異界は悪魔の女神の霧にのみ込まれてしまった。



 異界と霧の世界フォールがくっ付いた、この新しい世界。


 白と黒の霧の中で、悪魔の軍勢が行軍する。新しき霧の女神に、人や魔物の魂を献上する為に……この新しき世界を、と呼ぶことにしよう。



 ここは、霧の異界ケイオスにある迷い星テラ。この星の中にあるどこかの森の中で、彼女は目を覚ました。



『?……あれ、ここどこ?』



 私は白い瞳のルーン。私は、優しいお母さん―女神の影ノルフェの言うことを聞いて……役目を果たした。ノルンの傍から離れるのは辛かったけど、天の創造主に勝つ為に必要なことだった。


 だから、後悔はしていない。これで、ノルンが幸せに暮らせるのなら……ノルンが可哀そうだったのが、今でも心苦しいけど。



『後悔していない?……本当に?』



 私は真っ暗な場所にいる。何も見えない。何も聞こえない。



 ただ、私という存在がいることだけが分かった。『私が生まれた時と似ているかな……考えることはできるから、まだましかも……でも、ノルンがいないから。』




『私は死んだのかな? 

 ここは地獄? それとも天国?



 どっちも違う気がする。私だけ……ここに。

 私だけ、どうしてここにいないといけないの?



 このまま、ずっと一人は嫌。

 ノルンに会いたい。ただ、会って……。』



 しーんと静寂に包まれていて、無音が支配している。このまま、何も考えない様にすれば、きっと楽になれる。



 今、考えることもやめてしまえば、私の存在は消えてしまうかもしれない。



『消えたくない……ノルンに会いたい。』



 なら、どうすればいい? できるだけ、足掻いてみよう。最後まで頑張ればいい……私の魂はここにいる。この無音の闇の中に存在しているのなら、魂を用いて魔術を行使せよ。


 砂の星で、堕落神の聖母フレイが教えてくれた。みっともなくてもいい。無理でも足掻きたい。天の創造主に馬鹿にされたっていい。



 私はまだ生きたい。まだ死にたくない。私はノルンを守りたい。あの子を、天国まで連れていきたいから……私は魂を用いて、精霊魔術を行使した。『何でもいい、今は情報が欲しい……ここはどこなの?』



 システムーノルニル、起動。ピッ……ピ、ピッ!……システムが起動して、何かを計算していく。



 ※テラの大樹、テラ・システム。

 希望の聖痕(100) = ノルンの希望(50)+天の創造主の神具(50)。


 ノルンとルーンの同化が中断されています。




『!? テラ・システム……ここは迷い星テラ?

 それなら、ノルンの近くに―。』



 私の思考は、そこで止まる。テラ・システムが、予想外の結果を、私に伝えたから。システムが計算を続けて……。



 ※テラ・システム。

 再生の聖痕による、時の女神の娘の治療が中断されています。


 時の女神の娘ノルン―天の創造主、知恵の聖痕を保持。

 全知全能(欠落)、(計測不能:∞) → 悪魔の女神に譲渡中。




『!? 治療が中断?……なんで、どうして……。』



 悪魔の女神の計画が失敗した。時の女神の娘の治療ができていないから……あの子は止まらない。天の創造主の計画が進んでしまう。



 あの子は、知恵の聖痕を保持している。女神の影ノルフェが負けて、聖痕を奪われてしまった。女神の影ノルフェはいない。もう、優しいお母さんは存在しない。



 女神の影は自由に動けず、悪魔の女神の神聖文字(神生紀の文字に魔力が付与)として存在しているだけだろう。




 女神の神聖文字として存在している。


 そう、今の私と同じ様に……私も負けたのだ。創造主に勝てなかった。『私は、あの子を癒せなかった。私はあの子を救うことができたはずなのに……。』



 テラ・システムは、私の状況について教えてくれる。



 ※テラ・システム。

 再生の聖痕 → 創造主の神具、勝利の剣レーヴァテインに付与。


 ※再生の聖痕、危険な状態。魂がとても不安定。

 強欲の烙印(50) →ルーンの強欲(50)のみ、減少・消滅の可能性あり。




『そっか……このままだと消えてしまう。

 創造主の神具に付与……嫌だな、怖いな。


 天の創造主は嫌い、怖い。このまま消えてしまえば、

 創造主に操られることはないけど……。』



 無音の闇の中で、私は考えるのをやめない、思考し続ける。私はまだ死にたくないから。守りたいものがまだあるから……。



『でも消えたら、ノルンに会えない。

 時の女神の娘を癒すことができなくなってしまう。


 あの子を助けることができない。

 それは嫌……やっぱり、嫌だよ。



 私は役目を果たしたい。

 あの子を救いたい。


 私は……ノルンを助けたい。 

 ノルンと一緒に生きたい!』




 無音の闇の中に、小さな光が灯る。


 私の幼い魂だ。神聖文字が、一点に集まって光を放っている。存在するのであれば、どんなものにも魂は宿る。魔力を帯びた神生紀の文字でさえ……。


 魂の光が強くなって、私の思いがどんどん強くなっていく。『後悔していない? 私の嘘つき……未練の塊だよ。』




『テラ・システムよ、私の声を聞いて!

 システム―ノルニルで、私の周囲に呼びかけて。


 何でもいい、誰でもいい……。

 女神の魅了で、私に引き寄せて!


 お願い、誰か……私の声を聞いて!』




 ※テラ・システム。

 悪魔の女神が譲渡したスキル……女神の魅了の効果が発揮されました。

 対象の接近を確認。



 無音の闇の中で、ルーンの魂だけが光っている……何も変わらない。何も聞こえない。『システム―ノルニルは起動し続けているから、このまま待つしかない……大丈夫、私なら耐えられる。私は女神の神聖文字……。』




 それから、どれぐらい経ったか分からない。


 変化は突然やってきた。




『!?……これは珍しいものを見つけました。

 色や形が変わる、不思議な剣ですね。


 女神様の神聖文字? うーん、ちょっと分かりませんね。』




 誰かの声が聞こえた。女性の声……私は喜んで、すぐに声を出す。このまま気づいてもらえなかったら、二度とノルンには会えない気がしたから。



『ごめんなさい、助けて下さい!』



『!? え、剣が喋った……変な剣ですね。』




『え?……やっぱり、剣に付与されている。

 喋る剣に見えるんだ……。


 あの、済みません、助けてくれませんか?

 この剣の中から出られなくなってしまったんです。』




『?……剣から出られなくなったんですか?

 確かに魂の反応はありますね……。


 面白い。私も困っていたところなんです。

 これも何かの縁です。お互い、助け合いましょう。』




 ※テラ・システム、招魂魔術の行使を確認。

 女神の魅了の対象……星の核を保持、堕落神と判明。




 女性の声が聞こえると、突然、光と音が戻ってきた。眩しくて煩い……暫くしたら、周囲の状況が分かるまで慣れてきた。



 ここは、どこかの森の中。


 一本の剣から離れて、私の魂が光りながら、ふわふわと浮かんでいる。どうやら、私の神聖文字の一部が剣の外に出た様だ。



 草の中に、不思議な剣が落ちている。


 この不思議な剣には、一定の姿形がない。液体の様に存在しているのに、細長い剣に見える。色も金色から銀色に、そして、透明になったりしていてよく目立つ。『周囲は森……普通の剣だったら、誰にも気づかれなかったかも……。』




 ※テラ・システム、創造主の神具の出現場所を確認。

 再生をもたらす勝利レーヴァ双剣テインの一振りだと判明。




 太陽の光が眩しい。木々の間から陽の光が差し込み、木々の緑の葉っぱが、風に揺られている……とてもほのぼのとした景色で、鳥や虫の声も聞こえてくる。



 私は、声をかけてくれた女性を探した。不思議なことに、周囲に人や魔物はいなかった。『? あれ、女性がいない……どこにいるの?』



『えっと、どこにいらっしゃるんですか?』



『ここですよ。もっと下を見て下さい。』



 私は、精霊の様な小さな光になって浮かんでいて……言われた通りに下を見た。よく見ると……不思議な剣の近く、草の中に何かある。表面の茶色の毛はふわふわしていそう。『え?……!? もしかして、このクマ?』



 そう、茶色のクマのぬいぐるみ。30~40㎝くらいのクマのぬいぐるみが、草の中に座っていた。短い手をぱたぱたと動かしながら……。



『はい、クマのぬいぐるみです。』



『ぬ、ぬいぐるみが喋った!? 

 なんで、どうして喋れるんですか?』




『え~、そこ気になります?

 貴方も剣なのに喋っているじゃないですか……。



 うーん、貴方は剣ではなく……。

 女神様の神聖文字ですか?



 まだ、よく分かりませんが……不思議な剣の精霊さん、

 お会いできて、光栄ですよ。


 私は……名も無き神。“名無し”とお呼び下さい。』


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