神の間「時は満ちた。七つの元徳よ、具現せよ。」
時は満ちた。霧の七つの元徳が現れる……これ以上待つ必要はない。小さな、小さな星を壊して、物語を進めていこう。
私は天の創造主、全知全能なるもの。
私の瞳や手は大き過ぎて、天国や地獄を含めたあらゆる世界の中に入ることができない。堕落神―聖神フィリスと時の女神の娘ノルンを使って、小さな世界に干渉している。
私は世界の外にいた。天国にいた小さな神々は、私がいる場所を高みと呼んだ。高み、世界の外……真っ黒の空間で、ここには何もない。時や空間もない、魔力もない。虚無、この言葉がぴったりだ。
ここは小さな星の様に、生存しやすい環境ではない。私が天国から運んだ小さな神々も、自分の存在を維持できず、殆ど壊れてしまっている。
生き残っている天上の神々は、チカチカと光を放っていた。
真っ黒の空間の中で光っているので、綺麗ではある。ただ小さいので、よく見ようとすると疲れてしまう。
天上の神々の中で、一番強い光を放っているもの。彼女は光の女神―フェルフェスティ……彼女は壊れずに、なんとか自分の存在を維持できていた。
フェルフェには役割がある。こんな所で壊れてしまったらとても残念。
私にも疲れるという感覚はある。ただ、それは疲れという不要な感覚を保有することができるということで、いつでも捨てることができる。
私が疲労に襲われることはない、ただ感じるだけだ。
私には必要ない感情である、喜びや嘆きなどを理解することはできる。
ただ、人や魔物といった小さな生き物の思いを理解しても意味がないので、私は無視するだけ。人や魔物の思いを理解しても、私の計画に何の役にも立たない。
私は、大きな瞳と手をもっている。
天の創造主の本体―
真っ黒の虚無の中で、私の魔力が集まり、光の眼を形成して炎の様に輝く。
私はとても喜んだ。やっと、私の目の前に現れたから。天国と地獄を創ってから、あらゆる世界や星々を見た。あらゆる者の未来が見えた。
正気を失った悪魔の女神でさえ、私を上回ることができていない。悪魔の女神ではなく、別の者が……私は待ち続けて、やっと、自分の意思を上回るものが現れた。
希望の魔女ノルン。それは、未来のことであるけれど、白い人形のノルンにはとても大きな可能性がある。
そう、役目を果たす者たち、物語の主役たちには大きな可能性がある。だから、私は彼女たちを傷つけて、手も差し伸べる。私の望みを叶えて欲しいから……私を殺せる者が現れて欲しい。
私の
見ようと思えば、あらゆる世界を見ることができる。外から中にある世界を覗くだけなので、それ程、難しいことではない。
私の両手は、天国と地獄を支えている。だから、天国の左手と地獄の右手と名付けた。私の左手で支えないと、天国は浮き上がって、真っ黒の虚無までくると崩壊してしまう。
私の右手がないと、地獄にある星々だけでなく、霧の世界フォールや異界にある星々も一気に落ちてしまう。私がいる虚無の空間まで……。
コップの中に水を入れて、コップの底が無くなったらどうなるかイメージして欲しい。私の左手は世界の蓋で、私の右手は世界の底なのである。
地獄に落ちた落下星が、私の右手にぶつかり続けていて、右手の表面に炎の海ができている。
天上の神々は、地獄の下層-灼熱の海と呼んだ。天上の神々でさえ、世界の外にいる私が大き過ぎて……世界の底の全体像をつかめていない。
白い人形の物語の主役たちが、私の右手-世界の底の近くに集まっている。ここまで近いと、握りつぶさない様にするのが一番難しい。
さて、そろそろ小さな星を破壊しよう。
私は地獄の中層―星々の灰を見た。小さな、小さな星々が浮かんでいる。聖フィリスの白き光の柱が、砂の星を襲っていた。
私は時の女神の娘ノルンを使って、堕落神-聖母のフレイの依り代、砂の星を破壊する。獣人の星の中で、時の女神の娘ノルンは、左腕を横に伸ばした。創造主の膨大な魔力が、天の神の左腕から放たれる。
私の最強の剣―時の
《天の創造主の時の魔術、
極星極界魔術―創造主の神具、時の
天の神によって、時が断絶された。創造主の膨大な魔力が、時を切り裂く。そして……地獄に落ちた獣人の星から、放たれた光の輪は、宙をかけて砂の星を両断。いとも簡単に砂の星が粉々になった。
聖神フィリスの白き光の柱にのみ込まれて、砂の星の残骸が地獄の下層へと落ちていく。真下にある迷い星フィリスにも、隕石となって落ちていく。
私は聖神フィリスを使って、白き光の柱を止めた。
このまま、光の柱が迷い星フィリスも襲えば、小さな者たちが死んでしまう。せっかく、七つの元徳の保持者が揃ったのに……私の手で消してしまっては、今まで待った意味がない。
聖神の白き柱も消えて、地獄は暗闇に包まれていった。地獄の下層―灼熱の海が、地獄に落ちた小さな星を淡く照らす。
聖母フレイの依り代が消えて、聖母の極星魔術―重力の門も消えた。小さな星がどんどん落ちていく。地獄の下層-灼熱の海、私の右手まで……。
このままだと、地獄に落ちた人や魔物が絶望してしまう。時の女神の娘ノルンを使って、言葉を紡いであげよう。
迷い星フィリスにいる、聖母の代弁者ミトラは……砂の星が破壊されたことで、白い霧の愛に手を伸ばした。狂信者デュレス・ヨハンは、迷い星テラですでに再誕している。
もし、七つの元徳の保持者たちが死んでも、再誕させることはできる。
でも、生存できる星がなければ、保持者は簡単に死んでしまう。最悪の場合、保持者の魂が壊れて、七つの元徳が消えてしまうかもしれない。
その点において、聖神フィリスや狂信者デュレス・ヨハンは素晴らしい。もう既に魂は壊れているので、これ以上壊れない。何度死んでも……壊れていても、自分自身を維持でき、元徳の正義や信仰を失わない。
聖神フィリスや狂信者デュレス・ヨハンが死んだら……また、彼らを
さて、これで霧の七つの元徳が揃った。
私の計画を進めよう。私は、時の女神ノルンを使って言葉を紡ぎ、七つの元徳の保持者たちに語りかける。
《私は天の創造主、七つの元徳の保持者たちよ。
私の声を聞いて、汝の役目を果たしなさい。
悪魔の女神の娘―白い人形のノルン、希望の保持者よ。
迷い星テラで戦乱が起きる。幼き人や魔物の子らに、
平和という希望を……いつか私の願いを叶えて欲しい。
狂信者―デュレス・ヨハン、信仰の保持者。
迷い星テラで戦乱が起きる。貴方の信仰を貫き、
幼き人や魔物の子らに戦争という絶望を……。
堕落神―聖神フィリス、正義の保持者。
貴方の正義を示しなさい。貴方の役目を果たし、
迷い星フィリスを襲う、霧の悪魔たちに死を……。
聖母の代弁者―ミトラ・エル・フィリア、愛の保持者。
貴方の愛を示しなさい。貴方の役目を果たし、
迷い星フィリスを襲う、聖神の騎士たちに死を……。
雷撃の獣人―ラル・トール、勇気の保持者。
貴方は私の狩人、七つの大罪の保持者を狩りなさい。
節制の保持者フェルと共に……。
光と悪魔の子―フェル・リィリア、節制の保持者。
貴方は私の狩人、七つの大罪の保持者を狩りなさい。
勇気の保持者ラルと共に……。
そして、悪魔の女神―時の女神ノルフェスティよ。
貴方は知恵の保持者。その知恵で、私の願いを叶えて……。
世界を壊すほどの怒りと悲しみで、私を殺しなさい。》
時の女神の娘ノルンはさらに、言葉を紡いでいく。
天の創造主の声は、救済を望む人々にも届いた。膨大な魔力を使って、自分の声を、地獄に落ちた星々にも響き渡らせていく。
《幼き子らよ、我の子を聞け。
我は天の神……其方たちを導くもの。
幼き人や魔物の子らよ、
聖人フィリスの言葉を思い出せ。
忘れるな、人の子よ。七つの罪を。
傲慢、憤怒、嫉妬、怠惰、強欲、暴食、色欲。
再び罪を犯せば、天の神は灼熱の炎を落とすだろう。
思い出せ、人の子よ。七つの元徳を。
知恵、勇気、節制、正義、信仰、希望、愛。
擦れば、人の栄華は終わらない。
忘れるな、人の子よ。
七つの元徳と罪は、其方らに宿っている。
恐れよ、人の子よ。天の神は其方らを見ている。
忘れるな、人の子よ。天の神の怒りを。》
終末の中で誰もが宙を見ている。時の女神の娘ノルンは示す。彼女は、絶対者である天の神。星々を生み、そして、星々を破壊する創造主であることを……。
天の神は、あらゆる世界を思いのままに変えていく。天の創造主を止めることができるものはまだいない。全てが、私の思いのままだ。
また、聖神フィリスの白き炎が一つに集まっていく。
《天の創造主の時の魔術、極星魔術―
我が子、幼き世界の
地獄の中層―星々の灰に、再び白き太陽が現れた。今度は、聖神フィリスの白き炎は球体となり、文字通り太陽になった。
フィリスの白き太陽は、地獄に落ちた小さな星々を照らしている。
さてこれからも、七つの元徳の保持者たちに呼びかけよう。
汝の役目を果たせと、私の魔力を使って、七つの元徳を具現せよと……さあ、物語の主役たちよ、昇華せよ。各々の信念を貫け。
私を殺せるまで強くなれ。守りたい者の為に、私を殺しなさい。私を殺すことができなければ、私の手の中で、小さな世界は滅びるだけなのだから。
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