第66話『青のお嬢様ノルンは、白き人形に課せられた役目を知る②』
私は白い人形のノルン。
銀色の髪に白い手足、海の様に透き通る青い瞳……ひ弱な体に戻ってしまったので、フィナの手を握っていないと歩くのも不安。私を引っ張ってくれる、メイドさん。いつも私の味方をしてくれた、フィナが連れていってくれる。
6年前と同じ様に、白亜の城の外に……あの時のフィナは霧の悪魔だった。今は背が縮んで、白い犬の耳と尻尾が生えた獣人になっている。
私たちの大切なメイドさんは、姿形が変わっても、私たちの傍にいてくれる。『フィナ、本当にありがとう……私は、フィナに出会えて本当に良かった。これからも、よろしくね……私たちの大切なお姉さん。』
私の魂―星の核に、再生の聖痕が刻まれている。
もう一人の私である、白い瞳のルーン。彼女は、私とフィナの後ろを歩いていた。フィナは手を繋いでいて欲しかったけど、ルーンが手を放してしまった。
ルーンは何かを考えている。そして、何かを見ている。私やフィナには見えないものが……再生の聖痕にだけ見えているみたい。
さっき、ルーンに気になることを聞いてみたけど、教えてくれなかった。『システム―ノルニルの影響?……ここまで一緒にきて、また隠し事するの? 私が希望の魔女から青のお嬢様に戻ったら、ルーンも背が縮んで……ルーンも、聖ちゃんに戻ってしまったの?
聖ちゃん、もう隠し事はやめてよ。伝えられなくなるかもしれないよ? 最後に、余計悲しくなるだけなのに……。』
『聖ちゃんのばか……。』
「? ノルン様?」
『フィナ、大丈夫。気にしないで……。』
獣人のフィナは一瞬立ち止まったけど……また、ゆっくり歩き始める。私が少しふらついていることに気づいて支えながら歩いてくれた。
大樹の城の廊下を歩いていると……フィナの白い尻尾が見える時がある。ふらふらと左右に揺れていて、スカートの裾からふわふわの尻尾がでてくる。
白い尻尾が気になって、触りたくなったけど我慢する。落ち着いて、ゆっくり過ごせる時がきたら、白い尻尾を触らしてもらおう。
私たちは、大樹の城のエントランスホールから城の外に出た。
城門付近に、白い太陽の光が射し込む。白い霧は、眼下に広がる街を覆っていて……古びたお城は、透明な大樹に覆われていた。
城の城門付近で、獣人のフィナが止まった。
白い霧に覆われた街が良く見えて、昼間でもとても綺麗だった……この景色はよく覚えている。私が6歳の頃、フィナが見せてくれた景色。
テラの大樹以外……昔の景色から、余り変わっていない。若葉色に光る透明な根っこが、民家や小屋に巻きついているけどね。
フィナに先導されて、街の中を歩いていく。
人や魔物は誰もいない。宿屋や酒場にも誰もいない。ここはゴーストタウン。この街に住んでいるものがいたら、たぶん精霊か霧の悪魔かな。
テラの大樹は、古代エルフ文明や神生紀文明の遺物を勝手に運んでいる。誰もいない雑貨屋の中は、ガラクタでいっぱいだった。
店の中に入らず、折れた剣や壊れた盾が街の通りに落ちていた。
透明な根っこが落ちている剣や盾を拾って、別のお店に運ぼうとしている。小さなものはまだいい。飛空船の一部かな? 巨大な何かが、民家の壁を壊している。
巨大な金属の塊、その重みによって……この大きな金属の塊は、街の小道を完全に塞いでしまっている。他の小道でも、同じ様なことが起こっているみたい。
もし、人や魔物がこの街に住むようになったら、テラの大樹にこの金属の塊を退かしてもらわないと。
「ノルン様、ルーン様、ここから転移しましょう。」
獣人のフィナがまた止まった。
天使の像がある噴水-街の広場まで来た。遠くで、鐘の音が鳴っている。鐘の音しか聞こえない……この街は、私の大切な街だけど、人や魔物がいないからとても寂しい。
私は、フィナの手を握りながら思った。『可能なら、この街に人や魔物を招待したいな。人や魔物の笑い声や、人や魔物の子供が遊んでいる声が聞こえてくる様になったら……もっと賑やかな街に。』
『フィナ、水の都ラス・フェルトでいいの?』
「はい、水の都の住人たちが待っていますよ。」
テラ・システム―クロノス。異界の門によって、私とルーン、フィナの姿が消えた。霧の世界フォールから、真上にある異界へ。
テラの大樹の故郷である迷い星テラに、私たちは現れた。
視界がはっきりしてくると、どこかの都の通りだと気づいた。私の横にフィナがいた。私はフィナの手を離さない。
白い瞳のルーンも、私たちの後ろにいる。
もう一人の私は、都にある教会の尖塔をじっと見ていた。昔のルーンは……ミトラさんから名前をもらう前の聖痕の少女―隠し事が大好きな聖ちゃんに戻ってから、ずっと黙っている。
若葉色に光る透明な根―テラの大樹が、住人たちの横を通り過ぎていく。都の住人たちの言葉が分かった……住人たちは、テラの大樹の根っこで繋がっていて、テラの大樹の知識を共有し合っているみたい。
テラの大樹は、私とフィナに近寄ろうとしない。これは都の住人たちと、ある程度の距離を保つため……テラの大樹は、私たちの安全を最優先に考えてくれている。
獣人のフィナが、私の手を強く握った。痛くはないけど、フィナが警戒しているのが分かった。『ありがとう、テラの大樹……フィナも、ありがとう。私は、こんなにも大切にされている……ルーン、頑張らないといけないね。私たちは最後まで。』
水の都ラス・フェルトの住人たちが跪いていて……住民たちの先頭にいた白髪のお爺さんが、私たちに声をかけた。
「天使様、我らを救って頂き、
誠にありがとうございます!
我ら聖フェルフェスティ教の信徒は……
ノルン様の手足となりましょう!」
あ、このお爺さん、知ってる。
水の都に来た時、豪華な椅子に座って、適当に大樹や白い狼の絵を描いていたら、このお爺さんに声をかけられた。『ここは水の都ラス・フェルトだね。でも、星が違う。惑星ラスではなくて……ここは迷い星テラ。』
水の都ラス・フェルトは白い霧に襲われて、宙から無数の光弾も降り注いだけど、多くの住人たちが生き残っている。泣いている人もいる。家族や知人を亡くした者も、いっぱいいる。
それでも、皆……私たちに怒りをぶつけない。なぜ、全員を助けてくれなかったのか、全員助けることができたはずだと誰も言わない。
皆、感謝を伝えてくれる。生き残れたことを、本当に魂から喜んでいる。周りの人たちから歓声が上がった。
私は決めた。悩んでいても仕方ない。甘えてもいいけど、甘えすぎてもだめ。私にしかできないことがある。私も、自分の役目を果たそう。
私は恵まれている。私を必要としてくれている人が、こんなにもいるのだから。
私は痛みを知っている。弱い者の苦しみを知っている。弱い者は、強い者に怯える日々。力が無いため、状況を変えられないもどかしさ……ひ弱な自分が嫌いだった。何もできなかった自分が大っ嫌いだった。
弱肉強食や自然淘汰という言葉がある。
弱い者は滅びる。それは自然なこと……でも、自然なことだと諦めるのはもう嫌。何もできず、泣き続けるのはもう嫌だよ。
私は恵まれている。それなら、それを活かさないといけない。弱肉強食や自然淘汰が嫌?……それなら、変えてしまえばいい。
ここは迷い星テラ。私の依り代……私の星なのだから。私は少し戸惑いながら、言葉を紡いでいく。この言葉を忘れない様に、魂―星の核に刻みながら。
『皆さん、私はもっと強くなります。
もっと強く……皆さんを救える様に。
私は奇跡を信じます。
誰も傷つかない、誰も不幸にならない。
私は、皆さんが幸せになれる世界を創りたい。
でも、私一人ではできません。
だから、皆さん、力を貸して下さい。
一緒に素晴らしい世界を……都を造りたいです。』
水の都の住人たちの歓声が大きくなった。隣にいるフィナの声が聞こえない。聖フェルフェスティ教会の鐘の音は何とか聞こえた。
迷い星テラは、私の依り代。私は皆を幸せにしないといけない。『ルーン、挑戦してもいいよね? 誰も傷つかない、誰も不幸にならない。不可能なことに聞こえる……絵空事だと馬鹿にされてもいい。だって、私は……。』
私は希望の魔女ノルン……皆に希望をもたらすのが役目だから。
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水の都ラス・フェルトの代表者たちが集まり、大論争になった……水の都の小さな広場に、白き狼の獣人がいる。
私は獣人のフィナ。栗色の髪に白い犬の耳と尻尾、青と白のフリルエプロンを着ているのでかなり目立つ。この街には魔物がいない。人の街で、メイド服を着ている唯一の獣人なので注目の的になった。
青のお嬢様ノルン様の絵。大樹や白い狼……ノルン様は、水の都ラス・フェルトに転移された際に、絵をお書きになられた。水の都の住人の言葉が分からず、意思疎通が困難だったから。
大樹と白い狼の絵を描いて下さったことで、私の存在を受け止めやすくなって……住人たちは私のことを、白い狼だと思っている。天使様の使いである白き狼が、人の姿に化けていると。
私は、集まっている代表者たちを見た。
小さな広場に用意された椅子に、殆どの者が座っていない。真上にある太陽の光は温かく、ほのぼのとした雰囲気になりそうだけど……両手を大きく動かして力説する者。相手を指さして怒鳴る者。
議論が熱を帯びてきた……水の都の代表者たち―三つの陣営は、血眼になって言い争っている。三つの陣営を簡単に言えば、①水の都の行政組織と②都の警備組織、そして、③聖フェルフェスティ教会の組織である。
どの陣営にも、怒鳴って非難だけする者がいる。この様な状況に陥ったのは、都の備蓄計画が間違っていたからだとか、産業用機械の生産にもっと力を入れて、機械の増産計画を打ち出すべきだったとか……。
しまいには神の怒りを買って、惑星ラスは滅びたのだから、都の住人も運命を受け入れて天に召されるべきだと主張する者もいる。
私はどの陣営にも属していないけど、聖フェルフェスティ教会の組織が用意した豪華な椅子に座っている。天使様の使いと認識されているので、私が教会の椅子に座っても不満を口にする者はいなかった。
皆が聖フェルフェスティ教の教えを受けている。最終的には、聖フェルフェスティ教会組織の主張が通るだろう。
私の隣には聖フェルフェスティ教会の司祭-“白髪のお爺さん”が座っている。白髪の司祭は何も喋らず、代表者たちの言葉に耳を傾けていた。
水の都の代表者たちは言い争っている。
無理もないかな。今まで、自分たちが住んでいた星が滅びて、自分の都以外の人間が亡くなってしまったのだから……水の都の備蓄-倉庫にある食料や水は、水の都の住人―約20万人に配給すれば、1週間でなくなる。
水の都の住人たちの故郷の星、惑星ラスでは、魔術の代わりに科学技術が発展していたけど……今の様な状況では、ラスの人の文明を維持するのは難しいと思う。
食料や水も問題だけど、天然ガスや石油などの燃料は3日で底をつく。他国から輸入していたから、自分たちで採掘することはできない。そもそも、都の中に採掘する機械がない。
3日後には、水道やガスのライフラインが止まる。
住民を総動員して、火を起こす為に必要なもの、大量の木の皮や細かい枝、それに
でも、たった1週間で、都の住人たちは大きな決断を迫られる。
住人たちの知識だけでは、生き残る為には先ずは狩猟と採取をするしかない。農耕ができる肥沃な土地を目指して、水の都を捨てて、新天地へ旅立つ必要がある。今、水の都は海の近くの草原にあるからだ。
海の近くでは、海水に含まれる塩分により種々の塩害が生じる。この場所は農耕には向かない……肥沃な土地を目指す旅は過酷なものとなり、高齢な者や体の弱い者は旅の途中で亡くなってしまうだろう。
自然に淘汰され、新世界に適応できた者だけが、迷い星テラの住人となって生を謳歌していく。それは自然なこと。どの星でも強き者だけが生き残る。
だけど、ノルン様はそれを望んでおられない。
自然淘汰? 弱肉強食? ノルン様は嫌がっておられる。弱い者が傷つき、不幸になるのは嫌だと……弱き者も幸せに暮らして欲しいと、迷い星テラの主神は望んでおられる。
迷い星テラでは、皆が幸せに暮らせる様に……ノルン様が、自然淘汰や弱肉強食を嫌がっておられるのだから、別の道を進むしかないね。
さて、私は皆に上手く示すことができるかな……全ての生き物が共存共栄する為に、人であることをやめる。水の都の住人とって、未知の道を。
都の住人たち―子供たちも、小さな広場に集まっている。
レンガ造りの古民家の窓から見る子供たちもいれば、古民家の屋根に上って、広場を眺める大人たちもいる。都の住人たちの目が、都の小さな広場に注がれていた。
強国グルムドの兵士たちに包囲された時……この広場は、都の女性や子供たちが自決するために集まっていた場所だったけど、今はここに集まっている住人たちは、とても生き生きとしていた。
ゴォーン、ゴォーン……近くで、教会の鐘が鳴り続けている。水の都は海の近くの草原にあり、警備兵たちが都の周囲を警戒していた。
都の住人とって、ここは未知の星。何が襲ってくるか分からない……警備兵の頬に汗が滴り落ちる、自然と鼓動が速くなる。
警備兵たちは深い呼吸を繰り返して、平静を保っていた。
都の代表者たちが小さな広場に集まり、議論が白熱している。一際大きな声が聞こえた。非難の声が聞こえなくなって……椅子に座っていた警備兵の代表者たちは、一斉に立ち上がった。
今から述べる者が、警備兵の隊長。
身長は高い、180以上はある……真っ黒の髪に盛り上がった筋肉、太い二の腕や太もも。整えられている黒い髭が印象に残った。
警備兵の隊長は、“髭の隊長さん”と呼ぶことにする。
警備兵の隊長-髭の隊長さんは、備蓄している全ての食料と水を配給して、都の住人たちを100人程度のグループに分けていき……ライフラインが止まる3日以内に、約2000のグループで、この都から離れることを主張した。
髭の隊長さんは言い切った。都から離れた場合、二度とこの都に戻ってはいけないと……水の都に執着すれば、グループ同士での争いが激化して、多くのグループが巻き込まれてやがて破滅するだけだと。
都を捨て、遠く離れた場所に行けば、住人同士の争いを抑えることができる。自然に淘汰されるが、水の都の住人の生き残りが、この星のどこかで人の街を再び造ると大きな声で述べた。
これに、行政組織側が反対した。
反対の一番の理由は、水の都を捨てること。1週間以内に、都を去らないといけないことは分かっているが……それでも、いつかこの都に戻りたいと思っている。
水の都ラス・フェルトを造ってきた者たちは、すぐにこの提案を受け入れることはできない。
私は杖を持った女性と目が合った。椅子に座って、私に微笑んでいる。彼女が持っている杖は、歩行用の杖ではない。歳も若く、足腰に特に問題はない様だ。
その杖のデザインはとても変わっていて、白と黒の蛇が、杖に巻きついている様に見える。蛇の頭と尻尾はないので、長い胴体だけ……装飾もされていて美しい。彼女の職位を表すものなのかもしれない。
行政組織側のうら若き女性のことを、“クスシヘビのご婦人”と呼ぶことにした。
警備兵の代表者たちも怒鳴り、怒号が飛び交い始める。まだ負傷者はいないけど、このままだと怪我人が出るかもしれない。
私はため息をついてから、大きく息を吸い込んだ。そして、全力で叫ぶ。
「静かに! 皆様、落ち着いて下さい!」
私の声が響いていく。次第に声が止んでいき、誰の声も聞こえなくなった。皆の眼が、私を見ている。私はもう一度、大きく息を吸ってから立ち上がって、前へゆっくり歩いていく。
注目の的になるのは慣れている。
軍国フォーロンドで、伯爵令嬢フィナ・リア・エルムッドとして過ごした日々。政治家や将校が集まるパーティに参加していて本当に良かった……私は、代表者たちの中心にきてから、ゆっくり話し始めた。
「皆様の未来に対する思いはよく分かります。
ですが、ここで団結しなければ破滅するでしょう。
天使様に救われた命、どうか無駄にしないで下さい。
生き残れなかった者も、多くいるのですから……。」
私に対して、怒号はとんでこない。私は、ノルン様の望み……テラの大樹の計画を、皆に伝えていく。
「生き残る為に、どうすればいいか……。
私は、皆様に提案したいと思います。
ですが、私の提示する案は、
すぐに鵜呑みにしていいものではありません。
よくお考えになって下さい。
皆様で、よくお話になって下さい。
私は、皆様が馴染みのないものを、お見せしようと思います。
これを……よくご覧になって下さい。」
私は、右手を横に伸ばす。
テラの大樹に呼びかけ、テラ・システムを起動する。テラ・システム―フェンリル、起動……私の右手の中に、一本の銀の剣が現れた。
どよめきが起こった、この都の住人たちは魔術を知らないから。科学技術を発展させて生き残ってきた。魔術というものは、小説の中でしか見たことがないだろう。
私は、銀の剣を持ちながら、都の代表たちに話しかける。
「これは魔術と呼ばれるものです。
魔術にもいろいろな種類があるのですが……。
重要なことは、迷い星テラでは、
魔術が存在するということです。
皆様が、この星で生き残るには、
魔術に頼るよりほかはありません。」
また、どよめきが起こる。都の警備兵たちからは、疑いの目で見られている。私の危険性を再認識したのかな……天使様の使いであり、魔術を行使する人外と。
「皆様が望まれるのであれば、
霧の世界フォールの魔術についてお話ししましょう。
奇妙なものに見える、魔術を拒否して頂いても構いません。
どう選択するかは、自由ですから……。
自由ですが、よくお考え下さい。
皆様が仲間割れをせずに、この星で生き残る為に、
この魔術……この奇跡を信じて下さい。」
「天の使い者よ、その魔術は、
食料と水を創り出せるのか?」
警備兵の隊長―髭の隊長さんが、私に直球を投げつける。食料と水の問題が解決できれば、水の都ラス・フェルトから離れる必要はないのだから。
「皆様が変われば……自然淘汰されずに、
生き残ることは可能とお答えさせて頂きます。
迷い星テラの魔力を使って、
比較的簡単に水は得ることができます。
食料は、森林魔術と呼ばれるものがあるので、
魔晶の木を育てれば、木の実を食すこともできるでしょう。
皆様には、魔晶の木は奇妙に見えるかもしれません。
奇妙な木を嫌うのであれば……。
都の近くの土壌環境を改善して、
稲や小麦を育てることもできます。
霧の世界フォールの奇跡。迷い星テラで、
魔術の源である星の水晶(魔晶石の微粒子)を循環させる。
星間循環システム……そう呼ばれています。」
『白き狼様、星間循環システムや星の水晶と言われても……。
残念ながら、信じる者は少ないでしょう。
私は、狼様の言葉を信じますけどね。
皆さん、白き狼様は奇跡とおっしゃった。
霧の世界フォールの奇跡を信じてもいいと思いますよ?
それしか、水の都を守る方法はなさそうですからね。』
行政組織側のうら若き女性―クスシヘビのご婦人がそう述べたあと、私に優しく微笑む。私の味方をしてくれるのは嬉しい。
私は深呼吸をしてから、はっきり述べていく。
「皆様に、はっきりお伝えします。
ここはとても重要なことなので、よくお聞き下さい。
私は、皆様に人であることをやめて頂きたい。
もう一度、お伝えします。
人間であることをやめて下さい。
生き残る為に、人から精霊に変わりましょう。
これが、今の状況の中で……。
皆様が幸福になれる唯一の方法です。」
人から精霊への変貌。私の言葉を聞いて、こう思う者もいる。「言葉が違うだけで、悪魔への変貌と意味は変わらない。我々を悪魔に変えるつもりかと。」
思った通り、私に対する怒号がとびかい始めた。
この提案がすぐに受け入れられるとは思っていない。今まで人として生きてきた歴史がある。聖フェルフェスティ教の司祭―白髪のお爺さんや、行政組織側のうら若き女性―クスシヘビのご婦人は、私を擁護してくれていた。
さて、話し合いは、まだまだ続きそうね。
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